042 / 第六層・光蝶舞う地下森林
第六層へ通ずる階段を下る。
単なる傾斜した岩場に過ぎなかったそれが、徐々に人工的な階段へと置き換わっていく。
「──確認したのは、ここまでだな。この先は正真正銘の未踏領域だ」
「うー……」
フェリテがしばし身を震わせ、やる気に満ちた笑みを浮かべた。
「どきどきするね!」
「わかる」
俺たちが歩む階段は、前人未踏だ。
どれほど高名な冒険者だって、まだ踏みしめていない場所なのだ。
こんなにも心躍ることがあるだろうか。
もっとも、第五層のほとんどを孤独に踏破した時点では、そんな感傷の一つも抱きはしなかったけれど。
やはり、共に喜ぶ仲間の存在は大きいのだ。
「しかし、長いな……」
階層間の階段が長いのは当然だ。
短ければ階層と階層のあいだが薄くなって、崩落の危険性すらある。
だが、それにしても下りすぎている気がする。
「このまま七層まで突き抜けちゃったりして」
「あり得ない話じゃないな」
もう、二十分は下り続けている。
帰りのことは考えたくもない。
そんな益体もない会話を交わしていると、階段が唐突に終わりを告げた。
通路の先から光が漏れている。
「……明かりがある?」
「ほんとだ。ここ、地下のはずだよね」
それも、かなり照度が強い。
真夏の屋外とは言わないが、近しいほどの光量がある。
「人工精霊、しまっておく?」
「光源の正体を見極めてからだな。通路を抜けた先だけ明るい可能性もあるし」
「うん、そうかも」
短い通路はすぐに途切れ、俺たちは第六層の全貌を目の当たりにする。
──それは、一本一本が神木級の大樹で形作られた巨大な地下森林だった。
天を衝く樹木の中には、数十メートルの高さのものもある。
道理で階段が長いわけだ。
「──…………」
フェリテが、呆然と口を開いたまま、目の前の光景に没頭する。
きっと、俺も似たような顔をしていたことだろう。
地下森林の合間を無数の点が舞っている。
それは、光の蝶に見えた。
第六層の光源は、この蝶だ。
あまりに膨大な数が生息しているため、昼間の如き明るさとなっていたのだった。
「精霊、だ。初めて見た……」
「これが、人工精霊の原型?」
「うん、そのはず。人工精霊は精霊を模した魔法生物なんだ。精霊の姿形は環境によって異なるんだって。今回みたいに蝶の場合もあれば、人の形を摸する場合もあるって冒険譚で読んだことある」
「なるほどな。環境に適した姿へと変化するわけか」
俺は、人工精霊の小瓶を取り出し、中に角砂糖を一つ落とした。
人工精霊がひらりと小瓶の中へ戻ってくる。
「これだけ明るければ、さすがにいらないもんね」
「ああ。こいつらには帰り際に頑張ってもらおう」
人工精霊を背負い袋に仕舞い込み、生成した新たな羊皮紙をクリップボードに挟む。
マッピングのし甲斐がありそうだ。
目の前には地下森林の合間を縫うように遺跡が立ち並んでいる。
朽ちかけた石橋の下に小川が流れており、ここが地下であることをつい忘れてしまうくらいだった。
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