028 / ダンジョン攻略、その前に
「──やー、軽い軽い!」
道の真ん中で、フェリテが戦斧を軽々と振り回す。
それでも三十キロはあるだろうに、フェリテの筋力は少々異常だ。
「フェリテ、危ないですよ」
「あ、ごめん」
アーネにたしなめられ、フェリテがしゅんとする。
「……しかし、その細腕のどこにそんな力が」
「鍛えてますから」
むん、とフェリテが腕を曲げてみせる。
力こぶがあることをアピールしているのだろう。
「触ってみていい?」
「どうぞ!」
許可が出たので、フェリテの二の腕に触れる。
ふに。
「……どこに筋肉が?」
「えー、あるよ。あるでしょ」
「アーネ、二の腕貸して」
「はい」
アーネがこちらに腕を伸ばしてくれたので、そっと触れる。
ふに。
「さすがにアーネのほうが細いけど、さほど変わらないように思えるなあ」
「自分で言うのもなんですが、私は非力なほうです」
「ミスリル鉱石一つでぷるぷるしてたもんな」
「重いですよ、あれ」
「それには同意」
フェリテが両手をわきわきさせながら、言う。
「じゃ、リュータの腕も触らせてよ。あたしたちの触ったんだし」
「興味ありますね」
「いいけど、俺、力自慢でもなんでもないぞ」
デスクワークだったし。
「いいからいいから」
「失礼します」
フェリテが右から、アーネが左から、俺の二の腕にぺたぺた触れる。
「おお、硬いです」
「ほんとだ、硬い硬い。すごい。これが男の子の腕なんだ」
「──…………」
両サイドに女の子をはべらせて硬いだのすごいだの言わせていると、なんだか妙な気分になってくる。
「はい、おしまい!」
大股で歩き、二人から数歩ほど先んじる。
「あ」
「えー、ずるい! あたしたちのはあんなに触ったのに!」
「そんなに触ってないし、人聞きが悪すぎる!」
この街がいくら寂れているからって、人通りがないわけじゃないんだぞ。
俺、隠し通路を見つけた件で有名人だし。
「フェリテ。リュータは照れているのです。そうつつかないであげてください」
「照れてまーせーんー」
「そっか、男の子だねー」
「照れてないっつの!」
「あはは!」
「ふふ……」
笑われてしまった。
なんだか学生のころを思い出すノリだ。
アーネとフェリテが俺に追いつき、再び隣を歩き始める。
「でも、これですこしは安心したよ。フェリテのドジの大半は、あの大斧が原因だったと思うし」
「正確には、ドジと言うより必然に近いものです。むしろ、あの重量の戦斧を背負いながら、まともに活動できていたことが異常なのですが」
「異常とか言われた」
「先祖代々、力持ちの家系だったりするのか?」
「んー、そういうわけでもなかったと思う……」
「じゃ、突然変異だな」
「失礼なことを言われている気がする」
「褒めてるんだよ」
「ならよし!」
「……フェリテ、騙されやすいと言われませんか?」
「え、騙したの?」
「騙してないよ」
「ならよし!」
「警戒を解いた相手には、まったくのノーガードなのですね」
「大型犬っぽい」
「わかります」
「失礼なこと言われてる気がする……」
「褒めてるんだよ」
「なら、よし……?」
「決して貶してはいませんが、褒めているかどうかは微妙なところだと思いますよ」
「あ、こら。しー!」
「やっぱ失礼だった!」
「大型犬、可愛いじゃん。アーネもそう思うよな!」
「それは、思いますが……」
「つまり、フェリテは可愛いって言ってたようなもんだ」
「そうかなあ……」
「……だんだん知恵をつけてきたな」
「あ、今のは失礼」
「今のは失礼ですね」
「ははっ、ごめんごめん」
「もー……」
そんなやり取りを交わしながら、竜とパイプ亭への帰路につく。
早めの昼食をとったあと、俺たちは、今度こそ深く暗いダンジョンへと挑むのだった。
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