051 / 深夜、アーネと二人きりで(2/3)
「──あ、そうだ。これ聞いていいか悩んでたんだけどさ」
「なんでしょうか」
「アーネって、どうして神官になったんだ?」
「ふむ……」
アーネがすこし考え込む。
「特に隠しているわけでもないのですが、せっかくの機会です。リュータの事情と引き換えに──で、いかがでしょうか」
「あー……」
どうしよう。
神官であるアーネに、神の話をしていいのだろうか。
すこし悩んでいると、アーネがぽつりと呟いた。
「……フェリテには教えたのに」
「ウッ」
そこを突かれると、弱い。
と言うか、
「……俺が事情を話したこと、フェリテから聞いたのか?」
「いえ」
アーネが首を横に振る。
「単に、鎌をかけてみただけです」
「──…………」
やりおる。
「……すみません。騙すような真似をしてしまいました」
「あ、いや、怒っちゃいないよ。むしろ感心しちゃって」
「──…………」
アーネが、目を伏せながら口を開く。
「子供じみていますよね。すこしだけ、悔しいと感じてしまって。私のほうが先に友達になったのに──なんて、思ってしまって。人にはそれぞれ事情があるとか気取って、深く尋ねなかったのは、私のほうなのに」
「そっか……」
この言葉だけで早とちりするほど、俺は自信過剰ではない。
同性であれ、異性であれ、友達が自分以外の誰かと仲睦まじくしているところを見れば、すこし面白くないのは当然だ。
アーネは、フェリテのことが好きだろう。
だからこそ、俺とフェリテが仲良くなったことで、置いて行かれたような気分になったのだ。
「ごめんな、気付いてやれなかった。言い訳がましいかもしれないけど、事情が特殊でさ。聞けば、どうして俺がアーネに打ち明けなかったか、わかると思う」
「そう、なのですか?」
「ああ」
俺は、意を決し、話し始めた。
「……俺、この世界の人間じゃないんだよ」
「?」
アーネが小首をかしげる。
「何かの比喩でしょうか」
「いや、比喩でもなんでもなくて──」
〈ゲームマスター〉を省いた経緯を、すべてアーネに伝える。
アーネは、口を挟むことなく、じっと俺の話を聞いてくれた。
「──と、いうわけ。神官に対して"自分は神に選ばれた"とかなんとか、とてもじゃないけど言い出せなくて」
「なるほど……」
得心が行ったとばかりにアーネが頷く。
「一ヶ月前に言われていたら、呆れていたかもしれません」
「あ、やっぱり……」
「だから、リュータの判断は正しいです。私は、今だから、あなたの言葉を信じられるのです。友達、ですから」
「……そっか、ありがとな」
「いえ」
アーネが神妙な顔を作る。
「しかし、神がそんなことを仰っていたとは。この世界の冒険譚に飽きてしまわれたのでしょうか」
「刺激を求めて道楽で連れて来たんなら、さすがに趣味が悪いぞ。もっとも、死にかけたところを救ってもらってるわけだから、文句も言えないけど……」
「そうですね。私としては、感謝しかありません。リュータと会えましたし、フェリテとも友達になれました。何より、TRPGを知ることができた。これほど夢中になったことは、他にありませんから」
「ははっ、そっか。GM冥利に尽きるよ」
アーネの言葉が、本当に嬉しかった。
楽しい。
その一言で、すべての苦労が報われる。
GMとは、そんな単純な生き物なのだ。
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