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046 / 鑑定のお時間(2/2)

「──ふむ」


 アーネが小さく頷く。


「毒素のない綺麗な水です。ミネラルが豊富な硬水で、飲み水には十分適するかと」


「やった!」


「よっしゃ」


 フェリテとハイタッチを交わす。


「どれ、試しに飲んでみるか」


 空いたグラスに水を注ぎ、軽く回して口をつける。


「──うん、水だな」


「あたしもあたしも!」


「ほい」


 フェリテにグラスを渡す。

 こくりと喉を鳴らし、満足げに笑う。


「水だ、水だ! ほらアーネも」


「はい」


 アーネがグラスを受け取り、そっと中身を飲み下す。


「水ですね」


「水だね!」


「水だな」


 水だ水だと騒ぐ俺たちは、他の客から見れば奇異な存在に映っただろう。


「──しかし、これがダンジョンから湧いた水ですか。感慨深いです」


「よかったら、瓶ごといるか?」


「是非」


 アーネは、冒険譚やダンジョンに対し憧れがあるように見える。

 セッションに対する姿勢からもそれが窺える。

 治癒呪も使えるそうだし、神官でなければと思ってしまうのだが、そもそも神官でなければ俺は彼女と出会ってすらいないのだ。

 なかなか難しいものである。


「ね、こっちもお願いできるかな」


「ええ、もちろん」


 アーネが鑑定呪を唱え、薬の小瓶に触れる。


「なるほど。これは生命薬──体力と魔力を同時に回復するものです。治癒薬と異なり、直接傷を癒すわけではありませんが、自然治癒力を高める効果もあるようです。軽い風邪くらいであれば、一発で治るでしょう」


「おお……」


「あと、一般に販売されているものより効果が高いようですね」


 魔力を回復する薬って、軒並み高いんだよな。

 治癒薬が銀貨一枚なのに対し、魔力薬は銀貨三枚ほどもしたりする。

 体力まで同時に回復できて、さらに効果が高いともなれば、かなりの当たりと言えるだろう。


「やったね! 魔法を使えるリュータに持っててもらおう」


「わかった。じゃ、四本は俺がもらっておくな。もしもがあるかもしれないし、一本はフェリテが持っていてくれ」


「了解でーす」


 フェリテに生命薬を一本渡し、残りを背負い袋に仕舞う。


「じゃ、いよいよ本日のメインイベントだな。お願いできるか」


「ええ、わかりました」


 アーネが呪文を唱え、真紅の腕輪に触れる。


「……?」


 小首をかしげ、再び鑑定呪を唱える。


「どうかな」


 アーネが、申し訳なさそうに目を伏せた。


「すみません。私では鑑定することができませんでした」


「それって、価値が高いってことか? レアなものほど鑑定が難しいイメージがあるけど」


「いえ、そうとも限らないのです。価値の高さ、効果の珍しさと、鑑定呪の成功率は無関係です。そういった指標とは別に、基準の曖昧で不明瞭な鑑定難度が存在すると考えてください。この鑑定難度は、実際に鑑定呪を唱えてみなければわかりません。ただの既製品の壺が最高レベルの難度を持つこともあるのです」


「そういうものなんだ……」


「どうやら、この腕輪の鑑定難度はかなり高いようです。より高位の使い手でなければ鑑定は難しいでしょう」


「そっか。なら仕方ないな」


「お役に立てず申し訳ありません」


「いや、十分だよ。アーネがいなければ、水の安全も確認できなかった。生命薬なんて見た目怖くて飲む気になれなかったし」


「これ、毒でも不思議じゃない色してるもんね……」


 なにせ、黒、紫、金色のマーブル模様だ。

 効果も不明瞭な状態でこれをぐいぐい行くような勇気は俺にはない。


「なら、いいのですが」


 目を見ればわかる。

 アーネは、鑑定に失敗したことを気にしているようだった。

 フェリテもそれに気付いたのか、俺に目配せをした。


「ね、リュータ。この腕輪、アーネにあげてもいい?」


「パーティメンバーの証にするんじゃなかったのか?」


「やっぱり、友達の証にしよう!」


 その言葉に、つい吹き出してしまった。


「ははっ、ならそうしようか」


 腕輪を一つ手に取り、アーネに差し出す。


「鑑定のお礼だ。受け取ってくれないか?」


 アーネが目をまるくする。


「……いいのですか?」


「もちろん」


「うん。受け取ってほしいな」


「──では」


 アーネが、柔らかな微笑みを湛えながら、腕輪に左手を通す。


「どうでしょうか」


「ああ、似合うよ。なかなか映えるな」


「リュータ、あたしたちも着けよう」


「おう」


 腕輪に手首を通す。

 効果がわからないのは多少不安だが、悪影響があればすぐに気付くだろう。

 そのときは、外せばいいだけだ。

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