044 / 真紅の腕輪
「──…………」
フェリテと位置を交換し、二階の様子を確認する。
そこにいたのは、まさに"光る人"としか表現しようのない存在だった。
発光する人型実体が二体、まるで日常を過ごすかのように、違和感なくくつろいでいる。
「……フェリテ、幽霊って信じる?」
「えっ、幽霊なの?」
「知らんけど」
「知らんのかー……」
「とりあえず、一斉に仕掛けてみよう。魔物かどうかもわからないから、まずは攻撃するふりだけでも」
「だね。いたずらに戦闘を重ねたくはないし……」
「タイミングを合わせて、同時に飛び掛かる。俺は奥を。フェリテは手前を頼む」
「わかった」
無言で指を三本立ててみせる。
深呼吸を行い、二本に減らす。
残り一本。
すべての指を折り畳むと同時に、俺たちは二階へと躍り出た。
広間を駆け抜け、奥の人型実体へ向けて長剣を振り上げる。
次の瞬間、人型の光が一瞬でバラバラになった。
「な──」
理由はすぐにわかった。
発光する人型実体は、光の蝶の群れだったのだ。
精霊の群れが人間ごっこをしていたものらしく、慌てるように窓から外へ飛び出していく。
フェリテが、窓の外を見つめながら、呆然と呟いた。
「精霊って、こんなことするんだ……」
「珍しいのか?」
「あたしの知る限り、だけど。精霊ってそもそも数が少なくて、その生態も謎に満ちてるんだ。もしかすると、知能があるのかも……」
「あるんだろうな、たぶん」
あれはきっと、この遺跡にこびりついた記憶の再現だ。
本当に不思議な生き物だと思った。
「ともあれ、これで二階も大丈夫だね。三階も見てみよう」
「了解」
結論から言えば、三階にも魔物の姿はなかった。
代わりにあったのは、
「宝箱だー!」
「よし、軽く炙ってみるか」
「中身、燃えない?」
「表面が焦げる程度にしておくよ」
呪文を脳内で走らせ、威力を調節した火炎呪を放つ。
炎が宝箱を包み込むが、反応はない。
「……大丈夫そうだな」
「だね。開けるよー」
熱した金具で火傷をしないよう、フェリテが指先を袖で保護しながら宝箱を開く。
入っていたのは、四つの輪だった。
「……なんだろ、これ」
巨大なルビーから直接彫り出したかのような、継ぎ目のない美しい真紅の輪だ。
サイズ的には腕輪のようにも見える。
「なんかのマジックアイテム、とか」
「そうかもだし、ただの装飾品かも。綺麗だもんね」
「……確認だけど、この世界って、呪われた装備品とかある? 一度着けたら二度と外れないみたいの」
「ない──と、思うよ。聞いたことないもん。リュータの世界にはあるの?」
「いや、俺の世界にもないんだけど……」
呪いの装備品なんて、ゲームの中だけの話だ。
「じゃ、試しに着けてみるか」
腕輪を拾い上げ、手首に通してみる。
「……わりとしっくり来るな」
「あ、あたしもー」
フェリテが、俺のものより小さめの腕輪を装備する。
「ほんとだ、着け心地いいね。効果はわからないけど、お揃いは嬉しいかも」
「四個あるし、パーティの証にでもしようか。悪い効果がなければ、だけど」
「いいね! これなら、もしパーティメンバーが増えても大丈夫だ」
「じゃ、いったん外しておくか。変なデバフでもかかったら困る」
「うん」
こうして俺たちは、第六層における安全な拠点を確保することができた。
今回の探索はここまでだ。
俺たちは、第五層の途中でミスリル鉱石を荷物に詰め込むと、ダンジョンを後にした。
重い鉱石を運びながらヒイコラと外に出ると、夕刻の赤みがかった太陽が俺たちを出迎えた。
丸一日以上潜っていたらしい。
「──楽しかったな」
俺がそう言うと、
「うん!」
フェリテが満面の笑みで頷いてくれた。
彼女と仲間になれて、本当によかった。
そんなこと、気恥ずかしくて言えないけれど。
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