079 / 深夜、二人とセッションを(2/5)
「では、前回までのあらすじだ」
20×20のマス目を描いた戦闘用の羊皮紙を展開し、その上にエネミーのコマを置く。
「二層の最奥を目指す"フェリテ"と"アーネ"だったが──」
「あと"リュータ"もね」
「……えー、最奥を目指す三人だったが、君たちの前に一人の少年が現れる。彼の名はダンゾウ。君たちと同じ駆け出し冒険者だ。先んじて二層の最奥へと辿り着いたダンゾウのパーティだったが、そこに控えていたボスモンスターに返り討ちに遭ってしまった。このままでは仲間が殺されてしまうと、あなたたちに助けを求めたのだ。それを快諾した君たちは、並み居る魔物を叩きのめしながら、二層最奥の広間へと辿り着いたのだった──と、こんなところか」
フェリテがわくわくとアーネに話し掛ける。
「ね、ボスモンスターってどんなのかな」
「きっと、今から描写してくれますよ」
「うん!」
期待に満ちた二人の視線が、俺の顔の上で交錯する。
嬉しいが、やりにくい。
「えー……、こほん。〈あ、あれを見てくださいっス!〉」
ダンゾウの声色を作り、ロールプレイを開始する。
「そう言ってダンゾウが指差したのは、身の丈数メートルはあろうかという巨大な狼だった。人工精霊の光を受けて、銀のたてがみが燐光を放つ。そのさまは、どこか神々しさすら感じさせるだろう」
「──…………」
「狼……」
「〈姉御たち! オイラは仲間たちを運ぶっス! 時間稼ぎをお願いします!〉」
フェリテが頷く。
「わ、わかった! ダンゾウくんたちのこと、守るから!」
「──"リュータ"! "リュータ"も救助を優先してください!」
まさか、ここで会話を振られるとは思わなかった。
「〈ああ、わかった! "フェリテ"、"アーネ"、無理はするなよ!〉」
自分を演じ、言葉を継ぐ。
「"リュータ"とダンゾウが、広間の隅で倒れていた冒険者たちに肩を貸す」
「わかりました。ですが、どんなに難しいことだって、やり通せれば無理ではない。行きましょう、"フェリテ"!」
「うん」
今のはなかなかカッコいい台詞だな。
ボーナスに色をつけておこう。
「では、二層のボスモンスター、白銀の巨狼との戦闘に入る。初期配置は自由にして構わない」
「えっと、巨狼の後ろとかでもいいの?」
「PLの良心にお任せいたします」
「やめておきましょう、フェリテ。戦術的にはさして意味もありませんし」
「はーい」
アーネが、火炎呪がギリギリ届く位置に自分のコマを置く。
フェリテは、しばらく考えたあと、アーネの前にコマを並べた。
「よし!」
「初期配置はこれでいいか?」
「あたしは大丈夫!」
「ええ、私も問題ありません」
「では、ラウンド1、セットアッププロセスだ。行動値順で白銀の巨狼からだが、セットアップスキルは所持していない。続いて"アーネ"だ」
「ステップを踏み、ダメージ増加を行います」
「了解。ステップも、三枠取ってダメージ+9になったか。馬鹿にならないよな」
「戦闘終了までずっと、ですからね。優秀なスキルだと思います」
「では、次に"フェリテ"だ」
「なーし。今度、何か取ったほうがいいのかな」
「将来的には、ですね。タイミングが空いているのはもったいないので、そのうち転職してつまんできましょう」
「うん、わかった」
「メインプロセスに入る。まず、巨狼は二マス下がるぞ」
「あ」
「あー!」
二人が、驚きの声を漏らす。
「"フェリテ"の攻撃、届かなくなっちゃった……」
「それがGMのやり口というわけですか」
「初期配置は、しっかり考えて決めましょう」
でなければ、本当に強い相手のときに、あっさりと負けてしまいかねない。
レベル3なんて、まだまだチュートリアルみたいなものだ。
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