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056 / ナナセ=ササヌキ 著「グラナダ探窟隊栄光の記録」

「……アタシたちの冒険譚、気になる?」


「まあ」


 気にならないと言えば嘘になる。

 ナナセがニヤリと笑い、自分の荷物から一冊の本を取り出した。


「はーい! ナナセ=ササヌキ著、グラナダ探窟隊栄光の記録~!」


「え、出版してんのか!」


 それは、比較的薄めの書物だった。

 アーネから借りた冒険譚の半分ほどしかないように見える。


「青銅貨五枚になります」


「たっか! 普通二枚くらいだろ! それに、やたら薄──」


 気付く。

 表紙に、教会の印章がない。


「……これ、海賊版……」


「海賊版じゃないわよ! 神印を賜れなかったから、自費出版したの!」


「あー、なるほど」


 神印を賜れば、神殿が責任を持って出版してくれる。

 しかし、それは、全体のほんの一握りに過ぎない。

 娯楽としては量が少なすぎるのだ。

 そこで、神殿以外の出版社が、神印を賜れなかった冒険譚を出版することもあるのだと、アーネから聞いたことがあった。


「でも、自費出版なら捏造し放題じゃん」


 吟遊詩人以外の人間は、嘘を綴ることを許されているのだから。


「フィクションならフィクションで明記しておかないと、バレたときに暴動起こるでしょ。国からも厳罰で出版社ごと一発アウトなんだから、そんなリスキーなことしないわよ。アンタ、そんなことも知らないの?」


「世間知らずで申し訳ありませんね」


「ほら、青銅貨五枚」


「はいはい」


 仕方がない。

 彼らの冒険に興味はあるし、ここは素直に支払っておこう。

 財布から青銅貨を五枚取り出し、ナナセに手渡す。


「まいどあり~♪」


 この笑顔だ。


「……なんか、やたら疲れたな。俺、果実水頼むけど、ナナセは?」


「おごってくれるの?」


「ちゃっかりしやがって」


 いいけど。

 ホールを見渡し、アーネを探す。

 彼女はカウンターにおり、グラナダと何やら会話を交わしていた。


「おーい、アーネ! 注文いいか?」


 アーネがグラナダに会釈をし、こちらに駆け寄ってくる。


「注文ですね。助かりました」


「助かった?」


「……あー」


 心当たりがあるのか、ナナセが溜め息をつく。


「はい。口説かれていたもので……」


「──…………」


 何やってんねん、あの男は。


「ごめんね、うちの馬鹿が」


「アーネ。そういうときは、俺を呼んでいいから」


「邪魔をしては悪いな、と」


「いいんだって。遠慮されるほうが心苦しい」


 事が済んでしまえば、もう助けることはできないのだから。


「つーわけで、果実水を三つ頼むよ」


 アーネが小首をかしげる。


「三つ、ですか?」


「ここにいなさい」


 理解したのか、アーネが嬉しそうに微笑む。


「ふふ、承りました」


「──…………」


 アーネがバックヤードへ消えていくのを横目に、ナナセが半眼でこちらを睨んだ。


「……? なんだよ、ナナセ」


「アンタもアンタで、意外と女たらしだなと思って」


「違うっつの! アーネは友達なんだよ。友達が困ってるなら、助けるのが普通だろ」


「どうかしら」


「なんでも男女のあれこれに繋げて考えるの、よくないぞ」


「……ま、アンタがそう言うんなら、いいけどさ。アタシもお節介じゃないし。ほら、手が止まってるわよ」


「おっと」


 雑談を交わしながらだったので、地図を写し終えるのに二時間ほどもかかってしまった。

 宝箱を二つ処分できた上に、金貨二枚と銀貨六枚だ。

 結果的に良い商談だったのではないかと思う。

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