077 / 長髪と禿頭(4/4)
「は、……はあ……ッ、はあ……ッ!」
男がその場に崩れ落ちる。
その皮膚は僅かに赤くなっており、軽度の火傷を負っていることが見て取れた。
「治癒呪、かけてあげてくれるか」
「はい、もちろん」
アーネが、男の傍に膝をつき、詠唱を始める。
「──……はァ……」
事を終えて、大きく溜め息をつく。
自己嫌悪が襲い掛かる。
自分は、どうにも喧嘩っ早いと言うか、短気なところがある。
元の世界にいるときは、この性格のおかげで、クソ上司とさんざんやり合ったものだ。
棚ぼたで手に入れたチート能力を誇示して相手をやり込めるなんてのは、人としてどうかと思う。
それをしてしまった自分が、情けなかった。
「お疲れさま、リュータ」
ねぎらいの言葉をかけてくれるフェリテに、力なく笑いかける。
「……恥ずかしいとこ見せちまったな。俺、沸点低くてさ」
「?」
フェリテが小首をかしげる。
「恥ずかしいって、なんで?」
「ほら、もっとやりようがあっただろ。心をへし折るんじゃなくて、平和的な解決方法とかさ」
「あはは、なーに言ってんの! リュータはアーネを助けたんだよ?」
「それは、そうだけど……」
アーネが、長髪の男を癒し終える。
俺を見つめる男の目は、恐怖に満ちていた。
そして、アーネに一言の礼もなく、肩を落としながらそそくさと竜とパイプ亭へ戻っていく。
「リュータ、フェリテ、ありがとうございます。時折、ああいった手合いは現れるのですが、今日は特にたちが悪かったですね」
「ほんと、ろくなやつらじゃない。勧誘断って正解だよ」
「勧誘されてたの?」
「ああ。元より、相手がどんなパーティでも引き抜かれるつもりはないけどな。フェリテがいないとこで潜っても仕方ないだろ」
「えへへー……」
フェリテが照れたように笑う。
「──…………」
アーネが、しばし思案し、言った。
「リュータ、申し訳ありません。ああいった手合いは、これからも増えていくでしょう。もちろん、その場にいるときだけで構いませんから、今回のように助けてはいただけないでしょうか」
「当然だろ。前にも言ったけど、助けを求められないほうが心苦しいんだ」
「そうだね。友達だもん。アーネが苦しかったり怖かったりしたら、あたしたちも嫌な気分になるんだよ。アーネには笑っててほしいから」
くすりと笑って、アーネが俺たちを見回した。
「では、遠慮なく頼らせていただきますね」
「ああ」
「うん!」
頷いて、互いに笑い合う。
「そうだ。バゲットサンド、ありがとうな。すげー美味しかった」
「それはよかったです。パンを焼くのはマスターの趣味ですからね」
「ルクレツィアもお礼言ってたよ。あとで直接言うけど、伝えておいてって」
「わかりました。律儀な方ですね」
これから、ますます冒険者は増えていく。
トラブルも頻発するようになるだろう。
街が復興することは嬉しいが、すこしだけ心配になるのだった。
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