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12.大神官の診断は

 大神官との面会日程はすぐに決まった。うちが侯爵家だからというのと、もしかしたら王子の方からも何かしら伝えたのだろう。同行したいと言っていたし。

もう一度会うのかと思うと緊張もするしやや気が重い。


 そうそう、その前に仮縫い合わせもあったんだ。ドレスは上品で年頃の令嬢としては落ち着いたものだけれど菫色が綺麗で、わたしとしてはとても気に入ったし心が弾んだ。

義母と顔を合わせた訳でもないからさほど疲れたわけじゃない。けど2の月になってから何かとあって忙しい。



 謁見から5日後の2の月の後半、神官長との面会日は小雨だった。

今回も王子と顔を合わせるということで当主である父もまた同行する。忙しい大臣職に就いているというのに申し訳ない。

神殿に着くと貴賓室に通される。今日は他国の王子と侯爵である父がいるからであろう。いかにも豪華な部屋に、否が応でもこれから大神官と第四王子のお二方に会うという現実を突きつけられて緊張してくる。


 間もなく恰幅のよい女性と王子が揃って入室してきた。

女性の顔もちゃんと人間の顔に見える。あっと声に出しそうになったのを何とか堪えた。


「初めまして、スプングリス侯爵様ならびにご息女様。

 私は大神官のひとり、ガブリエルと申します。本日はようこそお越し下さいました。

 どうぞお楽になさって下さい。」

「先日ぶりですね。スプングリス侯爵と侯爵令嬢。

 先日の言葉通り、僕も同席させてもらいますのでよろしく。」

「ガブリエル大神官殿、王子殿下、ご機嫌麗しく存じます。

 本日は娘のセイラを連れて参りました。どうぞよろしくお願い致します。」

「初めまして、ガブリエル大神官様。セイラと申します。お会いできまして光栄でございます。

 王子殿下、ご機嫌麗しゅう存じます。」

大神官が女性の方で少し安心したけど、やっぱりなんで顔がちゃんと見えるのかがわからない。法則性から考えると王族の血筋の方なのかしら?


「ガブリエルで結構ですよ、ご令嬢様。

 早速ですがあなたの目についてお話を聞かせて下さい。」

「わたしのこともどうぞサラとお呼び下さい、ガブリエル様。

わたしの目についてですが、霊能力があるとともに物心ついた頃にはすでに人間の顔がお絵描きのような抽象的なものに見えていました。死霊の顔もまた抽象的なものに見えますが、悪霊のみが麗しい美形の人間のように見えます。」

「だけれどもこちらにおられる王子殿下は元の麗しいお顔に見えた、ということですね。」

「はい。あとは国王陛下と、ガブリエル様も、きちんと見えております。わたしも驚いておりますが。」

「やはり。そうでしたか。

 少々診察してもよろしいでしょうか?診察と言っても手を翳して軽く触れるだけですが。」

やはりという言葉が気になる。わたしの変な見え方についてわかっているような口ぶりだ。


「はい。どうぞよろしくお願い致します。」

ここまで来て断れないし気になるのでお願いしたい。一も二もなく答えた。


「それでは御前に失礼致します。軽く目を瞑っていただけますでしょうか。」

ガブリエルさんが目の前に立つと、なぜか柔らかくて温かいような感じがした。

目の前に手を翳しているので暗く感じる。


「それでは軽く触れさせていただきます。」

そう言って触ったガブリエルさんの手は少し温かかった。もちろん痛みも何もない。


「わかりました。残念なことにサラ様の目には呪いがかかっておいでです。

 侯爵様、どうなさりますか?解呪をご希望になりますか?」

「呪い!ですか?!可能ならばもちろんお願い致したい!勿論よいな、サラ?」

父に聞かれても、呪いだと言われたことがまだ上手くかみ砕けなかった。


「その呪いというのは霊能力とは別なのですよね?変な見え方だけが無くなるということでしょうか?」

「はい、その通りです。顔に対する認知機能がおかしかったのは呪いのせいです。解呪をお勧めしますね。」

「そうですか。それではお願い致します。」

「わかりました。では目を瞑って気楽になさっていてくださいね。」

ガブリエルさんはわたしの両目に手を翳すと言葉を紡ぎ始めた。


「我らをお守り、導きくださる神々方よ、

 どうか呪われしこの哀れな御子より

 様々な悪しきものや罪穢れを 

 祓い清めてくださいますよう、

 我 ガブリエルが祈りを捧げます。」


 目を瞑っていたのに目の前に淡い白光を感じたような気がした。

しばしの沈黙のあと、もう目を開けてもいいのかしら?と考え始めた頃にガブリエルさんが口を開いた。


「ダメですね…

 サラ様、もう目をお開けになって大丈夫ですよ。

 侯爵様。大変申し訳ございませんが、完全に解呪することは難しいようです。」

「そんな!ガブリエル様とあろう御方でも難しいのですか?」

「この呪いの原動力はどなたかの憎悪や嫉妬など負の感情のようです。

 現在もその感情を持ち続けているのでしょうね。呪いを祓ってもすぐに戻ってきてしまいます。

 呪術師かその負の感情の持ち主、この場合は依頼主と思われますが、このどちらかを見つけ出して原動力を絶たなければ完全な解呪は難しいかと。」

「そんな…」

父は項垂れてしまった。

でも父には申し訳ないけれど、わたしにはあまりショックではない。だってこれまで15年間この変な見え方がわたしの普通だったのだ。たまに笑ってしまって適当なお絵描き顔を見せるのを止めてほしいと思ったことは何度もあったけど、すっかり慣れ切っていた。


「よろしければ協力を申し出ましょう。」


そんなことを言い出したのは第四王子殿下だった。







読んでいただきありがとうございます。

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