幕間:本館のお茶会では
今回も少々長いです。
※出席する貴族に辺境伯を追加しました
※テラディウス公国をテラディウス王国に変更しました
2の月の始め、サラが治安維持部隊へ見学に行った日、スプングリス家本館では侯爵夫人が主催したお茶会が開催されていた。
スプングリス侯爵家では特に新年を迎えてからたびたびお茶会が開催されている。3の月30の日に控えたクリスタの成人の誕生日パーティーに向けて、情報交換や準備を目的として回を重ねていたためだ。
成人を迎えた貴族子女の誕生日パーティーは結婚相手を探すためのお披露目としても重要なため、大々的に行われるのが慣例である。
特に侯爵家ともなれば高位貴族であるため、面子のためにも絶対に成功させたいものであった。
「クリスタ様、ドレスの注文はもう済まされたんですよね?どんなデザインになさったのか、当日拝見するのが楽しみですわ。」
「ええ、マダム・モニーカに頼んでありますのよ。来週中には仮縫い合わせをする予定ですの。」
「まぁ!素敵ですわ!マダム・モニーカなんて3年は予約を待たないといけないという売れっ子デザイナーですわよ。どんなに素敵なドレスになるのでしょう。」
「マダム・モニーカですもの。侯爵令嬢のクリスタ様にふさわしい豪華絢爛なドレスに違いないですわ!」
クリスタと同じくうら若き15〜18歳のご令嬢が同じテーブルを囲み、ドレスの話に花を咲かす。
本日の出席者は、同じ派閥の二つの伯爵家からご夫人2名とご令嬢3名、スプングリス分家のご夫人とご令嬢。それと候爵夫人の実家でもあるプレミアス侯爵家からご夫人とご令嬢である。
下位貴族である子爵以下の貴族は招かれておらず、侯爵家より上位の公爵家もまた招かれてなかった。
ご夫人達とご令嬢達は別の円卓を囲んでそれぞれ会話をしている。ご令嬢達が年相応にドレスやアクセサリーの話や貴族子息たちの噂などをしている一方、ご夫人方は長年培ってきた社交術を駆使し貴族らしい会話を展開していた。
「クリスタ様のご成人誕生パーティーのご準備は万事順調に運んでいるようで何よりですわ。マダム・モニーカを押さえておくなんてさすがパトリシアお義姉様です。」
「うふふ、ありがとう。クリスタの晴れ舞台でございますからね。数年前より準備をしていただけのことですよ。」
「ところでもう一人の侯爵令嬢…異母妹のセイラ様ですけれど、セイラ様の装いもパトリシアお義姉様がご準備されていらっしゃるんですの?愛妾のマイラ様はご領地で療養なさっていらっしゃるから、お優しいお義姉様がお気遣いなさってるんじゃないかと思いまして。」
プレミアス侯爵夫人は義姉のパトリシアを持ち上げるような言い回しをしているが、言外に、面倒を押し付けられてかわいそうに、という意味を込めていた。
「ええ、わたくしの方で準備を進めているのですが実はそれで少々悩んでおりまして…
義娘のセイラはとても恥ずかしがり屋ですので髪の毛で顔を隠したがるんですけれど、さすがに夜会等の盛装する場では普段通りというわけにもいきませんし、どうしようかと。」
「そうですわね。恥ずかしがり屋ですと大勢が集まる場では余計萎縮してしまうばかりですわよね。セイラ様にも心地よく参加していただくためにも、お顔が極力目立たないような、且つパーティーに合わせた髪型をご提案してもよろしいんじゃないかしら?」
サラの義母パトリシアとプレミオス侯爵夫人は義姉妹の関係でもあり、同爵位の同盟関係でもあり、男爵令嬢の母を持つサラの隠れた美貌を疎ましく思っていた。
普通に着飾らせてしまったらドレスのデザインなど関係なくクリスタよりも目立ってしまうのは間違いないのだ。何としてでもクリスタを主役として輝かせるために、侯爵家としての質と品位を保った最低限レベルの装いでもって、サラを目立たせないためにどうしたらよいか画策していた。
「それに淑女のマナーとして扇で顔を隠してもおかしくはありませんわ。セイラ様はデビュタントこそお済ですけれどもご成人なさっておられないんですもの。
今回はクリスタ様のご成人誕生パーティーですので、未成人のセイラ様が控え目なご様子でパーティー会場におられたとしても、特段奇特なことはないですわ。」
「そうですわ。社交界デビューしたてでしたら控え目なレディもおりますわ。」
「私もそう思います。」
次々にパトリシアを後押しするような同調の声があがった。
「皆様ありがとうございます。そうですわね。義娘のセイラにもクリスタの成人を気持ちよく祝っていただきたいもの。本人の意向も取り入れて準備を進めていこうと思いますわ。」
胸の内を隠しながら高度な会話術で自分の都合のよい展開に持っていくことなど、社交術に長けたご夫人方にはさほど難しいことではなかった。
そして隣のテーブルでは若い淑女達が、独身貴族男性の話で盛り上がっていた。
「どんな殿方が来るのか楽しみだわ。今年は結婚相手を決めたいですもの。」
これはこの中で最年長、結婚適齢期に入った18歳の伯爵令嬢だ。
「そうですわね、婚約が整ったあとも結婚まで半年以上ありますものね。私も20歳になる前には決めたいですわ。」
これは17歳の別の伯爵令嬢。
「ふふ、2大公爵家の方々と4大侯爵家、並びに2大辺境伯家の方々は皆様招待してありますわ。あとは伯爵家の皆さまもあらかた招待しておりますし、子爵家もいくつか招待してますわ。
公爵家には適齢期の独身男性がいらっしゃらなくて残念ですけれども、いい出会いがあることを期待したいですわね。
ただ…これといった話題性のある方はいらっしゃらないのです。」
「クリスタ様、隣国テラディウス王国の第四王子が我が国の最高学府に留学中ではありませんでしたか?
私はお会いしたことはないのですが、神殿ですれ違ったご令嬢によるととても整ったお顔だったとのことですわ。」
「第四王子の噂なら私も聞いたことがございます。最高学府で神学を学ばれているとか。」
「私のお父様にも聞いたことがありますわ。公爵家の夜会の誘いをお断りになられたとか。なんでも王族主催のパーティーにしか参加なさらないそうですわ。」
「あらあらまあまあ!ではもし我が家のパーティーにいらして下さったら話題になりますわね!
是非ともお越しいただきたいわ。すぐに招待状を出しましょう!」
クリスタは目を輝かせた。こんな特別を探していたのだ。
お茶会は和気あいあいと続いた後お開きになり、クリスタは母の侯爵夫人に相談したあと、その日のうちにテラディウス王国第四王子宛てに招待状をしたためたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ようやく王子様が登場しそうです(汗
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