115 / ダンジョンで水浴びしてみたい!
「──あ、小川が流れていますね。もしかして、あれが?」
「ああ。前にアーネに鑑定してもらった水の出所だよ」
「えへへ、何度か水浴びもしたなー。リュータがね、上流のほうで、川の水をぬるま湯にしてくれるんだ。冷たくなくて、いいんだよ」
「なるほど、さすがリュータですね」
「六層まで来るパーティも増えただろうから、もう水浴びはできないけどな。拠点のあたりって、階段の目と鼻の先だし」
「残念です……」
本当に残念そうだ。
「七層への転移陣を設置すれば、わざわざここで水浴びをする必要もないさ。それをするくらいなら、竜とパイプ亭に戻って風呂に入ればいいんだし」
「もう、リュータはロマンをわかっていませんね。ダンジョンの中で水浴びをする。その非日常がいいんじゃないですか」
「……そうなの?」
フェリテを見る。
「アーネの気持ち、わかるよ。とっても気持ちよかったもん」
「羨ましいです」
「うーん……」
ロマンと言い切るほどなら、させてあげてもいいだろう。
「下流のほうに物陰の多い場所があるから、そこで浴びてみるか?」
「いいのですか?」
「今日は、アーネの初めての冒険だろ。最初くらいは純粋に楽しんでほしい」
「ならば、是非お願いしたいです」
「わかった」
「わーい! 一緒に浴びよう!」
「ええ、もちろん」
意識野の地図を参照しながら、小川の下流へと下っていく。
第六層には傾斜が多く、小川もまた自由自在にその流れを変える。
しばらく進むと、小川の水が一時的に溜まるくぼみのような場所があった。
周辺には遺跡が多く、非常に見通しが悪くなっており、水浴びをするには最適な場所と言えるだろう。
「ここならいいんじゃないか?」
「ええ、とても最高です。ナイスです」
「よーし、軽鎧脱いじゃお」
「服は脱ぐなよ、まだ」
「脱がないよー……」
脱ぎかねないと思ってしまうのは、普段の言動のせいである。
「──よっ、と」
脳内に命令文を走らせる。
くぼみに溜まった水が、40℃前後にまで一気に加熱されていく。
小川の水が流れ込んでいるため、アーネとフェリテが水浴びの準備を整える頃には、適度なぬるさになっているはずだ。
「じゃ、俺すこし離れるけど、魔物が出たら叫んでくれよ。すぐに処理するから」
「うん、わかった」
「すみません。ありがとうございます」
「いいって、これくらい」
肩越しに手を振ったあと、小川の上流へと移動する。
二人から見えない位置に小さな橋があったため、そこに腰掛け、火炎呪で徐々に水温を上げていった。
魚がいれば気も遣うが、この小川に魚影はない。
生態系を気にする必要は、さしてないだろう。
「──…………」
二人の会話が漏れ聞こえてくる。
「──ふふ。こんな場所で服を脱ぐなんて、なんだかどきどきしますね」
「わかるー。いいのかなって気分になるよね」
「でも、いいのです。ここはダンジョン。治外法権なのですから」
「うんうん。それにしても、この場所、水浴びにちょうどいいや。あのあたりなんて、お風呂くらいの深さありそう」
「浴びるだけでなく浸かれるなんて、素晴らしい環境ですね」
ちゃぷ、ちゃぷ。
二人が小川に入っていく音が耳に届く。
「あ、ぬるくて気持ちがいいです。さすがリュータですね」
「リュータ、川の温度ちょうどいいよー!」
フェリテの大声に、こちらも返す。
「おーう!」
あとは、この水温を維持すればいいだろう。
気楽なものだ。
「私たちが上がったあと、リュータも浴びますかー?」
「あー、俺はいいよ。まだ大して汗もかいてないし」
「そうですか、わかりましたー」
火炎呪で水温の操作しながら、光の蝶の群れを見上げる。
本当に不思議な場所だ。
子供の頃に見た夢の世界を具現化したようで、俺はこの第六層がたまらなく好きだった。
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