031 / 仲間
「──これでよし、と」
大ネズミにさくさくととどめを刺す。
ダンジョン内では、外とは比べものにならないくらい死体の分解が早いらしい。
このまま放置して構わないだろう。
「そうだ。フェリテ、傷を見せて」
「ん」
フェリテの腕を取り、傷口に視線を落とす。
服を貫通し、血が滲んでいた。
袖をまくると、大ネズミによる噛み痕が痛々しく左腕に刻まれている。
「……痛いだろ、これ」
「すこし痛いけど、治癒薬を飲むほどじゃないかな。平気平気」
「うーん……」
傷自体より、化膿や病気が怖いんだよな。
ダンジョンに生息する大ネズミの口なんて、不衛生に決まっている。
「フェリテ、治癒薬って病気も治るんだっけ?」
「えーと、たぶん治らないと思うよ。意味がないことはないと思うけど……」
「なるほど」
やはり、早めに対処しておいたほうがよさそうだ。
「治癒薬、飲んでおこう。変な病気にかかったら困る」
「でも、あと一本しかないし……」
「俺が五本持ってる」
「で、でも、治癒薬って高いよ? そんなのもらえないよ」
「フェリテが逆の立場だったら、どうする?」
「逆の立場……」
「俺が怪我をして、放置すれば化膿しそうだとする。俺は治癒薬を残り一本しか持ってなくて、フェリテは五本持ってる。フェリテならどうする?」
「あげる……」
「そういうことだよ。いつか立場が逆転したら、そのときに同じことをしてくれればいい。俺たちは仲間だ。お互いさま、だろ?」
「……うん!」
ようやく納得してくれたようだ。
頑固と言うか、なんと言うか。
俺は、背負い袋から治癒薬の小瓶を取り出すと、フェリテに差し出した。
「ほら」
「ありがと!」
フェリテが小瓶の蓋を開き、中身を飲み下す。
「……うえー」
「不味いよな」
「まずいー……。それに、治る感覚もちょっと苦手かも」
「それくらいは我慢しないとな。簡単に傷が治るだけでも破格なんだから」
「うん、そうだね。あちち……」
左腕の傷跡が、みるみるうちに癒えていく。
まるで、逆回しの映像を見ているかのようだった。
フェリテの腕に触れる。
「痛くない?」
「うん、もう痛くないよ。大丈夫」
「よかった。以後気をつけるように」
「はーい……」
進軍を再開する。
今度は、五層まで魔物が出ることはなかった。
あの大ネズミたちは俺が喚び出したのだから当然だ。
罪悪感が、ちくりと胸を刺した。
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