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016 / 希望

「……鉱石を見せてもらえませんか。疑うわけではないのです。吟遊詩人は、一欠片の嘘も記すことはできないのですから。それがなんの鉱石であったのか、知りたいのです」


「わかった」


 俺は、背負い袋から、鉱石を一つ取り出した。

 アーネが手を差し出したので、首を横に振る。


「アーネが思うより倍は重いから、カウンターに置くよ」


「お気遣いありがとうございます」


 カウンターの上に、あの複雑な色合いの鉱石を置く。

 明るい場所で見るそれは、ますます美しく、まだらに輝いていた。

 そのきらめきはビスマス結晶にも近い。


「……これは」


 アーネが、鉱石を手に取ろうとする。


「ふぎ!」


 だが、片手では無理だ。

 両手を用い、なんとか持ち上げることに成功する。

 もっとも、アーネの細腕はぷるぷると震えていたが。


「……これは、ミスリル鉱石。純度は低いですが、そのように見受けられます」


「ミスリル、か」


 漫画やゲームではよく見る名前だが、マジで存在するんだな。


「やっぱ、希少なもの?」


「ええ、それなりには。精錬したミスリルインゴットであれば一財産になりますが、これはまだ鉱石に過ぎませんし、とんでもない価値を持つわけではありません。それでも宝箱いっぱいにあれば、二、三ヶ月は遊んで暮らせるくらいの金額にはなるでしょう」


「なら、持ってこられたぶんだけでも、宿代にはなりそうだな」


「ええ、十分に」


 アーネが、俺に向かって一礼する。


「──ありがとうございます、リュータ」


 上げた顔には、微笑みが湛えられていた。


「まだ分量こそ足りませんが、いつかあなたの冒険譚が出版されれば、この街は再び活気を取り戻すでしょう。そうでなくとも、ダンジョンに隠し通路があったと噂が出回れば、冒険者たちが再び立ち寄ってくれるかもしれません。希望が、見えてきました」


「……俺は、ただ」


 自分の都合でダンジョンを創り上げただけだ。

 だが、そんなことを口にできるはずもない。


「ただ、好きに冒険しただけだよ。見つけられたのは、たまたまだ」


「そうですか。しかし──」


 アーネが、いっそ呆れたように口を開く。


「剣の達人で、マッピングの天才で、極大火炎呪(きょくだいかえんじゅ)を詠唱破棄で扱える吟遊詩人なんて、世界中を探してもリュータくらいのものでしょうね」


「はは……」


 やはり、盛りすぎただろうか。

 神官にログを見せる必要がある以上、不自然な描写はすべきではない。


「これほどの才を持ちながら、今まで無名であったとは……」


「──…………」


 俺が困るのを察したのか、アーネが言葉を継いだ。


「ああ、いえ。詮索するつもりはないのです。人には人の事情がある。ダンジョンは誰であろうと、資格を満たした者を拒みません。であれば、神の遣いである私たちが、どうしてそれを気にすることがありましょう」


「……ありがとう」


 アーネのスタンスは、正直助かる。

 根掘り葉掘り聞かれれば、いずれはボロが出るだろう。

 俺は、この世界について、まだまだ知らないことが多いのだから。


「昼食をとったら、休むことをおすすめします。きっと、自分が思っている以上に疲弊しているはずですから。起きたころに入れるよう、お風呂を沸かしておきますね」


「ああ。そうしてもらえると助かるよ」


 ログをまとめるのに集中していたため、もうくたくただ。


「なんなら、夕食前に起こしてくれないか。このまま好き放題に寝たら、昼夜逆転しちゃいそうだ」


「ええ、わかりました」


 俺は、マスター謹製の焼きたてパンで作ったふかふかのサンドイッチを胃の腑に押し込むと、そのままベッドに倒れ込んだ。

 木製のベッドは少々硬いが、洞窟の地面に比べれば天国だ。

 俺の意識は、吸い込まれるように眠りに落ちていった。

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