078 / 深夜、二人とセッションを(1/5)
「──よっ、と」
竜とパイプ亭の倉庫から持ち出してきた折りたたみ式のテーブルを広げ、自室の中央に設置する。
「床に直で座ることになるけど大丈夫か? 自室ではいつもスリッパだから、そこまで汚れてないはずだけど」
「問題なーし! あたしもスリッパ派だよ」
「ええ、私もです。靴は窮屈ですから、部屋にいるときくらいは、と」
そう言って、寝間着姿の二人が、テーブルの傍に腰を下ろす。
「座布団とかあればよかったんだけどな……」
「座布団、とは?」
「俺のいた世界──と言うか、俺の国って、もともとは床に座る文化が根強かったんだよ。だから、腰の下に敷く専用のクッションが存在した。それが座布団」
「あ、クッションのことだったんだ」
「幾つか余分にあったかと思いますから、持ってきましょうか」
「それ、潰れていいやつか?」
「ええ、構わないかと」
「ならお願いしようかな。夏とは言え、腰が冷えちまう」
「長く座ってたら、おしりも痛くなっちゃうしねー……」
「わかりました。少々お待ちを」
「ああ、頼んだ」
アーネが立ち上がり、部屋を出ていく。
その背中を見送ると、俺は、隣のフェリテに話し掛けた。
「眠くないか?」
時刻は午後十時。
普段であれば、セッションを終える時間だ。
「うん、ばっちり! お昼寝したもんね」
「俺たちはダンジョン攻略で朝も夜もないのに慣れてるけど、アーネは大丈夫かな……」
「わくわくして寝付けなかったかも……」
「あり得る」
忙しくてセッションをする暇がない。
その解決策としてアーネが打ち出したのが、昼寝だった。
夕刻までの、比較的オーダーの少ない時間帯に長めの休憩を取り、そこで睡眠時間を確保する。
浮いた時間をそのままセッションに当てる、というわけだ。
「しかし、懐かしいな。俺もよくやったよ。夜からのセッションのために、会社で仮眠とか」
「TRPGプレイヤーにはよくあることなの?」
「……いや、どうだろ。本来、命削ってまでやることじゃないしな」
それで過労死したのが俺である。
もし次があるなら、絶対に無理はしないでおこうと思った。
フェリテとしばし談笑していると、アーネがクッションを抱えて戻ってきた。
「こちら、古くなったクッションです。廃棄予定のものでしたから、遠慮なくどうぞ」
「ありがとう」
「ありがと!」
すこしくたびれたクッションを尻の下に敷く。
「うん、これで快適にセッションができそうだ」
「アーネ、眠くない? 大丈夫?」
「ギンギンです」
「……昼間、ちゃんと眠れたか?」
「ギンギンでした」
「ダメじゃねーか……」
「大丈夫ですよ。目を閉じて休息は取りましたから。事実、ちっとも眠くありませんし」
「眠気は翌日に来るんだぞ」
無理はしないでほしいのだが、ここでセッションを中止にしても、どうせ眠れやしないだろう。
今後注意することにして、今日のところは始めてしまおうか。
「──さ、準備はいいか?」
二者二様の肯定が返ってくる。
「では、本日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「お願いしまーす!」
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