125 / 装備を整えよう!(6/6)
「その点、こいつは薄手で硬い。そのぶん脆いが、よほどでなければ一撃は耐える。使い捨てみたいなもんだな」
「わかりました。では、それを一ついただけますか?」
「おう、まいどあり! 青銅貨八枚と鉄貨四枚ってとこだな」
革袋から銀貨を取り出す。
「お釣りもらえます?」
「おう、待ってな」
青銅貨一枚と鉄貨六枚を釣りとして受け取る。
「装備の仕方はわかるかい?」
「内側の革ベルトで腕に固定するのですよね」
バックラーを持ったまま、しばしアーネが固まる。
「……これ、一人で装備するの無理なのでは?」
「無理ではねえが、コツはいるな。ま、慣れるまでは、兄ちゃんかフェリテの嬢ちゃんにでも装備させてもらいな」
「あたしにまかせて!」
「はい、お願いできますか」
フェリテがバックラーを手にし、革ベルトの隙間にアーネの左腕を通していく。
「きつくない?」
「すこし。ですが、これくらいでなければずれると思いますし」
「じゃあ、いったんこれで留めてみるね」
「はい、お願いします」
フェリテは、これでいて小器用だ。
筋肉痛のアーネに痛みを感じさせないよう、それでいて素早くバックラーを装備させる。
「はい、できた!」
「おお……」
アーネが、バックラーを正面に構えてみせる。
「カッコいいでしょうか」
「おう、カッコいいぜ!」
おじさんが親指を立てる。
相変わらず調子がいい。
「だが、使い方がちと違うな」
「?」
「バックラーは、構えるんじゃなくて、打ち払うように使うんだ。前面がドーム状に膨らんでるだろ。真正面から受け止めると、滑って、結局自分に当たったりすんだよ」
「なるほど、そうかもしれません」
「つーのも、薄いから、まともに受けたら攻撃が貫通しかねないんだ。だから、相手からの攻撃を滑らせて、払う使い方が主になるわけだな」
「ありがとうございます。おおよそ理解しました」
「構えるより難易度は高くなるが、頑丈にすると重くなる。一長一短ってことよ」
ふと思う。
「ミスリルの盾なんてあったら、めちゃくちゃ使い勝手よさそうだよな」
「軽くて丈夫、壊れない。最高の盾だと思うぜ。ただ、うちにゃさすがに置いてねえな。ミスリル装備なんてのは、マジで出回ってねえから。うちの爺さんが仕入れられただけでも奇跡みたいなモンよ」
「じゃ、早いとこ金貯めて迎えに来ないとなあ。七層の宝箱次第だけどさ」
「おう。待ってるぜ、兄ちゃん」
そう言って、武具屋のおじさんが、人好きのする笑みを浮かべる。
「では、買うものも買いましたし、そろそろ帰りましょうか」
「だね」
「おじさん、どうも。また来ます」
「切れ味鈍る前に持ってこいよ!」
「はーい!」
おじさんに手を振って、武具屋を後にする。
「アーネ、それ外さなくていいのか?」
そう言って、アーネの左腕に装備されたバックラーに視線を向けた。
「ええ。すこしでも慣れておこうかと」
「帰ったら、使い方の練習する?」
「い、いえ。筋肉痛が治ってからでお願いしたいです……」
「わかった!」
「小さな布袋に米、か。マスターに頼めば用意してくれるかな」
「それなら当たっても痛くないもんね」
なんだかお手玉みたいだ。
「いい買い物ができたな」
「うん!」
「ええ、とても」
俺たちは、再び亀の歩みで、竜とパイプ亭へと帰っていく。
陽光もすこしずつ鳴りを潜め、秋の気配を感じる頃合だ。
このまま行けば、一度は冬を越すだろう。
冬支度を整えるためにも、ミスリルの長剣のためにも、第七層である程度は稼ぎたいところだった。
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