10.うっかり発言は不敬の元
少々短いです。
ようやく話が動き始めました。
※テラディウス公国をテラディウス王国に変更しました
「なんでここに悪霊が…」
思わず口からこぼれてしまうと、ハンナさんがわたしに振り返った。
「サラ様?神殿には聖域結界がありますので、悪霊は近寄れませんよ。
何がお見えになったのですか?」
ハンナさんの言葉にハッとする。そうだ、悪霊がいるわけがないのだ。
とすると前から歩いてくる美形の人物は、生身の人間だ!王様に続いて二人目の、顔がきちんと見える人物だったのか、と驚嘆し一気に顔が赤くなった。
「いえ…見間違いでした。大変失礼致しました。」
ハンナさんにそう答えたところ、前から歩いてきた男性がハンナさんに声を掛けてきた。
「ハンナ殿、こんにちは。本日も修練場をお借りします。
今悪霊と聞いた気がするのですが、何か問題ですか?」
「ご機嫌麗しゅう、王子殿下。いえ、悪霊かと思ったのは勘違いだったようです。大変ご迷惑をお掛けいたしました。
修練もあまり根詰めすぎないようにお気をつけくださいませ。」
サラは恥ずかしさで赤くなって俯いていたが、王子殿下と聞いて青くなっていた。
失礼な発言を謝罪したかったが、きちんと紹介もされていないのに王族に気安く話しかけることは不敬にあたる。なので頭を下げるだけに留まった。
王子殿下が歩き去るのを見送ってから神殿の出口まで歩く。おもむろにハンナさんが口を開いた。
「サラ様、先ほどは一体何が見えたのでしょうか?何を悪霊と勘違いなされたのですか?
あの方はテラディウス王国の第四王子殿下です。我が国の最高学府にてご勉学中でして、こうして時折神殿に修練にお越しになるのです。さすがに肝が冷えました。」
「本当に、本当に、申し訳ございません。
わたしには悪霊が大層な美貌の顔立ちに見えるのです…大変に不敬なことでございますが、王子殿下を一瞬見間違えしまったのです。誤って済むような事態ではございませんので、後ほどスプングリス家より正式な謝罪文をお送りしたいと思います。」
本当に恥ずかしいというだけではなく、大変な不敬をはたらいてしまった。反省と自己嫌悪から項垂れてしまう。
「いいえ、サラ様。幸い王子殿下はお気付きではなかったご様子でした。
事を公にして大事にはなさらない方がよろしいかと思います。」
「いえ、わたしだけに判断できることではないと思っています。侯爵家当主である父に相談したいと思います。」
「わかりました。では私は黙しております。」
「心よりお礼申し上げます。本日は色々とお世話になりました。」
神殿を辞して家に帰り、執事のハワードに事の次第を説明し父との早急な面会をお願いした。
◇
果たしてその日の夜に父に会うことができた。
「お父様、お忙しいところ誠にすみません。至急ご相談しなければならないことがありまして。」
「大丈夫だ、サラ。それで最初から説明してもらえるかい?」
一度呼吸を整えてから、今日神殿でテラディウス王国王子に不敬発言をしてしまった経緯を説明した。
「そうか…
まずは一度面会を申し込んでみよう。相手が事を大きくしたくない場合もある。
第四王子のマキシミリアン殿下といえば、我が国では王族主催の夜会以外はお断りしていてな。あまり社交界には姿を見せずに勉学に勤しんでおられる御方なのだ。
直にお伺いを立ててから、正式な謝罪文をお送りするか判断をしよう。」
「はい、わかりました。
お父様、この度は本当に申し訳ございませんでした。」
「なに、そんなに心配しなくてもいい。
きっと彼の殿下も厳しい罰を望んでいるわけではないだろう。」
「…はい、そうだと良いのですが。」
落ち込んで青褪めている娘の手前、父であるスプングリス侯爵はあえて口にしなかったが、この件でクリスタが招待状を送った成人誕生パーティーの出席は確実に見送りになるだろうな、と心の中で考えていた。サラのせいではないとどうクリスタを納得させたらよいか、少し頭が痛んだ。
すぐに面会の申し込みを申し出た翌日のさらに翌日、王子殿下より返事が届いた。
娘のセイラとともに会いに来るように、と。
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