表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/125

110 / 冒険者としての第一歩

「──リュータ。フェリテ。忘れ物はありませんか?」


 ダンジョンの入口前で、アーネが自分の背負い袋を開く。

 完璧に整理整頓された美しい中身が、晩夏の陽射しに照らし出された。


「アーネ、さっき竜とパイプ亭でも確認してたよね……」


「もしもがあっては困ります。忘れ物があっても、すぐには取りに戻れないのですから」


「そりゃそうだけどさ」


 明らかに気負い過ぎである。


「七層に転移陣設置したらすぐに帰ってこられるんだし、大丈夫だって」


「七層まで、どのくらいかかるのですか?」


 フェリテが答える。


「うーん、歩いて六時間くらいかなあ」


「何が起こるかわかりません。万全の注意をしておかねば」


 思わず苦笑する。


「万全の準備は、もう整えたろ。もう一度だけ確認したら出発しよう」


「はい」


 背負い袋の中身を検めるアーネを見て、ふと思う。


「アーネって、部屋の鍵を掛けたかどうか心配になって何度も戻るタイプ?」


「何度も、ではありませんが、時折戻って確認することはあります」


 やっぱり。


「あたし、ぜんぜん気にしないけどなー……」


「確実なことは言えないけど、フェリテは気にしたほうがいいと思う。たぶん」


「そかな」


「イメージだけで話して恐縮だけど、帰ってきてから鍵の掛け忘れに気付くことないか?」


「ないよ?」


「ないのか……」


 意外だ。


「フェリテの鍵の掛け忘れに関しては、気が付いたときに私が閉めていましたね」


「え、そうなの?」


「はい。どう考えても不用心でしたから……」


「──…………」


 半眼でフェリテを見つめる。


「……えへ」


「フェリテ、今のうちに部屋の鍵を確認してこい」


「掛けた──と、思うけど……」


「ダッシュ!」


「はい!」


 フェリテが、竜とパイプ亭へと駆け出していく。


「まったく……」


 これで本当に掛け忘れてたら、笑い話だぞ。


「リュータ。やはり、下着は多めに持ってきたほうがよかったでしょうか」


「あー……」


 なるべく荷物に視線を向けないようにして、答える。


「さしてスペースを取るものでもないから、多めにあっても困りはしないかな。一泊予定なら二枚とか、二泊予定なら三枚とか、一枚予備があれば十分だと思うけど」


「では、問題ありませんね。五枚ほど包んできたので」


「……そっか」


 なんとも反応しづらい。


「──よし、万全です!」


 ふんす、と鼻息を荒くして、アーネが背負い袋を背負い直す。


「やっぱ、緊張する?」


「緊張は、します。当然です。これが、私の、冒険者としての第一歩なのですから。でも、それ以上に──」


 アーネが、楽しげに言う。


「とってもわくわくするんです! 憧れていた冒険譚、その舞台へと足を踏み入れる。神官の私には許されていなかったことです。だから、楽しみで楽しみで」


「……昨夜、ちゃんと眠れたか?」


「ギンギンでした」


「ダメじゃねーか」


 でも、こればかりは仕方ないだろう。

 眠れと言われて眠れるようなら、言われずとも眠っているのだ。

 アーネと話していると、フェリテが意気揚々と戻ってきた。


「ただいま! 鍵、ちゃんと掛かってたよ」


「そっか、ならよかったな」


「リュータは心配性なんだからー……」


「いや、至極真っ当な心配だからな。前例あるんだし」


「それはそうだけど」


「今後、気を付けるように」


「リュータは大丈夫なの?」


「俺、部屋を出るときいつも指差し確認してるぞ」


「えらい。あたしもそうしようかなあ」


「そうしときな。危なっかしいから」


「はーい」


 指差し確認すら忘れるようなことがなければいいのだが。


「──互いに準備は整ったようですね」


「うん、もう大丈夫!」


「俺はいつでも」


「では参りましょう。私の、そして真紅同盟の第一歩です!」


「おう!」


「おー!」

広告下の評価欄より【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、執筆速度が上がります

どうか、筆者のモチベーション維持にご協力ください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ