093 / 第七層までひとっ飛び?
「神殿側も商売ですから、無償奉仕とは行きません。利用するたびに高額の利用料が請求されます。ただし、帰還に関しては無料ですが」
「便利は便利だけど、その階の探索で稼がなきゃ赤字ってわけだ」
世知辛い。
「ところで、その"一定以上の攻略"ってのは、具体的に何層くらいなんだ?」
フェリテが思い出し思い出し口を開く。
「たしか、ボスモンスターを倒した次の階層だった気がする……」
「ええ、その通りです」
「てことは、設置が終われば七層までいつでも跳べるってわけか!」
便利だ。
便利過ぎる。
たとえ利用できなくとも、無料で帰還できるとあらば、ありがたいなんてレベルではない。
「利用料は高額ですが、転移陣の設置に協力したパーティに関しては、その限りではありません」
「そうか。神官はダンジョンに入れないものな」
「ええ。具体的に言えば、ボスモンスターを討伐したパーティですね。吟遊詩人のログによる事実確認ができた場合、そのパーティに転移陣の設置を依頼します。設置に協力いただいたパーティは、その転移陣に限っては無料で使い放題となります」
「──…………」
「──……」
「俺たちじゃん」
「俺たちですよ?」
「じゃあ、七層まで無料でひとっとび……?」
「です」
「……フェリテ」
「リュータ……」
数秒ほど見つめ合ったあと、俺とフェリテは高々とハイタッチを交わした。
「よっしゃあ!」
「木人、倒してよかったー!」
「だな!」
アーネが、すこし申し訳なさそうに言う。
「すみません、既に御存知かと思っていました。特に、リュータは、神から直接知識を賜っていますし」
「いや、その知識は入ってなかった。けっこう抜けがあるんだよな……」
全部ぶち込まれたら廃人になりそうだから、いいんだけど。
「しかし、こいつは七層の探索が楽しみだ!」
コンビニの隣に住んでいるような気軽さで、第七層へ行けるのだ。
これほど喜ばしいことはない。
「ヒーラーが加入するまでダンジョンには潜らないつもりだったけど、設置だけはしちまおうか。それくらいなら、さして危険もないだろ」
「だね」
「転移陣の設置権は、二人が実力で勝ち取ったものです。誇ってよいかと」
「えへへ、うん!」
フェリテが照れくさそうに笑う。
第六層のボスモンスターの討伐。
危うく死ぬところではあったけど、結果的にはよかったのかもしれない。
成長とは、過信せず、慢心せず、しかして自分の実力に正しい自信と誇りを持つことだ。
いつまでもうじうじしたままでは、心の成長なんてない。
それは、きっと、"最高の冒険譚"における主人公の在り方ではないだろう。
「腹もいっぱいだし、気分もいいし、帰るか!」
「ですね」
「お風呂はいりたーい」
「入れ入れ。せっかくシャワールームがあるんだから、大いに使え。俺は最後でいいよ」
「では、お言葉に甘えて」
俺たちは宿へ帰ると、順番にシャワーを浴び、しばし談笑して床に就いた。
ベッドに入ってからもフェリテがうるさかったので相手をしていたが、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
良い夢を見た気がする。
あまり覚えてはいないけれど。
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