067 / 第五層殲滅作戦
ソディアがケイルを背負ったところで、フェリテがグラナダに尋ねた。
「ところで、何があったの? おドジ……?」
グラナダが答える。
「まったくの的外れではないが、すこし言い訳をさせてほしい。六層からの帰り道、五層の主通路で、無数の大コウモリに襲われてね。逃げる際、ケイルが足を滑らせたんだ。あそこは足場が悪いだろう?」
「げ」
殲滅しきれていなかったのか。
時間の経過によって、元の数へと戻りつつあるらしい。
「一体一体はさして強くもないが、百、二百と集まれば、もうどうしようもなくてね。目下のところ、このダンジョンを諦めようか検討中というわけさ」
「え!」
初耳だったのか、ナナセが目を見開く。
「嫌よ、絶対! 買ったミスリル鉱石が無駄になるでしょ!」
「だが、隊員の命には替えられまい」
「……それは、そうだけど」
ナナセがかぶりを振る。
「でも、ほとんど人の手の入ってないダンジョンなのよ。冒険譚を書くのにこれほど適した場所もないわ。冒険の舞台は前人未踏でなければ面白くない。そうでしょ?」
「わたくしもナナセに賛成ですわ。ナナセの書いた冒険譚が神印を賜れず、どれほど悔しい思いをしたか。忘れたとは言わせません」
「──…………」
グラナダが腕を組み、ナナセとルクレツィアを睨みつける。
「だが、現実問題として、あの大コウモリをどうする。あの数を掃討するには、せめて大呪が必要だ。ルクレツィア、君は大呪を扱えるか?」
「いえ、わたくしは……」
ふと、ルクレツィアと目が合った。
「──そうだ、リュータさんがおられるではありませんか!」
「え、俺?」
「はい。火炎の極大呪使いであれば、クソ雑魚がいくら束になろうとへのかっぱというものでしょう?」
意外と口悪いな。
へのかっぱとか、自動翻訳前はなんと表現しているのだろう。
「……まあ、元から駆除するつもりではあった。数が戻るたびいちいち吹き飛ばすのも面倒だしな」
「ふむ……」
グラナダが思案する。
「たしかに利害は一致している。放っておけばリュータが全滅させてくれるのかもしれない。だが──」
にやりを口角を上げ、グラナダが俺の目を覗き込んだ。
「むろん、それに甘えるばかりの我々ではない。ナナセ、頼んだ」
「はいよー!」
以心伝心とばかりに、ナナセが頷く。
「リュータ。アタシたちが、アンタたちを雇うわ。依頼内容は、第五層のコウモリの完全討伐。依頼料は金貨一枚でどう?」
俺は、思わず、フェリテと顔を見合わせた。
金貨一枚。
今となっては、喉から手が出るほど欲しいものだ。
「リュータ、やろう!」
「そうだな。もともと、なんとかするつもりではあったんだ。あんなのが洗礼として待ち受けてるんじゃ、冒険者たちが軒並み逃げちまう。街の復興どころじゃない」
思えば、第六層は、第五層に比べ大人しい。
大コウモリのせいで第五層の難度だけが突出しているのだ。
「オーケー、前金で全額払うわ」
ナナセが金貨を指で弾く。
俺は、それを空中で受け取ると、月にかざした。
金色の硬貨が美しくきらめく。
「たしかに承った。それで、具体的にはどうする?」
「こちらの疲れが癒えたら、共に潜ろうじゃないか。魔物を殲滅するのであれば、一気にやらなければ意味がない。五層の魔物を一匹残らず駆逐して、ただの洞窟にしてやろう」
「了解」
フェリテが拳を突き上げる。
「よーし、がんばろう!」
こうして、俺たち名もなきパーティとグラナダ探窟隊は、一時的に共同戦線を張ることとなった。
広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります
どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください