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055 / 千里の道もヒーラーから

 その後、俺とナナセは地図の写し作業に入った。

 

「アンタ、随分と精密な地図を描くのね。どうやってるのよ、これ。フリーハンド?」


「……まあ、いちおう。マッピングはわりと得意でな」


〈ゲームマスター〉でマッピングの天才となった身としては、少々ばつが悪い。


「わりと、じゃないでしょ。アタシの地図なんてこんなもんよ」


 そう言って、ナナセが見知らぬダンジョンの地図を展開する。

 それは、ぐにゃぐにゃとかすれた線で描かれた見にくい地図ではあったものの、分岐や宝箱、要警戒地帯について事細かに記されており、決して質の悪いものではなかった。


「十分実用的だろ。卑下するもんじゃない」


「アンタも謙遜するんじゃないわよ。ムカつくから」


「申し訳ありませんでしたー」


 適当に返し、別のテーブルへと視線を向ける。

 フェリテと、二十代後半と思しき女性が、二人きりで談笑しているのが見えた。

 盛り上がっているところを見ると、仲良くなったらしい。

 俺の視線に気付いたのか、ナナセが説明を入れてくれる。


「彼女はルクレツィア。うちの魔法使いで、水撃呪と雷鳴呪の使い手よ」


「……えげつないコンボ決めそうだな」


 水をぶっかけて雷撃で仕留めるわけだ。


「しっかし、二人パーティって珍しいわね。普通潜らないわよ、二人きりでなんて」


「二人しかいなかったんだから仕方ないだろ」


「吟遊詩人一人と斧使い一人だなんて、戦闘ほとんど彼女まかせなんでしょ。フェリテって言ったっけ。彼女、相当強いの?」


「あー……」


 どうなんだろう。

 いまいち基準がわからないのだが、膂力は相当なものだし、決して弱くはないはずだ。


「いちおう、俺も戦えるんだよ。戦闘は二人でやってる」


 ナナセが目をまるくする。


「え、アンタも戦うの? 吟遊詩人なのに?」


「……戦う吟遊詩人って、少ないのか?」


「そりゃ自衛くらいはするけど、基本的には好き好んで戦わないわよ。吟遊詩人が死んだら道案内がいなくなる。地図なんて、出しっぱなしにするには量が多すぎるんだから。冒険譚も綴れなくなるし、次からダンジョンに潜れなくなるし、いいことなんて一つもない。吟遊詩人は生き残るのが仕事なの」


「なるほど……」


 六層で俺が死んだら、フェリテはどうなる。

 恐らく、迷子になって餓死か、あるいは魔物に殺されて終わりだろう。


「……気を付けないとな」


「まず、メンバー増やしなさい。アタッカーも欲しいけど、まずはヒーラー。治癒呪使いがいるのといないのとじゃ相当違うわよ。治癒薬なんて粘度の高いもん、気絶したら飲めないんだから」


 言われてみれば、たしかに。


「水で薄めらんないのかな、あれ……」


「できるけど、効果もかなり薄まるみたいよ」


「そりゃ困るな」


 ヒーラーか。

 やはり、必要だよな。


「グラナダ探窟隊にもヒーラーはいるのか?」


「いるわよ。向こうで飲んだくれてる男がそう。その正面で肉食ってるのが、メインアタッカー。大剣使いね」


 ナナセが、離れた席で酒を飲みつつ機嫌良さそうに喋っている男性と、その正面で黙々と巨大なステーキを食べている女性を顎で示す。


「グラナダは?」


「あいつはあいつで戦えるけど、状況を俯瞰して指揮を執るのが役目ね。アタシを除いて四人で戦うわけだから、連携を取らないとまずいわけ」


「勉強になるな……」


 個の力より、集団の力だ。

 彼らはそれをよくわかっているのだろう。

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