15.呪術について
再び長くなったので、下見のお話は全3話にしました。
仕方がないので呪いについて話し始める。
「ええと、あの… わたしの知っている呪いは、ヒトの顔がお絵描きのような抽象的なものに見えるそうです…」
「ほぅ。例えばどんな風に見えるだろうか?」
「ええと…聞いたところによると、睫毛が派手で大きな目の猫のような顔、垂れ眉で舌を出した犬のような顔、白髪と白髭がもこもこした羊のような顔、ほっぺたが真っ赤でりんごのような顔、つるんとした卵のような顔、毛深くてつぶらな瞳で熊のような顔、優しい微笑みで聖母様のような顔、勇ましくてライオンのような顔、目がぎょろっと大きくて見定めているような顔、目が鋭くて口が嘴のような鷹の顔、目が炎のように燃えている顔などですね。」
「ほお、なかなか面白い。年齢や体型は顔に反映されているかはわかるか。」
講師の興味を引いたようだ。眼鏡がきらっと光った。
「ええと、そうですね。年齢や体格と顔は一致していないそうです。」
「本人のイメージなのか?んん… では名前はわかるか?わかるものを教えてくれ。」
家族の名前を出したらさすがにまずいから、当たり障りのない人物を言えば大丈夫かな。
「羊のような顔がハワード、りんごのような顔がエミリー、卵のような顔がアンドリュー、熊のような顔がバーナード、聖母様のような顔がアルマ。ライオンのような顔がえーと、リオナ…ぎょろっと目が大きいのがダニエラ、鷹のような顔がアーノルド。目が燃えて見える顔がえーと、オーウェンだったかと思います。」
「ほお。人名辞典を見ないと確実ではないが、名前がそのようなイメージを見せている可能性もあるな。何か法則があるはず。」
何かぶつぶつと考え出してしまったようだ。
わたしは見え方に法則性があるなんて考えたことがなかった。適当なお絵描き顔を見せているものだとばかり思っていた。
「では僕の従者はどうでしょう?彼はどう見えるかわかりますか?」
「大きな吊り目と大きな口に毛深い顔で、狼のように見える、そう、です…」
ああ!しまった。わかりませんって言わないとダメだったんじゃない!?
「ははは!お前は狼だってさ、ランディ!かっこいいじゃないか!」
王子は堪らなく可笑しいというように笑ったが、ランディと呼ばれた従者の男性はちらっと王子を見ただけで何も言わなかった。
「では、僕はどう見えるんだ?」
講師のヒューゴさんまで聞いてくる。
これもう呪いがかかってるのがわたしって完全にわかってるでしょ?恥ずかしくなって俯いてしまった。顔も赤くなってきた。
「ああ、すまん。僕がただそうだと推測しただけだ。君が秘密にしたいことは決して口外しない。
どうだろう、僕の知的好奇心のために教えてくれないだろうか?代わりに呪術についてちょっとした個人講義をしてあげよう。」
恥ずかしかったがわたしも呪いについて興味が出てきたので、思い切ってヒューゴさんに教えることにした。
「ヒューゴ先生は白く長い眉毛に大きな目と眼鏡、小さな口で、梟、のように見えます。」
「梟、か…面白い。
僕の名前は知性とか聡明って意味があるんだ。確か、梟は古代文明の物語で知恵の象徴とされている。知ってるか?」
「いいえ、知りませんでした。」
「セイラ嬢の呪いは興味深いですね。害がありそうでないような、曖昧な効果なように思えます。」
害はないかもしれないが、適当なお絵描き顔のせいで何度も吹き出しそうになったし、実際にやにやしてしまったことも何度もあるので、十分迷惑ではあるのだが。
「そうだな。ではまず軽く呪術の成り立ちを語ろうか。」
首肯して話の続きを促す。
「呪いというのは元々、怨恨霊が憑りついた対象にかける現象だった。
昔は戦も盗賊も今より多かったし、祓魔のできる霊能力者も数多くなかったから、被害者が怨恨霊となって呪いがあちこちに拡がってたんだ。そこで霊能力者の中で呪いを祓うために呪い自体を研究する者が出てきた。
しかし、研究が進むうちにその呪いを故意に任意の相手にかけられないかと利用しようとする者が出てきた。これが呪術師の始まりだ。
呪いはなかなかに使い勝手がよかった。暗殺者を雇うよりも効果があったし、殺害以外にも使えたからだ。」
「ですがヒューゴ先生、現在では一般的に使われてないのではありませんか?
わたしは自分が呪いにかかっていると診断されるまで、呪いのことを知りませんでした。」
「そうだ。呪術師になるには深い知識と素質が必要なんだ。
考えてみてくれ。誰かを呪うには強い負の感情…嫉妬、嫌悪、憎悪、憤怒などが必要だ。呪術師自体が呪いの対象者にこのような感情を持ってなければ、呪いも弱いし持続しない。
それに、霊能者だって呪いを研究したんだ。呪いの術式がわかれば解呪するのも容易くなるし術者までも辿れる。そうやって攻防が続いて、呪術師はだんだん減っていった。
だから現在は呪術師も少ないし呪いが一般的ではなくなったんだ。」
「なるほど、そうなんですね…」
わたしの呪いはかなり珍しいのか。うーん解せない。
「ところで君の呪いは祓えなかったのか?診断してもらった時に解呪も頼んだだろう?」
「ええと確か、わたしの呪いは、呪いの依頼者の強い負の感情が元になっている?そうで、現在もその感情を持ち続けているので呪いを祓っても戻ってきてしまう、みたいです。
なので呪術師か依頼主のどちらかを見つけて、呪いの原動力を絶たなければ完全な解呪は難しい、みたいです。」
「ほう!その呪術師はなかなかの腕だな!」
「先生」
「ゴホン、すまない。君にとっては災難だったな。」
王子がヒューゴさんを諌めてくれたが、この2人似た者同士のような気がする…
「とにかく。依頼主との決着も時間の問題か。」
え?決着ってまだ依頼主見つけてないよ?
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