082 / 深夜、二人とセッションを(5/5)
「では、本日のセッションはここまで。残り時間はドロップ品ロールとレベルアップ作業に費やそう」
「はーい!」
「とうとうレベル4ですね、フェリテ」
「レベル2になったときは微妙かなって思ったけど、スキルすごいね! 取れば取るほど、どんどん強くなってく」
「ええ。リュータの言っていたことも頷けます。ステータスの上昇より、スキルの取得のほうが、遥かに重要なのですね」
「そういうことだ」
新しいキャラクターシートを用いてレベルアップ作業を行いながら、三人で談笑する。
「アーネ、来週から従業員が増えるんだって?」
「ええ。以前、竜とパイプ亭に勤めていた方々ですね。ダンジョンの完全攻略が達成されて以来、仕事もなく、給金も満足に支払えない有り様だったので、申し訳ないですが退職してもらっていたのです。復職の打診をした際、快く応じていただけたそうで、安心しました」
「なら、今日みたいに無理してセッションを開く必要はなくなるかもな」
「えー!」
フェリテが口を尖らせる。
「何故嫌がる」
「えへへ、なんだか楽しくて。友達同士で夜遅くまで遊ぶのって、とっても新鮮で、でもすこし悪いことしてる気分で、どきどきしたから……」
「わかります」
アーネがフェリテの手を握る。
「わかります」
二回言ったぞ。
「夜更かしって、なんて楽しいんでしょう。どうして楽しいんでしょうか」
あ、わかった。
アーネ、深夜のテンションなんだ。
「秋の夜長につい遅くまで読書をしたことはありますが、これほど高揚することはありませんでした。やはり、友達と一緒だからなのでしょうね」
「まあ、わかるけど」
俺も、大学時代は、徹夜で遊び呆けたものだ。
「でも、そんな無理が通じるのって、若いうちだけだぞ。いずれ体力的に厳しくなってくる」
「なるほど。まだ若い今だからこそやっておけと」
「そういう意味ではなく」
「ね、次もやろうよ。深夜セッション!」
「ええ、そうしましょう。人が多くなって、ホールでセッションを行うことは難しくなってしまいました。となれば、最もセッションに適した時間帯は、誰にも邪魔をされることのない深夜かと思うのですが、GMはどう思いますか?」
そこまで言われては仕方がない。
「わかった。わかりましたよ。アーネの体調を気にしてたんだけど、本人が大乗り気じゃな」
「ふふ。それに、ほら」
アーネが、いたずらっぽく言う。
「いつ来ても構わないのでしょう?」
「──…………」
敵わないな、こりゃ。
「あ、ずるい! あたしも来ていい?」
「いいよいいよ、好きにおいでなさい。溜まり場にでもするといい」
「わーい、やった!」
一つ、溜め息をつく。
「君たち、自分が年頃の女の子って自覚、あんまりないよな」
「あるよー……」
「ありますよね」
フェリテとアーネが、心外とばかりに眉根を寄せる。
「あるなら、深夜に、寝間着姿で、男の部屋に入り浸りません」
「リュータだし……」
「リュータですし」
「……それ、喜べばいいの? 悲しめばいいの?」
「褒めてるんだよー」
「ええ、最上級に」
「さいですか」
やはり、喜べばいいのか悲しめばいいのかわからなかった。
「あ、そうだ。今度、服屋さん行かない? 長く逗留すると思うから、私物を増やしてもいいかなって」
「いいですね。従業員が入ってからでよければ、案内しましょう」
「ありがと!」
「そうだな。このまま行けば、年は跨ぎそうだし」
なんだかんだと既に二ヶ月近くが経過している。
かなりの長丁場を覚悟しなければなるまい。
「リュータの服も見繕ってあげるね」
「……俺も行くの?」
「来ないのですか?」
「え、じゃあ行く」
「よかった。私も、秋服を見ておきたかったのです。是非、男性からの意見をいただければと」
「自信はないけど……」
どうにも異性として見られていない節があるが、それはそれで好都合かもしれない。
恋愛関係って、こじれると、大変なことになるからな。
俺たちは、それから、レベルアップ作業そっちのけで朝方になるまで談笑していた。
窓の向こうの空がうっすらと明るくなったころ、アーネとフェリテが目を擦りながら自分の部屋へと帰っていく。
それを見送ったあと、俺は、硬めのベッドに倒れ込んだ。
先程まで騒がしかったせいか、静けさがすこしだけ寂しく感じられた。
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