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107/125

107 / 真紅同盟

 辻馬車に乗り込み、窓からボーエンとスフィアに手を振る。

 馬車がゆっくりと進み出し、二人の姿が小さくなっていく。

 彼らは、いつまでも、俺たちに向けて手を振り続けていた。


「──そうだ、改めて言っておかないとな」


「?」


 アーネが小首をかしげる。


「ありがとう、アーネ。俺たちを心配して、パーティに入ることを決断してくれたんだろ」


「……ええ。心配で」


 自嘲混じりの笑みを浮かべながら、アーネが言葉を継ぐ。


「ずっと、友達に何もできていないという無力感があって。フェリテが死にかけたという話を聞いて、もう、居ても立ってもいられなくなったんです。私には治癒の力がある。その場にいれば、きっと、二人を助けることができたはずなのに」


「そっか」


 本当に、よく決意してくれたと思う。

 元より冒険者に憧れもあったのだろうが、既にある立場を捨てるのは、並大抵の覚悟ではない。


「えへへ。これからは、ダンジョンの中でも一緒だね」


「はい。よろしくお願いしますね」


「こちらこそ、よろしくね!」


「よろしく頼むよ、アーネ」


 俺は、左手を、三人の中央へと差し出した。

 すぐさま意図を理解したのか、アーネとフェリテが、俺の手に自分の手のひらを重ねる。

 真紅の腕輪が、窓から射し込む陽光を浴びて、美しく輝いた。


「そうだ! そろそろパーティ名を決めないと」


「あー……」


 たしかにそうだ。

 今までのらりくらりと考えるのを避けてきたが、必要なことだよな。


「こういうの、苦手なんだよなあ」


「あたしもー……」


「──こほん」


 アーネが、小さく咳払いをする。


「実は、こんなこともあろうかと、暖めていた名前があるのです」


「よし、それにしよう」


「けってーい!」


「まだ何も言っていないのですが……」


「ははは、冗談冗談。それで、なんて名前なんだ?」


「ええ。フェリテの髪色と、この揃いの腕輪にちなみまして──」


 すこし恥ずかしそうに、アーネが言う。


「"真紅同盟"、というのはいかがでしょう」


「お、いいじゃん。カッコいい」


「え、あたしにちなんじゃっていいの?」


「当然です。フェリテは主人公なのですから」


「これからは、アーネも主人公だけどな」


「……!」


 アーネが、驚いたように目を見開いた。


「当然だろ。冒険譚の主人公は、パーティの全員だよ」


「だったら、リュータも主人公だね!」


「いや、俺は──」


 俺は、パーティメンバーでありながら、GMという立場でもある。

 主人公にはなれないのだ。


「──…………」


 アーネが、俺の左手を、そっと握った。


「リュータも主人公ですよ。吟遊詩人とは、傍観者ではない。仲間、なのですから」


 フェリテが、俺の右手を取る。


「そうだよ。自分は違うなんて、さみしいこと言わないでね」


「──……はは」


 思わず、軽く吹き出してしまった。

 この子たちには、一生かけても敵わない気がする。


「わかったよ。俺も、"最高の冒険譚"の主人公だ。真紅同盟の一員だ。それでいいよな」


「うん」


「はい!」


 馬車は往く。

 俺たちを乗せて、あの街まで。

 馬車に揺られる半日のあいだ、俺たちは、いろいろな話をした。

 くだらない話ばかりだったが、それでよかった。

 友達との雑談なんて、たいていがそんなものだろう?

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