061 / 武具屋にて(1/4)
グラナダ探窟隊と出会って数日後、俺とフェリテは武具屋を訪ねていた。
「こんにちはー」
扉を開くと、うるさいくらいにドアベルが鳴り響く。
ドアベルの音を聞いてか、挨拶に気付いてか、カウンターの奥で新聞を読んでいた店主のおじさんが顔を上げた。
「おお、兄ちゃんに嬢ちゃんか。長剣と戦斧、仕上がってるぜ」
フェリテが嬉しそうに礼を言う。
「おじさん、ありがとう!」
「手間掛けさせちゃって、申し訳ないです」
「なーに、いいってことよ」
おじさんが、ニッと人好きのする笑みを浮かべた。
そして、鞘に収められた長剣を手に取る。
「ほれ、まずは長剣だ。確認してくれ」
「どれどれ」
長剣を受け取り、鞘から抜き放つ。
ギンギンに研がれた鋼の長剣が、鏡の如く光を反射した。
「おお、こりゃすごいな」
「ったく、手入れサボったら駄目だぜ兄ちゃん。ダンジョンなんてもんは、剣の切れ味一つが命に直結するんだ。格安で請け負ってやるから、ちゃんと来いよ」
「はは、すいません……」
事実、その通りだと思う。
最近は木人を相手にすることが多かったから、主に火炎呪を駆使して戦っていたが、剣の切れ味が明暗を分ける場面も確実にあるだろう。
武具屋のおじさんに手入れを頼む前の長剣は、魔物の血液や体液で腐食し、なかばなまくらと化していた。
それで生き残れたのは、単に運が良かっただけに過ぎない。
今後は定期的に通うことにしよう。
「次は嬢ちゃんの戦斧だが──ちっと待っててくれよ」
おじさんがカウンターの奥へ向かい、しばらくして戦斧を引きずって戻ってくる。
「──よッ、と! 相変わらずクソ重いなこいつは!」
「そうかなあ」
「こいつを軽い軽い言いながらぶん回すのは、フェリテくらいのもんだからな」
「もっとも、嬢ちゃんがタダ同然で置いてった大戦斧よりゃ随分ましだけどな。あれ作ったの、よほどの馬鹿だぞ」
「でしょうね……」
「鋳潰して地金に戻しちまおうかな……」
「あはは……」
フェリテが苦笑する。
苦笑するしかないのだろう。
「ほら、こいつも確認してくれ」
「はあい」
おじさんがやっとこさ引きずってきた戦斧を、フェリテが片手でひょいと持ち上げる。
相変わらず、信じられないほどの馬鹿力だ。
「──うん、完璧! これなら木人もさっくさくだと思う」
「あんまり硬いもん殴るなよ。すこし刃こぼれしてたぞ」
「そういうわけにも行かなくて……」
言いながら、今度は持ち手を確認する。
戦斧の持ち手には、薄布が何重にもギリギリと巻き付けられていた。
「注文通りだ」
「これで、だいぶ滑りにくくなったはずだぜ」
「うん!」
フェリテが嬉しそうに頷き、続ける。
「それに、炎属性を付与したまま戦い続けると、持ち手が熱くなっちゃうからね。これなら、もうすこし耐えられると思う」
「その炎属性ってのはよーわからんが、とにかく振ってみてくれ。糊で固めてはいるが、ずれるようなら巻き直す」
「わかった!」
「……フェリテ、ここで振り回すなよ?」
「わかってるよー……」
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