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105/125

105 / 冒険譚を綴る理由

「──アーネ、入っていいか」


 アーネの声が返ってくる。


「ダメです。私は怒っています。顔も見たくありません」


 皆と苦笑を交わす。

 俺は、フェリテの肩をぽんと叩いた。


「アーネ! あたしたちもいるよー」


「フェリテ!?」


 どたばたと足音が聞こえ、扉が激しく開かれる。


「──フェリテ! リュータ! 怪我はありませんか!」


 心配でしょうがないと言った様子のアーネに、笑顔で答える。


「ああ、大丈夫だ」


「うん。何もされてないよ」


「……よかった」


 アーネが、俺とフェリテをまとめて抱き締める。

 彼女は小柄だから、ちょっと腕が届いていなかったけれど。


「えへへ……」


「──…………」


 アーネの小さな背中を、落ち着くまで撫でてやる。

 よく我慢したよ。

 本当に、頑張ったと思う。

 しばらくして、アーネが顔を上げた。


「──それで、どうなりましたか?」


 皆の視線がボーエンに突き刺さる。

 ボーエンは、軽く咳払いをし、目を逸らしながら口を開いた。


「あー……。その、だな。冒険者になることだが、条件付きで許してもよい」


「!」


 アーネが目をまるくする。

 よほど意外な言葉だったのだろう。


「ええと。それは、冒険者になってもいいという意味でしょうか……」


「そう言っているではないか」


「あ、いえ、とても信じられなくて」


「……私は余程わからず屋だったと見える」


「ふふ」


 スフィアがくすりと笑う。


「でも、本当のことよ。ボーエンは、認めてくれたの。リュータさまと、フェリシア殿下のおかげでね」


「えっ! ど、ど、どうやってですか?」


「簡単に言えば、誠意を見せたってところかな」


「簡単に言われてもまったくわからないので、後ほど詳しく聞かせていただきたいのですが」


「もっちろん!」


「それで──」


 アーネが、ボーエンを見上げる。


「お父さま。条件というのは?」


「……必ず、生きて帰ること。そして、たまに神殿に顔を出すことだ」


「ええと、それだけ、ですか?」


「ああ、それだけだとも」


「……──~!」


 アーネが、今度はボーエンとスフィアをまとめて抱き締める。

 ボーエンが立派な体躯であるため、やはり腕が届いていなかった。

 微笑ましい。


「ありがとう、……ございます……!」


「わたくしたちは、アーネを愛している。だから心配なの。でも、それだけではいけない。あなたはもう大人なのだから、自分の人生は自分で選び取りなさい。わたくしたちのことは、時折思い出してくれれば、それでいいから」


「……手紙、書くね」


「それは楽しみだ」


「たまに、帰ってくるね」


「約束だものな」


「きっと、"最高の冒険譚"を届けるから、応援していてね……」


「ああ、もちろんだ」


 ボーエンとスフィアが、アーネを抱き締める。

 その姿を見て、俺は、不覚にも涙が溢れそうになっていた。


「……よかったな、本当に」


「うん……」


 フェリテもまた、手の甲で目元を擦っている。


「……絶対、"最高の冒険譚"にしようね」


「もちろんだ」


 また一つ、理由が増えた。

 この物語を伝えたい。

 素晴らしい親子の愛を、皆に届けたい。

 俺とフェリテは、親子三人が仲睦まじく抱き合う様子を、いつまでも隣で眺めていた。

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