表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/125

031 / 仲間

「──これでよし、と」


 大ネズミにさくさくととどめを刺す。

 ダンジョン内では、外とは比べものにならないくらい死体の分解が早いらしい。

 このまま放置して構わないだろう。


「そうだ。フェリテ、傷を見せて」


「ん」


 フェリテの腕を取り、傷口に視線を落とす。

 服を貫通し、血が滲んでいた。

 袖をまくると、大ネズミによる噛み痕が痛々しく左腕に刻まれている。


「……痛いだろ、これ」


「すこし痛いけど、治癒薬を飲むほどじゃないかな。平気平気」


「うーん……」


 傷自体より、化膿や病気が怖いんだよな。

 ダンジョンに生息する大ネズミの口なんて、不衛生に決まっている。


「フェリテ、治癒薬って病気も治るんだっけ?」


「えーと、たぶん治らないと思うよ。意味がないことはないと思うけど……」


「なるほど」


 やはり、早めに対処しておいたほうがよさそうだ。


「治癒薬、飲んでおこう。変な病気にかかったら困る」


「でも、あと一本しかないし……」


「俺が五本持ってる」


「で、でも、治癒薬って高いよ? そんなのもらえないよ」


「フェリテが逆の立場だったら、どうする?」


「逆の立場……」


「俺が怪我をして、放置すれば化膿しそうだとする。俺は治癒薬を残り一本しか持ってなくて、フェリテは五本持ってる。フェリテならどうする?」


「あげる……」


「そういうことだよ。いつか立場が逆転したら、そのときに同じことをしてくれればいい。俺たちは仲間だ。お互いさま、だろ?」


「……うん!」


 ようやく納得してくれたようだ。

 頑固と言うか、なんと言うか。

 俺は、背負い袋から治癒薬の小瓶を取り出すと、フェリテに差し出した。


「ほら」


「ありがと!」


 フェリテが小瓶の蓋を開き、中身を飲み下す。


「……うえー」


「不味いよな」


「まずいー……。それに、治る感覚もちょっと苦手かも」


「それくらいは我慢しないとな。簡単に傷が治るだけでも破格なんだから」


「うん、そうだね。あちち……」


 左腕の傷跡が、みるみるうちに癒えていく。

 まるで、逆回しの映像を見ているかのようだった。

 フェリテの腕に触れる。


「痛くない?」


「うん、もう痛くないよ。大丈夫」


「よかった。以後気をつけるように」


「はーい……」


 進軍を再開する。

 今度は、五層まで魔物が出ることはなかった。

 あの大ネズミたちは俺が喚び出したのだから当然だ。

 罪悪感が、ちくりと胸を刺した。

広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります

どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ