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050 / 深夜、アーネと二人きりで(1/3)

「──…………」


 自室の天井を人工精霊が飛び回り、周囲に光を撒き散らしている。

 ランプより便利なのでつい使ってしまうのだが、寿命などはないのだろうか。

 そんなことをうっすらと気にしながら、アーネから借りたおすすめの冒険譚に視線を落とす。

 ダンジョン攻略ではなく、冒険者ギルドで起こる人間ドラマを主題にした意欲作だ。

 笑いあり、涙あり、恋模様ありの一冊で、かなり面白い。


「なるほど、こういうのもアリなのか……」


 今までダンジョン攻略ばかりに目が行っていたが、冒険譚とはそれだけに留まらない。

 人の織り成すすべての行為が冒険たり得るのだ。

 見識が広がった気分だった。


 ──コン、コン。


 不意に、ノックの音がした。


「はーい」


 警戒心もなく内鍵と扉を開く。

 そこに立っていたのは、質素な寝間着姿のアーネだった。


「こんばんは、リュータ。すこしよろしいですか?」


 竜とパイプ亭で暮らし始めて一ヶ月以上経つが、こんな気を抜いた格好のアーネを見るのは初めてだ。


「あ、えーと……。立ち話もなんだし、入る?」


「ええ、失礼します」


 ぺこりと会釈し、アーネが俺の部屋へ入る。

 デスクの上を一瞥して、一言。


「すこし片付けたほうがよいかと」


「はは……」


 そこには無数の羊皮紙が積み上げられている。

 意識野に収納しておけば内容は自由に参照できるのだが、やはり目で見たほうがしっくりくるので、清書するときは出しっぱなしにしてしまうのだ。


「とにかく掛けてくれよ。どこでもいいから」


「はい」


 危ういバランスで積み上がっている山に近付きたくなかったのか、アーネがベッドに腰掛ける。

 俺は、デスクに備え付けの椅子を引き、アーネと向かい合わせになるように腰を下ろした。


「それで、用事って?」


「はい。この巫術師のスキルなのですが──」


 そう言って、追加職業の書かれた羊皮紙の一枚をこちらへ差し出す。


「どういった裁定になるのか確認したくて」


 受け取り、目を落とす。

 スキルのひとつに鉛筆で印がついていた。


「あー、ここか。たしかにわかりにくいよな」


「この表現だと、どちらの意味にも取れるので」


「ここは、たしか──」


 公式サイトの質疑応答に載っていたはずだ。

 内容を思い出し、その通りに答えると、納得したのかアーネが深々と頷いた。


「なるほど。ありがとうございます」


「いいよいいよ。せっかく同じ屋根の下にいるんだから、いつでも好きに聞いてくれ」


 アーネがくすりと微笑む。


「ふふ、では遠慮なく」


「──…………」


 俺は、アーネから視線を外し、窓から見える巨大な月へと焦点を合わせていた。

 服装のせいか、なんとなく顔を合わせづらい。

 アーネもそれに気付いたのか、小さく首をかしげ、尋ねた。


「リュータ、どうしましたか?」


「あ、いや、そのだな。寝間着姿だし、見ていいのか悩んでしまって」


「なるほど。ですが、見るなというくらいなら、こんな服装で部屋を訪れたりはしませんよ。自室ではいつもこんなものですから」


「そっか」


 アーネがそう言うのならば、下手に意識するほうが失礼だ。

 安心して視線を向ける。


「リュータは紳士なのですね」


「……トラブルを起こしたくないだけだよ。俺なりの処世ってやつかな」


「理由より行動でしょう。行動にこそ、その人の本性が出るものです。理由はどうあれ、そう行動したのであれば、リュータはそういう人なのですよ」


「……なんか、神官っぽい」


「神官ですから」


「そうだった」


 アーネが神官であることを忘れがちなのは、冒険者が俺とフェリテしかいないからだ。

 竜とパイプ亭が再びギルドとして機能し始めれば、アーネの神官としての一面も見られるようになるだろう。

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