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117 / いざ、第七層へ

 第六層は、広大で、複雑だ。

 だが、最短経路さえわかってしまえば、階段から階段まで二時間ほどしかかからない。


「──ほら、見えてきた」


 俺は、周囲の巨木とは一線を画するほどに巨大な神樹を指差した。


「あれが、例の樹ですか。内部に空間があるという」


「まさか、内側に階段が隠されてるなんて思わなかったよね。見つからないわけだよ」


「あのとき、フェリテがどうしても気になるって言わなければ、今頃はまだマップ埋めてたかもしれないな」


「気にしてよかった!」


 おかげで死にかけたわけだけれど。


「しかし、不可思議な構造ですね。根はどうなっているのでしょうか」


「そこらへんは、蓋を開いてみればわかるかもな」


 木人の残骸を横目に、神樹の周囲をぐるりと回る。

 すると、内側へと通ずる大穴の傍らに、人影が垣間見えた。

 一瞬身構える。

 だが、よくよく見れば、見知った顔だ。


「ああ、真紅同盟の皆さん。ようやくいらっしゃいましたわね」


「……ルクレツィア?」


 大穴の縁に腰掛けていたルクレツィアが立ち上がり、こちらへ一礼する。


「お待ちしておりました」


 アーネが目をまるくする。


「もしかして、私たちの後を?」


「ええ。早く第七層へ下りたいと、パーティ内で意見が一致しまして。真紅同盟の皆さんが出立するのを確認したあと、一時間ほどずらして、わたくしどもも宿を出たのですわ。いつの間にか追い越してしまったようですけれど……」


「あ、ごめん……」


「なんか、待たせちまったな」


「いえ、お気になさらず。どう探索するかはパーティの自由ですし、わたくしどもはわたくしどもで休息を取っておりましたから」


 俺たちの会話が漏れ聞こえたのか、神樹の内側からグラナダが顔を出す。


「やあ、ようやくお出ましかい」


「よう、グラナダ。早く七層へ下りたいんなら、そう言ってくれりゃよかったのに」


「君たちとは仲良くさせてもらっているけれど、やはり競争相手には違いない。談合はなるべく避けたいのさ」


 グラナダが肩をすくめ、奥の空間へと顔を向けた。


「──おーい、ソディア! ナナセとケイルを起こしてやってくれ!」


「──…………」


 大穴をくぐり、神樹の内側へと足を踏み入れると、ソディアが二人を優しく揺り起こしているところだった。


「──……んがっ」


「……も、なによう。いま寝付いたばっか……」


 ケイルが身じろぎをし、ナナセはアイマスクを上げながら文句をたれる。


「ほら、二人とも。リュータさんたちが来られましたわよ」


 のそのそと上体を起こす二人と目が合った。


「……おー、リュータちゃんたち。遅かったじゃあん……」


「……あふ」


 生あくびを噛み殺したナナセが、口を尖らせる。


「どうしたら、ここに来るまで半日もかかるのよ……」


「……あー、すまん」


 まっすぐ向かえば六時間程度の目的地に、その倍をかけてようやく辿り着いたのだ。

 当然の疑問ではある。

 ナナセの言葉に、アーネが申し訳なさそうに答えた。


「すみません。私のわがままで、ダンジョン観光を……」


「なるほど。冒険者になって初めてのダンジョンだものね。当然っちゃ当然か」


「そら、ボクたちの見通しが甘かっただけやんな。気にせんでいいぞ、アーネちゃん」


 グラナダが二人に同意する。


「そうだね。僕らが気を逸らせてしまっただけさ。さして待ったわけでもない。気に病まないでほしい」


「はい、ありがとうございます」


「あ、そだ」


 フェリテが、笑顔で、グラナダ探窟隊の面々を見回す。


「代わりって言ったらなんだけど、あたしたちは七層に転移陣設置したらそのまま帰るから、先に探索していいよ!」


「おや、いいのかい?」


「うん。もともとそうするつもりだったんだ」


 ナナセが、嬉しそうに言う。


「そんなこと言って、後悔しても知らないわよ。宝箱、根こそぎ開けちゃうんだからね」


 わくわくと目を輝かせる様子は、年相応で微笑ましい。


「覚悟はしてるよ。でも、七層だって一筋縄では行かないはずだ。一日二日の遅れなら、すぐに巻き返せるさ」


 ルクレツィアが頷く。


「ここは、ありがたく譲っていただきましょう。互いの利害による選択の結果なのですから、遠慮をする必要はないはずですわ」


「ああ、その通りだ」


 俺たちは安全を取り、グラナダたちは実利を取った。

 それだけの話だ。


「では、フェリテ。さっそく鍵を開けてみましょう」


 待ちきれないとばかりにアーネが催促をする。


「うん、開けてみよう!」


 フェリテが、腰に提げた革袋から、手のひら大の無骨な鍵を取り出す。

 そして、広間の床を塞ぐ金属製の蓋、その下端に穿たれた鍵穴へと差し込んだ。

 差し込まれた瞬間、鍵がひとりでに回り出し、そのまま鍵穴へと吸い込まれていく。


「わ」


 金属製の蓋が蛍火に輝き始め、やがて、もともと存在していなかったかのように綺麗さっぱりと消え去った。


「こうなるんだ……!」


「すごいです……」


 蓋の下に隠されていたものは、予想通り階段だった。

 それも、螺旋階段のように見える。


「よーし、あたしが先に行くね!」


「なら、俺は二番手だな。アーネは俺の後ろからついてきてくれ」


「はい、わかりました」


 グラナダが、俺たちに提案する。


「先頭は危険かもしれない。利益を得るのはこちらだし、僕らが先導しても構わないよ」


 フェリテが、弾ける笑顔でグラナダに答えた。


「いいんだよ。一番乗りしたいの!」


 面食らったような顔をするグラナダに、ケイルが言った。


「せやぞ、リーダー。冒険者なんてのは、たいていロマンチストっちゅーこっちゃ」


「……そうだね。ロマンを忘れちゃあ、いけないな。空前絶後、最高のリーダーとして、あるまじき発言だった。野暮を言ったね」


「ううん。気を遣ってくれたのわかるから」


 フェリテが螺旋階段の底を覗き込む。


「深い……」


「五層から六層ほどに長くなければいいのですが……」


「大丈夫だろ、たぶん」


 確信はないが、第六層のような地形がそうそうあるとは思えない。


「では、真紅同盟のフェリテ=アイアンアクス、行きます!」


「ああ。僕たちは後ろから追わせてもらうよ」


「気ィつけよ、フェリテちゃん」


「何かあったら叫びなさいよ」


「ええ。魔法で援護くらいはできると思いますから」


「──…………」


 ソディアが、こくこくと頷く。


「ありがと!」


 グラナダ探窟隊の面々に礼を言うと、フェリテが階下へと一歩を踏み出した。

 この先には、また、未踏領域が俺たちを待ち受けている。

 高鳴る鼓動を押さえつけながら、俺たちは、第七層へと続く螺旋階段を下っていった。

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