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104 / 巣立ちの時

 ボーエンが、声を絞り出す。


「……私は、君を試した。極大火炎呪を街中で放てば、危険人物として排除する口実になる。剣で私を傷つければ、傷害罪として処罰するつもりだった」


 やはりか。

 さすが、一つの都を運営しているだけはある。

 ナナセとは比較にならないくらい、したたかだ。


「だが、そのくらい──そのくらい、私は心配なのだ。アーネが心配なのだよ」


「──…………」


 俺は、ゆっくりと顔を上げた。


「皆、同じはずだ。許す親もいただろう。許さない親もいただろう。そもそも、親のない人だっていただろう。でも、彼らは等しく冒険者をしている。それは、冒険者という職業が魅力的だからだ。多くの人々が、心躍る物語の主人公になりたいと思っているからだ」


「……ああ、そうだろうな」


「アーネも、そうだ。そうなりたいんだ。物語の主人公を目指したいんだ。アーネの体の心配ばかりして、アーネの心を閉ざしてしまうことだけは、しちゃいけないよ」


「──…………」


「それに、だ」


 ボーエンの目を、じっと見つめる。

 俺の本気が伝わるように。


「俺は、あんたが認めなくても、アーネを連れて行く。俺たちには、それができる。にも関わらず、こうして許可を得ようとしているのは、アーネのためだ。あんたと禍根を残さないための、俺なりの誠意だ。アーネに、帰る場所を、残してあげたいからだよ」


「……そう、か」


 しばし呆然としたあと、ボーエンがその場に膝をつく。


「そうだな。たしかに、貴殿らならば、アーネを連れ去ることも容易なのだろう。極大火炎呪を空に放ち、次は街だと脅迫するだけでいい。それを選ばない時点で、君たちの誠意は認めなければなるまいな」


 そして、カーペットの上に手を揃え、ゆっくりと頭を下げた。


「──アーネを、よろしくお願いします」


「ボーエン、……さん!」


「やったあ!」


 ボーエンが顔を上げ、泣きそうな顔で笑う。


「……負けたよ。土台、勝てる勝負ではなかったのかもしれない。私は、アーネを見ていなかった。彼女の身を守ることばかり考えて、心を見てはいなかったのだ」


「いえ、そんなことないですよ!」


 フェリテが、笑顔でボーエンに告げる。


「だって、許してくれたじゃないですか。心配を、不安を押し込めて、アーネのために頭まで下げてくれたじゃないですか。それって、とってもすごいことだと思うんです!」


「……そう、だろうか。私は、間に合ったのだろうか」


「間に合いましたとも」


 スフィアが、ボーエンを背中から抱き締める。


「巣立ちの時、です。寂しいけれど、送り出してあげましょう。アーネは、きっとまた、わたくしたちの元へと帰ってきてくれますよ」


「……ああ、そうだな」


 ゆっくりと立ち上がり、ボーエンが言った。


「アーネを迎えに行こう。巣立ちの時くらい、立派な父親でなくてはな」


「ええ」


「はい!」


 俺たちは、ボーエンの先導で、執務室を後にした。

 長い長い神殿の廊下を歩き、やがて辿り着いたのは、無数に居並ぶ客間の一室だ。

 その扉を、衛兵が四人で守っている。


「御苦労」


 一声掛けると、衛兵たちが無言でボーエンに敬礼をする。


「もう、持ち場に戻って構わない。急に無理を言って済まなかった」


「ハッ」


 忠実な衛兵たちが、その場を後にする。

 そして、アーネの軟禁されていた客間の扉を、ボーエンが遠慮がちに叩いた。

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