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090 / 宿屋街

 駅馬車に揺られること半日、俺たち三人は、ようやく神都へと降り立った。

 朝に出たはずなのに、もう夕刻だ。


「……ケツいってえ……」


「わかるー……」


「悪路とは言わないまでも、揺れますからね。こればかりは仕方ないかと」


「せめて、セッションのとき使ってるクッションでも持ってくればよかったな」


「……その手がありましたか」


 凝り固まった筋肉を伸ばしながら、周囲を見渡す。

 都と呼ばれるだけあって、その様子は、街とは驚くほど異なっていた。

 街で夕刻と言えば、夜の帳が下り始め、往来から人の姿がなくなる時間帯である。

 だが、ここでは、いまだに人の行き来が激しい。

 各所にガス灯が設置されており、夜を遠ざけているのだ。

 まるで、中世から近代へとタイムスリップしてきた気分だった。


「すごいな、神都。なんかおのぼりさんになった気分だ……」


「この国の行政区画は、一つの王都、六つの神都、無数のダンジョン街と、各所に点在する農村とに分かれています。神都はもちろん、街の多くは上下水道が整備されていますし、国自体も発展しているほうかと思います。ですので、私たちの住む街も、決して田舎というわけではないのですよ」


「なるほど」


 勉強になるな。

 このあたりの知識は、神も与えてはくれなかったから。


「なら、王都は神都以上の都会だったりするのかな」


「すみません。私は、王都へは行ったことがないので。フェリテ、王都はどうでしたか?」


「……うーん。正直、こっちのほうが都会かも。歴史のある家が多いんだよね。だから、神都より、街並み自体が古びて見えるかんじなんだ」


 歴史のある家ともなれば、そう簡単に建て直せるはずもない。

 豪邸は多いのだろうが、神都のほうが新しい建造物が多く、総体的には発展しているように感じられるのかもしれない。


「そう言えば、アーネ。フェリテが王都出身だって知ってるんだな」


「ええ。フェリテの出自は聞かせていただきましたから」


「そっか」


 なら、話しやすいな。


「フェリテはお城に住んでたのか?」


「住んでないよー……」


 フェリテが苦笑し、言葉を継ぐ。


「お城に住めるのは、直系の王族だけ。あたしはお城の傍のおうちに住んでたよ」


「きっと、立派なお屋敷だったのでしょうね」


「そんなことないって謙遜したいけど、やっぱり大きかったかも。少なくとも、竜とパイプ亭の十倍はあったかな。敷地を入れて、だけど」


「でっか!」


 竜とパイプ亭だって、宿としては大きいほうだぞ。


「あたしの部屋だけで、酒場のホールの半分くらいはあったもん」


「すごいですね……」


「さすが、傍系とは言え王族だな」


 小声でそんな会話を交わしながら、アーネの隣を歩く。


「ところで、どこへ向かってるんだ?」


「宿屋街です。食事をするにしても、ひとまず宿を取らねば動けませんから」


「そうだね。街道ならともかく、ここで野宿は視線がつらいよ……」


「……たしかに」


 何はなくとも、まずは宿だ。

 旅先での心得である。


「宿屋街ってことは、当たり前かもしれないけど、宿も複数あるんだな」


「街だって、元はと言えば、竜とパイプ亭の一軒だけではなかったのですよ。竜とパイプ亭は冒険者ギルドも兼任しているため、神殿からの補助金で生き延びたという感じです。これから冒険者が増えていけば、宿を再開する人たちも出てくるでしょうね」


「なるほどなあ」


 宿屋街へ向かうにつれて、武装している人々が多く見受けられるようになった。

 恐らく冒険者だろう。


「……このへん、治安悪そうだな。いちおう護衛ってことなんだし、武器の一つも持ってきたほうがよかったかもしれない」


「大丈夫ですよ。二人なら丸腰でも十分かと」


「まかせてよ、アーネ! そもそも、あたしの戦斧は、人間相手に使ったらダメだし」


「……鎧ごと叩き斬るもんな」


「えへへ……」


「恐らく問題はないと思ったのですが、この宿屋街が少々不安でして。寂しいというのも本音ですが、護衛というのも嘘ではないのです」


「たしかにな。冒険者って、柄が悪いのも多いし」


 竜とパイプ亭で絡んできた二人のことを思い出す。

 いまだに吟遊詩人を口説き落とせないらしく、酒場でくだを巻いているのを見掛けるが、お灸が効いたのか、他の人に迷惑は掛けなくなったようだ。

 ナナセに対してもしつこかったようで、感謝の印として果実水をおごってもらったりもした。


「全員が全員、冒険譚を出版したいわけじゃないもんね。もともとは物語の主人公に憧れて冒険者を目指したとしても、現実が見えてしまうと、やっぱりつらいから……」


「──…………」


 きっと、フェリテもそうだったのだろう。

 ようやく入ったパーティに馴染めなかった上に、自業自得の部分もあるとは言え、ダンジョンの途中で置いてきぼりにされたのだ。

 彼女がどれほど打ちのめされたのか、想像することも難しい。


「でも、今は違うのでしょう?」


 アーネの言葉に、フェリテが笑顔で頷く。


「うん! リュータがあたしを主人公にしてくれるって言ったんだ。あたしも全力で応えないと」


「そうですね。私も、精一杯お手伝いしますよ」


「ありがと、アーネ!」


 そんな二人のやり取りを見ていると、やる気が湧いてくる。。


「俺も、二人に負けないように、気合いを入れて行かないとな」


「ええ。なにしろ、書くのはリュータなのですから」


「がんばってね!」


 俺は、良い友達を持ったと思う。

 あのときセッションに誘って、本当によかった。

 俺たちを結びつけたのは、きっと、TRPGなのだから。

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