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035 / 主人公の名は

「フェリテ=アイアンアクス。この名前、偽名なんだ」


 知ってた。

 だが、今は口を挟む場面ではない。


「あたしの本当の名前は、フェリシア=フェテロ=エレウテリア。聞き覚え、ある?」


「……いや、ないな。なんとなく高貴そうだとは思うけど」


「あはは、正解」


「貴族とか?」


「惜しい」


「……もしかして、王族?」


「正解!」


 思わず瞠目どうもくする。


「マジか」


 漫画や小説ではお決まりの展開だ。

 だが、フェリテに関して、俺は一切の干渉を行っていない。

 本当に、たまたまなのだ。


「じゃ、フェリテは、この国のお姫さまってことか?」


「姫と言えば姫だけど、国王と王妃のあいだに産まれたわけじゃないよ。もっと傍系のほう。具体的に言うと、国王の従弟がパパなんだ」


「なるほど……」


「王家であるエレウテリア家は、かつて神の加護を賜り魔王を討ち果たした勇者の末裔。すべての冒険者の始祖と言える。魔王が討伐されて以降、すべての魔物はダンジョンに封じられた。冒険者が吟遊詩人を伴わなければダンジョンに入れないのと同じで、魔物がダンジョンの外に出られないのは、神の定めた"法則"って言われてるよね」


「ああ、聞いたことがある」


 神に与えられた知識の中に、それは含まれていた。


「同じく、エレウテリア家に課された法則があるんだ」


「王家に、のみ?」


 フェリテが小さく頷き、呟くように口を開いた。


「──"二十四年に一度、王家は冒険者を輩出しなければならない"」


「それ、って」


「うん。その冒険者が、あたし」


「──…………」


 かすかな義憤が口の端から漏れる。


「……そんなの、生け贄と変わらない。貧乏くじを引かされてるだけじゃないか」


「あはは……」


 なにやってんだよ、神。

 俺のことと言い、道楽が過ぎるぞ。


「あたしもね、そう思ってた。どうしてあたしが、って。冒険譚は好きだったけど、自分で冒険がしたかったわけじゃない。他の王族のために、ただ放逐ほうちくされる。そんなの耐えられなかった。つらかった。城から出る前も、出てからも、夜になればずっと泣いてた」


「──…………」


「でも、ね」


 フェリテが微笑む。


「昨夜、初めて泣かずに済んだんだ。セッションのことが頭から離れなくて。リュータとの冒険が、楽しみで。わくわくして眠れないくらいだったんだ。へへ……」


「──…………」


「あたしね。冒険者になって、よかったと思う。この鉱脈を見て、初めてそう思えたの。これからの人生、きっと、いろんなことがある。冒険者だから、いつ死ぬかもわからない。でも、今日のことは絶対に忘れない。泣き虫のあたしが、冒険者のあたしのことを、初めて肯定できた日だから」


「……そうか」


 こんな話を聞かされたら、俺も覚悟を決めるべきだ。


「──フェリテ、俺はな。"最高の冒険譚"を書くために吟遊詩人をやってる」


「最高の、冒険譚……」


「ふわっとした目標だろ。でも、本気だ」


「そっか。リュータになら、きっとできると思うよ」


「他人事じゃないぞ、フェリテ」


「?」


「決めたんだ。俺の紡ぐ"最高の冒険譚"の主人公。その名は──フェリテ=アイアンアクス」


「……へ?」


「嫌か?」


「い、嫌じゃない! 嫌じゃないよ! 嬉しい、けど……」


 フェリテが、照れたように目を逸らす。


「あたしなんかで、いいの?」


「なんか、じゃない。フェリテがいいんだ」


「ちょ、……ちょっと、プロポーズみたいなんだけど……」


「あ、いや、そういう意味じゃないぞ!」


「わかってるよー……」


 フェリテが、頬を染めながら苦笑する。


「ずっとパーティを組んでくれる。そういうことでしょ?」


「ああ、そうだ。フェリテが嫌だって言うまで、だけどな」


「言わないよ。リュータとの冒険、すごく楽しいから。それに、セッションの続きもしたいしね!」


「現金なやつめ」


「えへへー」


「ははっ!」


 ひとしきり笑い合ったあと、俺はフェリテに右手を差し出した。


「これから、よろしくな。フェリテ」


「うん」


 フェリテが俺の手を握り返す。


「よろしく、リュータ」


 この瞬間から、俺たちは、本物のパーティになったのだ。

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