109 / 飲み仲間
その後、しばらく酒に関する雑談を交わしていると、二階からナナセとソディア、ケイルが下りてきた。
「──あ、いた!」
ナナセがこちらへ駆け寄ってくる。
「どこ行ってたのよ、もう!」
「ああ、神都へ行ってたんだよ。野暮用で。何か用でもあったか?」
「用も何も、七層への鍵持って帰ったのアンタたちでしょ! 帰るんなら開けときなさいよ!」
「お、階段見つけたのか。思ったより早かったな」
「やっとのことで見つけたと思ったら、ボスモンスターの残骸はあるわ、鍵は開いてないわでどうしようもなくて、失意のままに帰ってきたわよ……」
ケイルが、ナナセを落ち着かせるように言った。
「まあまあ、リュータちゃんたちも考えあってのことじゃん?」
「うんうん。六層のボスモンスターを倒すときにひどい目に遭って、それで、ヒーラーを仲間にするまで七層には下りないことにしようって」
「それで足止め食らっちゃ納得行かないわよ!」
そりゃそうだ。
「大丈夫、大丈夫。グラナダ探窟隊が階段見つけたら、鍵売るつもりだったから」
「……いくらで?」
「金貨三枚ってとこか」
「足元見くさって、もー!」
ナナセが地団駄を踏む。
「──…………」
ソディアが、ナナセをいたわるように、彼女の背中を優しく撫でた。
「しっかし、君たちもがめついなあ。勘所で商売仕掛けてくんだから、上手いっちゅーかなんちゅーか……」
苦笑するケイルに、不敵な笑みを返す。
「ま、安心しろよ。鍵を売る予定はなくなったからさ」
「どーゆーこっちゃ」
「ヒーラーが見つかったってことだよ」
「あら、そうなの? 金貨三枚、払わなくていい?」
「払わなくていいし、明後日くらいには転移陣設置しに行くから行き来も楽になるぞ」
ナナセの表情が、ころりと変わる。
「そいつはいいわね! 使用料がバカ高いから行きに使うつもりはないけど、帰還だけでも死ぬほどありがたいから」
「そんで、ヒーラーはどこよ。神都で見つけたんかい?」
ケイルが周囲を見渡す。
「そこにいるだろ」
俺は、視線でアーネを示した。
「はい、ヒーラーです」
「……へ? アーネちゃん、冒険者になったんか!」
「ええ、なりました。神都へ戻ったのは、神官を辞めるためでもありましたから」
「はえー……」
「よく決断したわねえ……」
「──…………」
ソディアが小さく拍手を送る。
相変わらず喋らないな、この人。
「ずっと冒険者に憧れていたのです。それに、リュータとフェリテが心配でもありましたから。もし二人が帰らぬ人となれば、私は一生後悔し続けたでしょう」
「ま、ええんちゃう。人生は一度きり。後悔せずに済むんなら、それがいちばんっしょ。危ないことも多いけど、そのぶんやり甲斐はある。いつか神印を賜る日まで、ってな!」
「神印なんて中間地点よ。アタシたちはどこまでだって行くんだから!」
「はいはい」
心躍る冒険譚の主人公になる。
これは、耐えがたい誘惑だ。
人を容易に冒険へと駆り立ててしまう、一種の麻薬に違いない。
「──そうだ。ケイル、ソディア、一緒に飲まないか? フェリテは未成年だし、アーネは好きじゃないって言うからさ」
「お、いいねいいね! リュータちゃんとは、一度じっくり飲んでみたかったんよ」
「ソディアはどうだ?」
「──…………」
ソディアが、こくりと頷く。
「ソディアは飲むぞう! 喋らんから、ずっと飲んでるわ」
「うわばみだな」
ナナセが、隣のテーブルを引きずってくる。
「アタシたちお子様組は、こっちのテーブルで果実水でも飲んでましょ」
「はーい! やっぱりビールより果実水だよね」
「同感です」
ケイルが大声で従業員を呼ぶ。
「お姉さーん! ビール三杯頼んます!」
こうして、長い夜は始まりを告げた。
久し振りに飲み仲間を得て楽しい時間を過ごしたが、翌朝二日酔いに悩まされたことは言うまでもない。
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