023 / 初めてのセッション(3/5) セッション開始
「アーネ。セッションを始める前に、飲み物の注文いいかな」
「ええ、もちろん。ビールのお代わりですか?」
「いや、セッションするときは飲まないようにしてるんだ。たっぷり氷を入れた果実水が欲しい」
「わかりました。フェリテさんはどうします?」
「あたしも同じので」
「了解です。今回はサービスにしておきますね」
「お、太っ腹。ありがとうな」
「ありがと、アーネちゃん!」
「今から一緒に遊ぶのですし、私も飲みたいですからね。微力ですが、それくらいはさせてください」
そう告げて、アーネがカウンターの奥へと引っ込んでいく。
しばらくすると、俺たちの前に、果実水の入ったグラスが並んだ。
「──さ、セッションを開始しますか」
「はい」
「な、なんか、ドキドキするね……!」
「ダンジョンへ出向く冒険者たちは、皆こういった気分だったのでしょうか……」
こほん、と咳払いをする。
「導入は飛ばしていいだろ。二人は、この竜とパイプ亭で出会い、パーティを組むことになった。そして、今日が初めての冒険だ」
「──…………」
「──……」
二人が、息を呑む。
俺は、初日に描いた第一層の地図を取り出した。
「君たちは今、まさに、ダンジョンの入口に立っている」
入口のところに二つのコマを置く。
戦士と魔法使いのコマだ。
「ぽっかりと口を開けた虚穴の奥に、濃い暗闇が立ち込めている。何が待ち受けているのか、それはわからない。わかることは一つだけ。このダンジョンに足を踏み入れた瞬間から、君たちは真に冒険者になるということだ」
アーネとフェリテが顔を見合わせる。
「……行きましょう」
「うん」
「では、コマをダンジョン内へと進めてください。君たちの手で」
「はい」
「わかった」
──トン、と、二人がコマを進める。
「ダンジョンの中は、あまりに暗い。太陽の光に慣れた目では、すぐに壁と床の境目すらわからなくなってしまう。君たちは小瓶を取り出すと、人工精霊を解き放つ。ほの赤い、"アーネ"の人工精霊。ほの青い、"フェリテ"の人工精霊。それらが織り成す紫色の光が、ダンジョンの床を、壁を、照らし出すことだろう」
「おおお、こんな感じだったこんな感じだった!」
そりゃ、俺の実体験を元にした描写だからな。
「なるほど、こういった高揚感を覚えるのですね」
"アーネ"と"フェリテ"がダンジョンの探索を開始する。
分かれ道があればどちらへ行くべきか悩み、宝箱を見つければ子供のように喜ぶ。
宝箱を三つも開ければ、探索はもう十分だろう。
今度は戦闘にも慣れてもらわなければな。
「──そのとき、君たちの行く手を、三体の巨大なネズミが遮った。さあ、初めての戦闘だ。気合いを入れて行こう!」
「待ってました!」
「ええ、撃破しましょう」
20×20のマス目を描いた戦闘用の羊皮紙を広げる。
「ラウンド1、セットアッププロセスからだ。行動値順で"アーネ"からだな」
「わかりました。まず、ステップを踏んで攻撃のダメージを底上げしましょう」
「了解」
別の羊皮紙に、アーネの使用したスキルと効果をメモっておく。
「大ネズミ三体はセットアップスキルなし。"フェリテ"は?」
「あたしもないよ」
「では、メインプロセスへ。また"アーネ"からだ」
「では、左の大ネズミに火炎呪を放ちます」
「判定をどうぞ。やり方はわかる?」
「六面ダイスを二個、ですよね」
「ああ。ファンブル──両方とも1なら失敗だ。それ以外なら問題なく発動する」
「わかりました」
「さあ、初ロールだ。景気よく行ってやれ!」
「はい!」
アーネが気合いを入れてダイスを転がす。
出目は2と3だ。
「ふー……」
「アーネの唱えた火炎呪が発動し、大ネズミの一体へ向けて炎の矢が放たれる。パチパチと火花を散らすそれは、大ネズミの体へと突き刺さるだろう。さあ、ダメージだ。ステップで底上げしてるから、2D6+13だな」
「よし」
アーネが、真剣な顔で、再びダイスを振る。
「6と、2。+13ですから、21点です」
「では、21から大ネズミの魔法防御力を引いて──」
暗算し、言葉を継ぐ。
「うん、ギリギリ生きてるな」
「仕留め損ねましたか」
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