019 / 駆け出し冒険者 フェリテ=アイアンアクス
「あなたは、ダンジョンを求めてこちらへ?」
「あ、うん。完全攻略されたダンジョンに隠し通路が発見されたって聞いて立ち寄ったんだ。路銀も心許なくなってきたところだったし」
やはり噂になっているらしい。
好都合だ。
アーネが俺を肘でつつき、小声で耳打ちをする。
「……狙い目ですよ」
俺は、アーネに頷いてみせた。
「改めて、俺は工藤竜太。吟遊詩人だ。竜太のほうが名前なんで、好きに呼んでくれ」
「あ、これはご丁寧に」
少女が会釈をし、自らの名を名乗る。
「あたしは、フェリテ=アイアンアクス。駆け出し冒険者だよ」
「アイアン」
「アクス……」
俺とアーネの視線が、フェリテの背中で交差した。
巨大な鉄斧が背負われている。
「もしかして、偽名?」
「ぎ、ぎ、偽名じゃないよ!」
「──…………」
アイアンアクス姓までは存在するとしても、わざわざ武器を鉄の斧で揃えるだろうか。
「リュータ。人には人の事情がありますので」
「……それもそうだな」
俺だって、詮索されては困ることばかりだ。
「実を言うと、ソロじゃログがつまらなくてな。誰かを誘おうにも、この街には俺以外に冒険者いなかったし。よかったら、仮でもいいからパーティを組まないか? 組んでくれるなら今夜の宿代は俺が持つよ」
フェリテが、安心したように頷いた。
「あ、そういうことだったんだ! 納得納得。いきなり宿代出してくれるって言うから、怪しい人かと思っちゃった」
「……その節は申し訳ありませんでした。配慮が足りなかったよ」
アルコールさえ回っていなければ、もうすこしスマートに誘えたものを。
アーネに感謝だな。
「パーティ組むのは喜んで! だって、吟遊詩人がいないと、そもそもダンジョンに入れないんだもん。願ったり叶ったりだよ」
「あー」
そう言えばそうだった。
一ヶ月もソロで潜っていたから、忘れかけていた。
「宿代は、出してもらうんじゃなくて、貸してもらえると助かるかな。あんまり借りは作りたくないんだ」
「それもそうだな。わかった。フェリテに金が入るまで、宿代は俺が貸すよ。収入があれば、そこから返してくれればいい」
「うん、お願いします!」
フェリテが深々と頭を下げる。
その瞬間、
「──うあ!」
背中に担いだ大斧の重心が前に傾いたためか、そのままべしゃりとその場に倒れ伏した。
「──…………」
「──……」
アーネと顔を見合わせる。
俺の顔にも、アーネの瞳と同じ感情が宿っていたことだろう。
この子、大丈夫なんだろうか。
「……平気か?」
フェリテに手を差し出す。
「あ、うん。へへ……」
フェリテが俺の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
そうして、膝頭をパンパンと払い、今度は浅く会釈をした。
「うん、お願いします!」
さきほどのシーンのやり直しらしい。
「……ま、一緒にメシでも食う?」
「食べる食べる。リュータのログも見てみたいしね」
「それくらいなら喜んで。大したものじゃないけどな」
アーネが半眼で告げる。
「フェリテさん」
「なあに?」
「リュータの言うことは信じないでください」
「え!」
「人聞きの悪い……」
「いえ、今のは言葉足らずでしたね。リュータの人格を否定したかったわけではないのです。ログを読んでも驚かないように、という意味です」
「はあ……」
きょとんとしているフェリテを連れて、元のテーブルへと戻る。
鉄斧を壁に立て掛けると、フェリテが正面の席に腰掛けた。
「はい、これ」
清書したログを展開し、フェリテに差し出す。
「ありがと。読ませてもらうね」
そう言って、フェリテが羊皮紙に視線を落とした。
その目がだんだんと見開かれていく。
「──剣の達人。マッピングの天才。え、極大火炎呪!? 待って待って、おかしいおかしいおかしい!」
「はは……」
思わず苦笑する。
仕方なかったとは言え、やっぱ盛りすぎなんだな。
今後は自重しなければなるまい。
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