表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/125

044 / 真紅の腕輪

「──…………」


 フェリテと位置を交換し、二階の様子を確認する。

 そこにいたのは、まさに"光る人"としか表現しようのない存在だった。

 発光する人型実体が二体、まるで日常を過ごすかのように、違和感なくくつろいでいる。


「……フェリテ、幽霊って信じる?」


「えっ、幽霊なの?」


「知らんけど」


「知らんのかー……」


「とりあえず、一斉に仕掛けてみよう。魔物かどうかもわからないから、まずは攻撃するふりだけでも」


「だね。いたずらに戦闘を重ねたくはないし……」


「タイミングを合わせて、同時に飛び掛かる。俺は奥を。フェリテは手前を頼む」


「わかった」


 無言で指を三本立ててみせる。

 深呼吸を行い、二本に減らす。

 残り一本。

 すべての指を折り畳むと同時に、俺たちは二階へと躍り出た。

 広間を駆け抜け、奥の人型実体へ向けて長剣を振り上げる。

 次の瞬間、人型の光が一瞬でバラバラになった。


「な──」


 理由はすぐにわかった。

 発光する人型実体は、光の蝶の群れだったのだ。

 精霊の群れが人間ごっこをしていたものらしく、慌てるように窓から外へ飛び出していく。

 フェリテが、窓の外を見つめながら、呆然と呟いた。


「精霊って、こんなことするんだ……」


「珍しいのか?」


「あたしの知る限り、だけど。精霊ってそもそも数が少なくて、その生態も謎に満ちてるんだ。もしかすると、知能があるのかも……」


「あるんだろうな、たぶん」


 あれはきっと、この遺跡にこびりついた記憶の再現だ。

 本当に不思議な生き物だと思った。


「ともあれ、これで二階も大丈夫だね。三階も見てみよう」


「了解」


 結論から言えば、三階にも魔物の姿はなかった。

 代わりにあったのは、


「宝箱だー!」


「よし、軽く炙ってみるか」


「中身、燃えない?」


「表面が焦げる程度にしておくよ」


 呪文を脳内で走らせ、威力を調節した火炎呪を放つ。

 炎が宝箱を包み込むが、反応はない。


「……大丈夫そうだな」


「だね。開けるよー」


 熱した金具で火傷をしないよう、フェリテが指先を袖で保護しながら宝箱を開く。

 入っていたのは、四つの輪だった。


「……なんだろ、これ」


 巨大なルビーから直接彫り出したかのような、継ぎ目のない美しい真紅の輪だ。

 サイズ的には腕輪のようにも見える。


「なんかのマジックアイテム、とか」


「そうかもだし、ただの装飾品かも。綺麗だもんね」


「……確認だけど、この世界って、呪われた装備品とかある? 一度着けたら二度と外れないみたいの」


「ない──と、思うよ。聞いたことないもん。リュータの世界にはあるの?」


「いや、俺の世界にもないんだけど……」


 呪いの装備品なんて、ゲームの中だけの話だ。


「じゃ、試しに着けてみるか」


 腕輪を拾い上げ、手首に通してみる。


「……わりとしっくり来るな」


「あ、あたしもー」


 フェリテが、俺のものより小さめの腕輪を装備する。


「ほんとだ、着け心地いいね。効果はわからないけど、お揃いは嬉しいかも」


「四個あるし、パーティの証にでもしようか。悪い効果がなければ、だけど」


「いいね! これなら、もしパーティメンバーが増えても大丈夫だ」


「じゃ、いったん外しておくか。変なデバフでもかかったら困る」


「うん」


 こうして俺たちは、第六層における安全な拠点を確保することができた。

 今回の探索はここまでだ。

 俺たちは、第五層の途中でミスリル鉱石を荷物に詰め込むと、ダンジョンを後にした。

 重い鉱石を運びながらヒイコラと外に出ると、夕刻の赤みがかった太陽が俺たちを出迎えた。

 丸一日以上潜っていたらしい。


「──楽しかったな」


 俺がそう言うと、


「うん!」


 フェリテが満面の笑みで頷いてくれた。

 彼女と仲間になれて、本当によかった。

 そんなこと、気恥ずかしくて言えないけれど。

広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります

どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ