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020 / TRPGへの誘い

「そ、その。パーティを組むのがあたしなんかでいいんですか……?」


 何故か敬語になってるし。


「いいんだって。初日のログはましだけど、その先読んでみ」


「うん……」


 フェリテが羊皮紙をめくっていく。


「──…………」


 眉根にしわが寄っていくのが見て取れた。

 わかりやすい。


「つまんないだろ?」


「あ、いや、そんなことは」


「はっきり言ってほしい」


「……まあ、正直、初日のログが最大瞬間風速かなー、とは」


 俺は、肩をすくめてみせた。


「そうなんだよ。結局、同じことの繰り返し。さらに深層まで行けば多少はましな展開になると思うけど、いつになることやら」


「なるほどなあ。ソロでも行ける吟遊詩人って、そんな悩みがあるんだね」


「吟遊詩人の本懐は、ログを元に冒険譚を書くことだろ。いくら強くたって、大して意味はないんだ。それどころか、強さが邪魔になることすらある」


「強さが、邪魔に?」


「実力差のある相手に無双したところで、盛り上がるログにはならないってことさ。しかも、回数をこなせばこなすたび動きが効率化していく。魔物が現れたら、火炎呪、剣戟、火炎呪、剣戟。疲れたら鉱石持って帰還。この繰り返しだもの。やってる本人が飽き飽きなのに、ログ読んで楽しいわけがないわな」


「たしかにそうかも……」


「その点、二人なら戦術の幅が広がる。会話だって書き留めておける。休息だって交代で取れる。腐るほどある鉱石だって持ち帰れる。何より寂しくない。いいこと尽くめだ!」


「──…………」


 フェリテが、同情するように目を細める。


「苦労したんだね……」


「わかってくれるか」


「あの真っ暗なダンジョンに一人で挑むのは、かなーり勇気がいるもんね。あたしも経験ある」


「そうなんだよ……」


 うんうんと頷いたあと、ふと疑問が湧いた。


「一人で?」


 吟遊詩人がいなければ、ダンジョンには挑めないはずだ。


「あ、もちろん入るときは一人じゃなかったよ。ただ、第三層で、足手まといだって置いて行かれちゃって」


「──…………」


「ここから一人で帰れって言われたんだけど、帰り道覚えてなくて、丸二日さまよった挙げ句に別のパーティに保護されました……」


 俺は、義憤に駆られて言った。


「そりゃ、ひどいな」


「……あたしも悪いんだ」


 フェリテが自嘲の笑みを浮かべる。


「魔物もいないところで何度も転んで貴重な治癒薬を無駄遣いしたり、魔物に振り下ろした斧がすっぽ抜けて仲間に当たりそうになったり。というか、頭にかすってハゲできてたし……」


「……そりゃ、ひどいな」


 まったく同じ言葉だが、意味合いは正反対だ。


「──…………」


「──……」


「見捨てないで!」


「見捨てるつもりはないけど……」


 ただ、根本的に、冒険者に向いていないんじゃなかろうか。

 死角から斧が飛んできたら、いくら〈ゲームマスター〉でも対処しきれないぞ。

 そんなことを考えていると、アーネがフェリテの夕食を運んできた。


「こちら、リーパイ魚のシチューと付け合わせの焼きたてパンです。足りなければ追加オーダーをどうぞ」


「ありがと、アーネさん!」


「いえ」


 アーネが俺の隣に腰掛ける。


「それで、リュータ。先程の続きを窺いたいのですが」


「続き──」


 言われてすぐに思い出す。


「ああ、TRPGのことか!」


「そのTRPGです」


 アーネが思ったより前のめりだ。

 これほど嬉しいことはない。


「ひーあーるぴーひー?」


 よほど腹が減っていたのか、フェリテがシチューを頬張りながら尋ねた。

 行儀が悪い。


「ええ。リュータの故郷の遊び、らしいのです。先程誘われまして」


「よかったら、フェリテもどうだ?」


「三人でも遊べるものなのですか?」


「ああ、問題ない。それどころか、もっと多くてもいいくらいだ」


「なかなか受け皿の広い遊びなのですね」


「少なくとも、二人だけでやるよりは、ずっと面白くなるはずだぞ」


 フェリテが遠慮がちに言う。


「……お邪魔じゃない?」


「邪魔じゃない、邪魔じゃない」


「ええ。よろしければ、フェリテさんも是非」


 木製のさじを置き、フェリテが小さく頭を下げた。


「なら、お付き合いさせていただきます。よろしくね」


「ああ、よろしくな」


 俺は、小さくガッツポーズをした。

 オフラインセッションは初めてだが、ボイセは経験がある。

 なんとかなるだろう。

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