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027 / その戦斧、あまりに重く(2/2)

「フェリテ、ちょっと頼みがあるんだけど」


「?」


「その戦斧、持たせてくれないか」


「いいけど、重いよ……?」


「知ってる」


 フェリテが、背中の大斧を下ろす。

 ずしん。

 尖頭部(せんとうぶ)が地面に触れた瞬間、僅かに足元が揺れた気がした。


「はい」


「ありがとう」


 両手で柄を握り込み、戦斧を持ち上げ──ようとする。


「ぐ」


 重い。

 死ぬほど重い。

 振り回すどころか、そもそも持ち上がらない。


「え、何キロあんのこれ……」


「量ったことないけど、あたしの倍はあるかなあ」


「──…………」


「──……」


 アーネと顔を見合わせる。


「……重そうだとは思ってたけど、そこまでとは」


「そりゃ転ぶわけです」


「だよなあ……」


「あ、いや、それはあたしの鍛錬が足りないからで」


 なかば呆れながら告げる。


「鍛錬の問題じゃないんだよ」


「フェリテ、シーソーは知っていますか?」


「知ってるけど……」


「シーソーの片側に、フェリテ。反対側にこの戦斧を乗せるとしましょう。さあ、頑張ってシーソーをあなたのほうへ傾けてください」


「えっ」


 フェリテが考え込む。

 十秒。

 二十秒。

 三十秒──


「……あたしがアーネを担ぐ?」


「それ以外で」


「リュータを担ぐ」


「重いものを持つ以外の方法で、です」


「無理だと思うんだけど……」


「はい、無理です」


 フェリテが目をまるくする。


「え、そんなのあり?」


「あなたがしようとしていることですよ」


「……?」


 まだ理解できていないのか、フェリテが小首をかしげた。


「フェリテにどんな力があったとしても、自分より重い武器を扱うなんて物理的に不可能なんだよ。振り回したつもりが振り回されて、重心が傾けば倒れることは免れない。解決策があるとすれば、一つだけだ」


「……それは?」


「フェリテが、その斧より重くなればいい」


「──…………」


「パン、たくさん食べますか?」


「えーと、そのー。それは、乙女として、選んじゃいけない道のような。軽鎧(メイル)も入らなくなるし……」


「だったら武器変えよう」


「ええ、それがいいです」


「えー!」


 フェリテが不満げな声を上げた。


「いいか、フェリテ」


 俺は、真剣な顔を作り、なるべく冷たい声で言い放った。


「ダンジョンで扱いきれない武器なんて振り回したら、本当に死ぬぞ。その戦斧を使い続ける限り、俺はフェリテに同行できない」


「──…………」


 厳しいかもしれないが、フェリテの命には代えられない。

 仮に、それが、先祖代々伝わる形見の品だとしても、俺の意見は変わらない。


「その戦斧に、思い入れでもあるのか?」


「実は……」


 フェリテが訥々(とつとつ)と語り始める。


「冒険者になると決めて入った武具屋で、いちばん強い武器くださいって言ったら、これが出てきたの」


 浅い理由だった。


「……それ、絶対売れ残りを押し付けられてるからな」


「普通は買いませんからね。そもそも持てないでしょうし」


 持ててしまったのが悲劇の始まりだったのかもしれない。

 俺は、溜め息を一つついた。


「予定変更だ。ダンジョン攻略の前に、武具屋に寄る」


「お金ないよ!」


「貸す。お願いだから遠慮はするな。これは先行投資だ。ろくに戦えない仲間なんて連れてみろ。ソロより厳しい探索になるぞ」


「う」


「幸い、売っ払える鉱石はいくらでもあるんだ。あれ運んでくれたら売却額の半分はフェリテにやる。そこから返してくれればいい」


「……それなら、いい、のかな?」


「その膂力があれば、俺が三個しか持てない鉱石も、十個くらい一気に運べるだろ。正直あれ持ち出すのにうんざりしてたから、ありがたいくらいだよ」


 フェリテが、覚悟を決めたように頷いた。


「わかった。二人のアドバイス、素直に聞くことにする。死にたくないし、リュータに迷惑かけたくないもんね」


 アーネが安堵の息を漏らす。


「是非そうしてください。せっかく友達になったのに、死んでほしくはありませんから」


「ほんと、ご心配おかけします……」


 ダンジョンの入口に背を向ける。


「じゃ、武具屋行こうか。ついでにその斧も買い取ってもらおう」


 こんなもの売りつけられても、武具屋のおじさん困ると思うけど。


「だね。使わないなら重いだけだし」


「せっかくですから、私も同行します。フェリテがまた妙な武器を買わないとも限りませんから」


「買わないよー……」


「前科があるからな」


「それはそうだけど」


「アーネも心配なんだよ。三人で見繕えば間違いはないだろ」


「……そっか」


 フェリテが嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、お願いしようかな」


「ええ、おまかせください」


 俺たちは、来た道を戻ると、行きつけの武具屋へと足を向けた。

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