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009 / 初めてのダンジョンへ

「戻ったよ」


 扉を開くなり、アーネが一言。


「胸当て、似合いませんね」


「……やっぱり?」


「リュータに似合わないと言うより、その衣服と絶望的に合いません」


 俺も、そんな気はしていた。

 武具屋のおじさんは、お世辞で言ってくれていたんだろうな。


「その衣服は、どこの民族衣装なのですか? 行き倒れのわりに、しっかりとした縫製に見えますが」


「あー……、と」


 困ったな。

 別の世界から神に連れてこられたなんて言ったら、怒られるか、祭り上げられるかの二択だろう。

 正直、どちらもごめんだ。


「……東のほう?」


「言いたくないのなら、構いません。私も軽率でした」


 バレてる。


「ごめん、ありがとう。ちょっと込み入っててさ」


「人にはそれぞれ事情がありますから」


「そういうことにしておいて」


「はい。では、昼食をとったら、ダンジョンの入口まで案内いたしましょう」


「頼むよ」


 残った僅かな鉄貨で昼食を頼み、一服したあと竜とパイプ亭を出る。

 アーネに先導されて向かったのは、遺跡の奥だった。

 かつては大門であったと思しきものがこじ開けられ、その奥に深い暗闇を湛えている。


「ここが、ダンジョンか……」


 あまりの暗さにすこし引く。

 最初の冒険者は、よくこんなところに入ろうと思ったな。


「不要とは思いますが、こちらを渡しておきます。使用しなかった場合は返却してください」


 そう言ってアーネが差し出したのは、蛍火の色にほのかに光る鍵束だった。


「これは?」


「魔法の鍵、です」


「なんでも開くとか」


「逆です。鍵を、掛けるのです。宝箱の占有権を主張するのが主な役割ですね」


「あー……」


 なんとなくわかった。


「自分たちが先に見つけた。開けたのは自分たちだ。そんな争いが常態化していますから、その解決の一助ですね。見つけて、中身を持ちきれないと判断したら、鍵を掛けておく。これで八割方は解決できます」


「なるほどな」


 必要に迫られて開発した、というところだろう。

 鍵束を受け取り、背負い袋に突っ込む。


「注意点は、他にある?」


「一つだけ」


 アーネが、ゆっくりと深呼吸を行う。

 そして、告げた。


「無理はしない。命さえあれば、何度だって挑戦できるのです。死こそ、心を揺さぶる冒険譚に必要な要素である──なんて言う人もいますが、私は死に行く人を見送りたくはないのです」


 その言葉に、胸を打たれる。


「……ありがとう。アーネ、案外優しいんだな」


「案外は余計です。それに、これは私の個人的な感傷でもあります。この世界では、面白ければ死すら金になる。この価値観、私は嫌いですから」


「肝に銘じておくよ」


「ええ」


 ダンジョンの入口へと向き直る。

 暗闇に対する本能的な恐怖が、身を竦ませる。

 だが、行かねばならない。

 攻略を終えたダンジョンに入ることすらできなければ、最高の冒険譚など夢のまた夢だ。

 俺は、勇気を奮い立たせて、歩き出した。


「行ってくる」


「ご無事で」


 アーネの声に背中を押され、俺は、ダンジョンの内部へと足を踏み入れた。

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