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068 / 似た者同士

 第五層・洞窟エリアの既知の部分は、Y字型の主通路と、無数の脇道とで構成されている。

 Yの下端が隠し通路からの入口だ。

 俺は、手に持てる限りの地図を展開し、グラナダに尋ねた。


「グラナダ。大コウモリに襲われた場所ってわかるか?」


「ああ。六層へ通ずる階段と隠し通路のあいだだから──」


 言いながら、地図のある一点を指差す。


「ここだ。岩肌が溶けている部分の近くだよ」


「──…………」


 俺が、極大火炎呪でほとんどの大コウモリを焼き払った場所だ。


「どうやら、元あった巣からさほど離れてないらしいな」


「場所がおおよそわかっているのなら、巣ごと焼き払ったあと、五層を調べ尽くして一匹残らず駆除すればいいね。手間は掛かるが、さして危険な作業でもなさそうだ」


 巣に引きこもってくれているのならば、極大火炎呪を使うまでもない。

 大呪で十分だ。

 油断は禁物だが、ある程度の目処は立っている。

 多少、気は楽だった。


「──そう言えば、栄光の記録読んだぞ」


「ほう、ナナセに売りつけられたのかい?」


 グラナダが、背後のナナセに視線を送る。

 彼女は、無口なソディアをあいだに挟みながら、フェリテと談笑しているようだった。


「面白かったろう。神印こそ賜れなかったが、僕たちの自信作さ」


「ああ、素直に面白かったよ。個人的に好きだったのは、ルクレツィア加入のエピソードだな。あれだけ最悪の出会いをかましておいて、最後には互いを認め合う。王道の流れだけど、感動的だった」


「ははは。そうだろう、そうだろう」


 グラナダが機嫌よく口元を綻ばせる。


「しかし、神ってのは相当厳しいな。自費出版の冒険譚も何冊か読んだことはあるけど、栄光の記録は悪くない部類だ。ナナセも読ませる文章を書くし、完成度は高かったように思うけど」


 肩をすくめ、グラナダが苦笑いを浮かべてみせた。


「恐らく、短かったのではないかと思っているよ」


「ああ……」


 たしかに。

 栄光の記録は、神殿から出版されている冒険譚と比べ、半分かそれ以下の分量しかない。

 そのため、打ち切り漫画を彷彿とさせる終わり方となっており、尻切れトンボ感は否めなかった。


「これからさらに冒険を続け、ログを重ねていく。いつか神印を賜るまで、ね」


「そっか」


 ふと、脳裏を疑問がよぎる。


「グラナダたちは、どうして神印を目指してるんだ? 普通に金持ちになりたいとか?」


 神印を賜ることのできる冒険譚は限られている。

 神殿発行の冒険譚は、面白さを神に保証されているようなものだ。

 そのため、神印を賜った冒険譚は、必ず世界中でベストセラーとなる。

 アーネの言葉を借りるなら、印税でがっぽがぽというわけだ。


「人によって理由は異なる。ルクレツィアは自らの価値を証明するためだし、ナナセは生き別れの両親に自分の書いた物語を届けたいらしい。僕は、そうだな。あまり考えたことはなかったんだけど、もしかすると、自慢したいだけなのかもしれない」


「自慢?」


「ああ。僕には、こんな素晴らしい仲間たちがいる。そう世間に知らしめてやりたいのさ」


「……そっか」


 努力に値する、素晴らしい理由だと思った。


「さ、リュータ。次は君の番だぜ」


「はいはい」


 特に迷うこともなく、答える。


「俺は、"最高の冒険譚"を書きたいんだよ」


「それはまた、どうして?」


「──どうして、か」


 グラナダに一歩踏み込まれ、俺はようやく考え込んだ。

 元の世界へ帰りたい。

 死んだ直後へ戻れるのかはわからないが、俺はキャンペーンの途中だったのだ。

 TRPG仲間が恋しいし、家族や友人の顔を思い出すたび会いたくなる。

 正直に言えば、ホームシックに悩まされたこともあった。


「──…………」


 背後に視線を向ける。

 フェリテが、二人と談笑している。

 俺が抱いている理由とは、果たして、そんな消極的なものばかりだったろうか。


「……俺も、自慢したいのかもしれない。最高の冒険譚には、最高の主人公が必要だ。俺は、フェリテなら、そうなれると信じてるから」


 グラナダが、からかうように言う。


「ははは、随分と惚れ込んでいるんだね」


「お前だって、人のことは言えないだろ……」


「そうだね。もしかすると、僕たちは、案外似た者同士なのかもしれないぜ」


「違いない」


 そう言って、互いに笑い合う。

 自信家で、軽薄で、女好き。

 そんな印象を持っていたグラナダだが、真面目な部分もあるのだと気付かされた。

 人間、第一印象がすべてではないものな。

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