表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/125

114 / 観光気分で第六層へ

 ──はっ、と目を覚ます。


「やべ……」


 慌てて身を起こすと、小声で談笑していたと思しきアーネとフェリテがこちらを向いた。


「あ、起きた」


「おはようございます、リュータ」


「おはよ!」


「……悪い、いちばん寝てたな」


「私たちが起きたのも、ほんの十分ほど前ですよ」


「ならいいんだけど……」


 一人で警戒するつもりだっただけに、少々自分が情けない。


「ね、リュータ。顔洗って減っちゃったから、水出してほしいな」


 フェリテが、残り少なくなった水袋をこちらへ差し出す。


「お、いいぞ」


 水袋を受け取り、水撃呪を詠唱する。

 水球が水袋の中に出現し、手の中で重みを増した。


「アーネも、水に関しては遠慮しなくていいからな。大した手間でも魔力消費でもないし」


「では、こちらもお願いできますか?」


「了解」


 アーネの水袋を満杯にしたあと、俺も顔を洗う。


「ところで、何時間寝てたんだ?」


 フェリテが懐中時計を確認する。


「えっと、三時間くらいかな」


「ちょうどいいな」


 交代で休息を取る必要に迫られるため、ダンジョンでは基本的に長々と眠ることができない。

 俺とフェリテがそれぞれ八時間の睡眠を取った場合、合計十六時間の足止めとなってしまうからだ。

 当然の流れとして、短い睡眠を繰り返し攻略を進めていくことになるのだが、疲労の蓄積は避けられない。

 長期間に渡る探索は、それだけで、生存率の低下に繋がるのだ。


「──さて、六層へ下りるか」


「そうですね。少々名残惜しいですが……」


 そう言って、アーネが周囲を見渡す。

 七色の洞窟。

 無二の美しさを持つミスリル鉱脈を、目と心の双方に焼き付けるように。


「大丈夫だよ。来ようと思えばすぐに来られるんだから」


「そうだな。ミスリル鉱石を運びきるまで五層へは立ち寄らなきゃならないし、またここで休息を取ればいい。安全だし、暖かいし、綺麗だし、言うことないもんな」


「ええ、是非にでも。私にとっても思い出深い場所になりましたから」


「気に入ってくれて、よかったー」


「とても気に入りました。六層も楽しみです」


 荷物をまとめ、鉱脈を後にする。

 第六層へ通ずる階段は、鉱脈から遠くない位置にある。


「だいぶ下るから、疲れたら言ってくれよ。階段だから休憩しやすいし」


「下りですし、さすがに大丈夫かと思いますが……」


「大丈夫なら、それはそれでいいさ」


 しかし、十五分後──


「……す、すみません。すこし休んで構いませんか?」


「うん、いいよ」


 アーネが階段に腰掛け、顎を上げる。


「本当に、長い。甘く見ていたつもりはないのですが、予想以上でした……」


 高さ的には、東京タワーの展望台から階段を使って下りるのと大差ない。

 疲れるに決まっている。


「六層の天井が高いおかげで、異様に長いんだよな。普通のダンジョンの二、三階層ぶんはあると思う」


「ありそう……」


 五分ほど休憩を取り、今度は第六層まで一気呵成に下りていく。

 通路の先に広がっていたのは、俺たちにとっては見慣れた地下森林だ。


「わあ……!」


 光の蝶が群れを成し、木々の合間を飛んでいく。

 地下にありながら真昼の如き明るさを誇る第六層は、ミスリル鉱脈とはまた異なる絵本のような美しさを持っている。


「ね、ね、すごいでしょ! あたしたちが最初に見つけたんだよ!」


「ええ、とても……」


「拠点に案内するね。来て!」


「は、はい!」


 フェリテが、アーネの手を取り、小走りで駆け出していく。


「走るなよ、危ないぞ!」


「あ、そか」


 フェリテが素直に足を止める。


「ゆっくり行こうぜ。拠点は逃げないからさ」


「うん、わかった」


 理由があれば、ちゃんと言うことを聞いてくれる。

 フェリテの美点だ。

広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります

どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ