081 / 深夜、二人とセッションを(4/5)
こうして戦闘は進んでいく。
巨狼が"フェリテ"に体当たりをするが、ガチガチに固めた物理防御力の前に、風嵐呪の半分のダメージすら通すことができなかった。
"アーネ"は安定した火力で、"フェリテ"は物理防御力を貫く馬鹿力で以て、白銀の巨狼を確実に追い詰めていく。
そして、ラウンド3、"フェリテ"の手番だ。
「命中判定、成功! ここで虎の子の旋風剣と、なんかダメージダイス増やすスキルを使うよ! 戦闘中一回しか使えないやつ! 最大火力で全力攻撃だ!」
フェリテがそう宣言し、小首をかしげて思案する。
「ダメージは、えーと……」
「どれどれ」
アーネがフェリテのキャラクターシートを覗き込む。
「全力攻撃で7D6、ダメージダイス増加で6D6、旋風剣の固定ダメージで──えっ」
「あの、GM。これ、なんか、すごいことになるような……」
「13D6+44、だな」
「うん……」
「振ってみるか!」
「うん!」
フェリテが、十三個の六面ダイスを両手で握り締め、一気に転がした。
「えーと、ごー、よん、いち、いち、さん──」
計算の結果、
「……85点ダメージ!?」
「すさまじいですね……」
「遠距離安定火力の"アーネ"、近距離瞬間火力の"フェリテ"ってところだな。自分もエネミーも物理防御力のほうが高くなりがちだから、どっちが強いとも言えないけど」
「ところで、巨狼死んだ? まだ生きてる?」
「──…………」
フェリテの言葉には答えず、描写を開始する。
「"フェリテ"の戦斧が、真空波すら巻き起こしながら、巨狼の胴体を深く薙いだ。二層のボスモンスターとして君臨していた狼の王は、その美しい毛並みを真っ赤に染めながら倒れ伏す。もう、二度と起き上がることはないだろう。おめでとう、君たちの勝利だ!」
「や……ッ、たあー!」
「やりましたね、フェリテ!」
フェリテとアーネが、いつものようにハイタッチを交わす。
「白銀の巨狼、強かったろ」
「死ぬかと思ったよー……」
「最初の風嵐呪にいちばん驚きましたね。まさか、一撃で"フェリテ"が瀕死になるとは思いませんでした」
「出目がよければ一撃死すらあり得たからな」
「ひえー……」
「経験点の配付とドロップ品ロールは、イベントの後にしようか」
「はーい!」
「はい」
二人が頷くのを待って、続ける。
「〈おーい、二人とも! 無事か!〉──二人が君たちの元へ駆けてくる」
「あ、"リュータ"! ダンゾウくん! こっちこっち!」
「ええ、なんとか……」
「〈……ま、まさか、たったの二人であの巨狼を倒しちまったんスか!? 姉御たち、すげーっス!〉」
「それほどでもないよー、って言って照れちゃうかな」
「それより、ダンゾウさんのパーティメンバーは無事でしたか?」
「〈はい! 気絶してただけみたいっス! 二人のおかげです! あざっした!〉──そう言って、ダンゾウが深々と頭を下げる」
「それは、よかったです。皆を竜とパイプ亭まで運びましょう。手伝いますよ」
「〈そんな! 二人とも怪我してるじゃないっスか!〉」
「"リュータ"、治癒薬ちょうだーい」
「〈はいはい〉」
"リュータ"の背負い袋には、大量の治癒薬が常備されているという設定だ。
前回のセッションから、回数制限こそあるものの、戦闘中の任意のタイミングで治癒薬と魔力薬を使用してくれることにした。
"リュータ"の価値がさらに高まったことになる。
「"フェリテ"と"アーネ"は、"リュータ"の治癒薬によって全快して構わない」
「これで問題ありませんね、とダンゾウさんに微笑みます」
「〈うう、優しさが身に沁みるっス……!〉」
「大袈裟な、って苦笑するかも」
ひとしきりロールプレイを行い、区切りのいいところで締めに入る。
「こうして君たちは、二層のボスモンスターを討伐し、ダンゾウのパーティの命を救った。パーティから多大なる感謝を受け、その日は竜とパイプ亭で祝杯を上げることだろう。だが、君たちはまだ知らなかった。白銀の巨狼の座していた高台の裏に、第三層へと続く下り階段があることを。そして、このダンジョンに隠された真実を──」
「真実ってなに!」
「何か、秘密があるのでしょうか」
「はてさて、どうだろうか」
本当は、まだ何も考えてないけど。
とりあえず期待を煽るだけ煽って後から辻褄を合わせるのは、GMあるあるだと思う。
広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります
どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください