120 / 装備を整えよう!(1/6)
第七層に転移陣を設置した翌日の午後、俺たち真紅同盟は、行きつけの武具屋へと向かっていた。
「……アーネ、大丈夫か?」
「うぎ、ぎ……」
アーネが、ぎくしゃくと、一歩一歩を確かめるように足を動かす。
その動きは、一昔前の二足歩行ロボットのようだ。
「……す、すみません。体の節々が悲鳴を上げていて」
「無理はしないでくれよ」
「そうだよ。竜とパイプ亭で待っててくれてもいいし……」
フェリテの言葉に、アーネが首を横に振る。
「いえ。わ、私は、真紅同盟の一員ですから。装備を整えるなんて重大事、立ち会わないわけには……」
アーネの瞳には決意が宿っている。
この様子なら、意地でもついてくるだろう。
「わかった、わかった。ゆっくり行こうな」
そう告げて、元よりアーネに合わせていた歩みをさらに遅くする。
亀のような速度だが、急ぐ必要もない。
「……ありがとうございます。それにして、も、……うぎ。な、情けないです。たった半日、ダンジョンに潜っていただけで」
「仕方ないよ。アーネはもともと、体を動かすほうじゃなかったんでしょ?」
「今となっては、ストレッチくらいはしておくべきだったかと……」
「……実際、俺は、アーネのこと言えないからな。最初にソロでダンジョン潜ったあと、二日くらい動けなかった。覚えてるだろ」
「そう、でしたね。自室と酒場を、かなり不自然な歩き方で往復していたのを覚えています。こういうこと、だったんですね……」
「そういうことだったんだよ……」
共感してもらえて、すこし嬉しい。
「フェリテは、最初から平気だったのですか……?」
「あたしは、冒険者になる前から、体動かすの好きだったから」
「百キロの戦斧を背負って筋肉痛にすらならないってのも、とんでもないと言うか、人並み外れてると言うか」
「もー、人を怪物みたいに」
フェリテがぷりぷりと口を尖らせる。
「すごいって褒めてるんだよ」
「ほんと?」
フェリテが、俺ではなく、アーネに尋ねる。
「ええ。少々呆れ混じりではありますが、褒め成分が強めかと……」
「ならよし!」
そんなやり取りを交わしながら、以前より活気に満ちた街並みをゆっくりと歩いていく。
冒険者だけでなく、街から離れていた住民たちも戻りつつあるらしい。
「……ところで、リュータ。どちらを買うか、もう決めたのですか?」
すこし落ち着いたのか、アーネが静かに問う。
ミスリルの長剣か、あるいはエーテル製の肌着か、という意味だろう。
「ああ、決めたよ。今回は、エーテル製の肌着を人数分買おうと思う。攻撃力より、まずは生存率だ」
「さすがに、どっちかしか買えないもんね……」
「俺の攻撃手段には、今のところ困ってないしな。火炎呪があるし、鋼の長剣のままでも炎属性付与でゴリ押せてるから」
「炎属性付与、ですか。ログでは読みましたが、どういったものなのでしょう」
「原理は単純だよ。武器に火炎呪を這わせてるだけ。触れれば燃え上がるように組んであるから、かすっただけでもダメージを与えられる。木人みたいに火に弱い魔物には最適だな」
「おお、強い」
「不安なのは、火に強くて硬い魔物が出てきたときなんだよな。火炎呪が効かないと、フェリテに任せきりになっちまう。そういう意味でもミスリルの長剣は早めに欲しいんだけど……」
フェリテが、あっけらかんと言う。
「買っちゃう?」
「買っちゃわない。取らぬ狸の皮算用でどんぶり勘定してると、いつの間にか宿代すらなくなるぞ」
「リュータの言う通りです。七層の宝箱の傾向もまだわからないのですし、もし金銭的価値の低いものばかりが入っていたときに困るでしょう」
「そっか。ミスリルの長剣で戦うリュータ、見たかったんだけどな……」
「今と大差ないだろ」
「変わるよー」
「変わるかあ?」
「変わるよね、アーネ」
「私は、鋼の長剣で戦うリュータも、ミスリルの長剣も見たことがないので、なんとも……」
「あ、そうだった」
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