9.神殿で遭遇したのは…
神殿に行く日がやってきた。今日はあいにくの雨だ。
学校が終わって午後、護衛のアンドリューとバーナード、再び凛々しめ卵&テディのコンビを伴って馬車で移動する。
神殿でも名前を告げるとすぐ、神官見習いと思わしき若い男の子が応接室に案内してくれた。
応接室で待っていると間もなくノックがして女性の神官が入ってきた。
「ようこそお越し下さいました。スプングリス侯爵家ご令嬢様。
私は神官の一人、ハンナと申します。今日は神官というものについてお話を、と伺っております。」
「神官ハンナ様、スプングリス家のセイラと申します。サラとお呼びください。
わたしは死霊を見たり会話したりすることができまして、常日頃この霊能力を活用できないかと思っております。来年最高学府に進学して神学を学ぶ予定でおりますが、その前に神官様のお話をお聞きしたいと伺ったのです。」
ハンナさんは頭上に光がさしていて、とても上品な微笑みの聖母のように見える。アルマと同じようにとても優しそうだ。
「敬称はいりません、ハンナで結構ですよ。
サラ様、神官になることを検討なさっているのですね。ではまず、神殿の主な仕事についてご紹介しましょう。」
「はい、お願い致します。」
「神殿には司祭も属しております。司祭は結婚ならびに出生児の誕生の祝福を担当しています。司祭長は王族の祝福や国の祭事に携わることが多いです。
そして神官ですが、よく知られている一般的なお仕事が葬儀の執り行いですね。もし亡くなった方の死霊が彷徨っていたら成仏するよう導きます。
続いて神殿にお祓いのお願いに来る方ならびに警ら隊からの依頼の対応。地縛霊や怨恨霊、流離霊などいわゆる悪霊と言われる死霊の対処ですね。これは死霊の強さにもよりますが、強制成仏もしくは祓魔を行います。
あとこれも依頼を受けることが多いですが、悪霊が寄りつけないように聖域結界を張ることですね。さらには降霊術で死霊を召喚して対話するなどでしょうか。これらは複数人で行うことが多いです。
このようなところでしょうか。」
大体知っていた仕事内容だったが、公認霊能力捜査官よりも悪霊に対応する機会が多そう。
「どの仕事を担当するかはどのように決めているのでしょうか?」
「神官の力量によってできることは変わってきますので、難易度の高い対応には高位の神官があたります。どの程度のことができるかは修練による素養次第ですね。」
「そうなのですね。例えば、悪霊を祓う、としたらどれ程の力量が必要なのでしょうか?」
「悪霊ですか、なるほど。そうですね…
例えば私は上級神官なのですが上級に昇格するまでに5年程かかりました。そして上級は悪霊を祓うことができます。
私は資質がありましたので神官の中では早かった方だと言えるでしょう。個人の資質によるところが大きいですので…
サラ様の資質を見てみないとどれくらいで上級に至れるかどうかはわからないです。」
資質あるといいな。修練って体術みたいな訓練はないよね?
「そうですか…あの、修練を続ければ必ず上級に至ることができるのですか?」
「いえ、残念ながらそうとは限りません。資質に左右されるところでもありますね。」
「資質はどのように確認することができるのですか?」
「通常、神官長が確認しています。
最高学府で神学を専攻するつもりでしたら、入学後に授業の一環で資質を確認するでしょう。焦らずとも大丈夫ですよ。」
ハンナさんの微笑みが一層柔らかく見えた気がした。うん、きっと大丈夫。焦らずに頑張ろう。
その後丁寧にお礼を述べた後退館しようとハンナさんを先導に通路を歩いていると、なんと神殿内にいるはずのないものが視えた。
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