21.思い出し赤面
※物語の都合上、テラディウス公国をテラディウス王国に変更しました。
「本日は各国の政治体制についておさらいをしながら、特徴を探っていきます。
ではまず、我が国ヤーデリウス国ですがご存じの通り王政を敷いています。遡ること約330年前、レックス家が…」
今は高等学校で世界史の授業中だ。
最近わたしは気がつくと6日前の王子との会談のことばかり思い出していた。
帰り際、王子はわたしの目前に立つと、
『次にあなたに会えるのはパーティーの日ですね。とても待ち遠しいです。それまで健やかに過ごせますよう。』
と言い、わたしの手をとるとほんの一瞬手の甲に口付けを落とした。
瞬間何が起こったかわからずにはい、と返事をしたら王子は微笑んで退室していってしまった。
直ぐに我に返って顔が一気に赤くなって、退出の挨拶をきちんとしなかったことに気付いた。あれは…
「次に我が国の北に位置するテラディウス王国。」
王子の国の名前にはっと授業中だったことを思い出して、少し恥ずかしくなった。
「テラディウス王国も王政を敷いています。
国の起こりは約310年前、テラディウス家が新国家としてテラディウス王国を興しました。
現在はレジーナ女王が治めていますね。テラディウス王国は長子相続制となっているためです。
王配はレジーナ女王の従叔父でもあります。この国では立派に王として務められるように一族内での婚姻を結ぶことが多く、王妃または王配が、王または女王に並んで共に治世しています。」
女王であらせられる王子のお母様はどんな方なのだろう。女王として重責を負いつつも、第四王子をお産みになったのだから、とても凄い方なのだろう。
「続いては大陸中央の大国、センタラル大公国。大公を君主としています。
国としての歴史は我が国とさほど変わりませんが、大公国となる前はそれぞれ5つの公国としてありましたので、長い歴史を持っています。
以前は5つの公爵家より順番に大公が選出されていましたが、現在では継承争いにより大公を選出するようになっています。しかしそのおかげか歴代能力の高い大公が国を治めるようになり、高い国力を…」
王子は何を思って手の甲に口づけを落としたのだろう?
やっぱりただ単に敬意を表すってことなのか?作戦のときにわたしの意思を尊重するって言っていたし。物語だと騎士が忠誠を誓うときにするものだけど、王子殿下だからあり得ないし。
それとも揶揄われていたのか?油断ならない人だからあり得なくはない。
「センタラル大公国に続くのはウェーカー公国。元センタラル大公国の一部でもありました、
しかし約100年前に大公国より独立し、元々のウェーカー公国となりました。ウェーカー公を君主としています。
ウェーカー公国は農業と畜産業が盛んで、代々君主の穏やかな…」
いけない、それより母のことだわ。
王子は父に作戦について伝えると言っていたけれど、ガブリエル大神官が母にも呪いがかかっていると診断してくれたことを父にも確認しておきたかったので、父と面会したのだった。それが3日前のことだ。
父も診断に立ち会っていたようで、呪いは母の身体が回復するのを妨げているけど命に係わるほど強くはなく、でも呪いが解けない限りはこのまま寝たきりであろう、と同じ内容だった。
あと父はわたしが穏便な作戦案を選んだことを感謝していた。醜聞を気にするというよりは異母兄と異母姉のことを気にしていたようだった。
「大陸最後の国はイーステンダ帝国。こちらは皇帝を君主とした絶対君主制を敷いています。戦乱の時代よりも前から続く最古の国でもあります。
君主号の序列としては皇帝は最上格でありますので、我が国の国王陛下よりも…」
母は死ぬようなことはないとしても元気に日々を生きて欲しいし、一緒に暮らしてたくさんお話したかった。失った時間の分だけ、早く元気になって一緒に過ごしていきたいと強く思う。
でもそれもマキシミリアン王子が協力してくれるなら、解呪は時間の問題かとも思った。あとは成人誕生パーティーを待つばかりだ。
「最後に大陸外、我がヤーデリウス国南東に位置するカラバヤーン連邦。こちらは各諸島によって首長や制度が異なりますが、集合として構成される連合国家制度をとっています。
利点としては…」
さあ、今は授業に集中しなくてはと気を引き締め直した。
◇
「おかえりなさいませ、サラ様。」
「ただいま帰ったわ、アルマ。」
「昼食の準備ができていますので、着替え終わりましたらダイニングにお越し下さいませ。
あと本日午後に仕立てあがったドレスが届きますので、試着と最終調整がございます。
昼食は軽いものをご用意しておりますが、試着後のティータイムにはサラ様のお好きなバナナパイをご用意しておりますので、お楽しみに。」
「ありがとう、アルマ。ドレスが届くのもバナナパイもどちらも楽しみにしているわ。」
今日の授業は午前中で終わったので、昼食は家でとる。午後には成人誕生パーティーで着るドレスが届くのでわたしも楽しみだ。
昼食を終え、自室で寛いでいるとドレスが届いた。早速試着をする。
菫色のエンパイアラインのドレスはとても可愛らしかった。
美しい刺繍が施され小さなアメジストがところどころに縫い付けられた上部、切り替えから下のスカート部分はレースが幾重にも重ねられてシンプルになりすぎず、ふんわりと柔らかなシルエットを描いている。デザイン通りの仕上がりだ。
プリンセスラインやベルラインに比べたら華やかさには欠けるが、わたしは可愛らしい控え目なこのドレスを気に入っていた。コルセットもきつく締めなくていいしね。
「いかがでしょうか、お嬢様。」
「とても素晴らしいです!丁寧に仕上げて頂きましてどうもありがとう。」
「光栄に存じます。」
「どうかしら、アルマ?」
「とても可愛らしいです、サラ様。
エンパイアラインをご選択なさった時はどうなることかと心配しましたけれど、やはりサラ様は何を着てもお似合いになりますね。控え目ななかにも気品を感じますわ。」
「ありがとう、アルマ。わたしも嬉しいわ。」
「パーティーでお披露目するのが楽しみですね。」
「別にお披露目したいわけじゃないわ!」
なぜか王子の顔が浮かんで、顔が赤くなってしまった。
「うふふ、サラ様。私は誰にとは申しておりませんわ。」
「!」
アルマの指摘にさらに耳まで真っ赤になってしまったのだった。
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