038 / 休憩タイム
「──それじゃ、宝箱開けるか」
「うん!」
フェリテが嬉しそうに頷く。
「やっぱ、ダンジョンと宝箱は切っても切れない間柄だよね」
「ミスリル鉱石じゃなきゃいいんだけど……」
「違うといいね……」
ミスリル鉱石は間に合っている。
金銭的価値はそれなりにあるのだが、やはり一度に運べないのがネックだ。
こんなとき、アイテムを九十九個ずつスタックして所持できるゲームのキャラクターが羨ましくなる。
「ところで、もう入れるのかな」
フェリテが、空気の加熱された脇道に手を差し入れる。
「あっつ……い、けど」
その様子を見て、通路に足を踏み入れた。
サウナを思わせる温度だが、洞窟内とは思えないほどの空気の流れを感じる。
空気が熱されたことで、循環が行われているのだ。
この様子であれば、熱気はすぐに失われるだろう。
「大丈夫みたいだな」
「うん。暑いは暑いけど、行けそう」
通路の奥へと辿り着き、宝箱の蓋を軽くノックする。
ミミックの判別方法なんてわからないから、ただの気休めに過ぎないけれど。
「あ、宝箱開けてみたい!」
「いいけど、気を付けてくれよ。宝箱のふりをした魔物かもしれないんだから」
「スライムと一緒に熱されたんだから、魔物なら気付くんじゃないかな」
「たしかに……」
フェリテの言葉に納得し、宝箱の正面を譲る。
「では、尋常に──勝負!」
何と勝負しているのかはわからないが、フェリテが宝箱の蓋を勢いよく開いた。
宝箱の中身は、鉱石ではなかった。
「……薬?」
治癒薬と同程度の大きさの、しかし見たこともない形状の小瓶だ。
透明と思しき瓶の中で、黒、紫、金色が、複雑なマーブル模様を描いている。
それが、五本入っていた。
「なんの薬だろ」
「わからないけど、この場で飲む勇気はないな……」
「うん……」
「帰ってアーネに鑑定してもらおう。神官って鑑定呪も使えるんだろ」
「たしか、そう。全員が全員ではないけど」
「アーネはどうなんだろうな」
ミスリル鉱石のときは鑑定呪を唱えているように見えなかったが、元より知識として持っていれば必要はないだろう。
「ともあれ、無事に宝箱を見つけることができた。これにて五層の探索はおしまいだ。六層の様子を確認したら、地上へ戻ろうか」
「そうしよう。でも、その前にやることがあるよ」
フェリテが高らかに宣言する。
「休憩たーいむ!」
「お、休憩タイムだ」
「この脇道、リュータのおかげであったかいし、擬態スライムは全部駆除したから安全だし、ここで休んでこ」
「なるほど。言われてみれば休息に最適かもな」
まだまだ熱は篭もっているが、すぐに適温になるだろう。
すこしの辛抱だ。
俺は、大きめの岩棚に腰掛けると、そのまま上半身を横たえてみた。
「あー……」
そこで、ようやく気が付いた。
俺は疲れているみたいだ。
「保存食と水で夕食にしたら、交代で寝よっか。リュータが先でいいよ。あたしは丈夫だし、まだまだ余裕だから」
「──……そう?」
張り詰めていた糸が弛み、自らの疲れを自覚してしまえば、あとはもう転がり落ちるだけだった。
背負い袋から毛布を取り出し、岩棚に敷く。
そして、その場で横になった。
「ごはんはいいの?」
「……起きてから食べる」
「わかった。おやすみ、リュータ」
「おやすみ──」
敷いた毛布にくるまって、ゆっくりと目を閉じる。
ダンジョン攻略を開始して一ヶ月。
俺は、初めて、魔物に怯えずに熟睡することができた。
フェリテに守られている気がしたからだ。
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