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ヤンデレ

うちの可愛い義弟がヤンデレになってる

作者: Rena

ホラー苦手な人は注意!



「べ、別におまえのためじゃないんだからな!」


 私の可愛い義弟おとうとカトリック・エリエールがその童顔を真っ赤にしてこちらをまっすぐ見ている。彼の黒髪はさらさらで、青いトルコブルーの瞳は恥じらいがちに伏せられた。いつもなら私はあまりのかわいらしさに思わずハグしてしまうところだったが、今日はそうはいかなかった。


 彼の突き出された両手には出刃包丁が握られている。


 私の心臓が冷えた。


(どういうこと? 何が起きているの?)


 あの純情な私の可愛いカトリックはどうしてしまったの。これが反抗期というものなのだろうか。いままで私にべったりだったから反抗期なんて一切考えたことなかったわ。そうよね、カトリックももう十六歳。反抗期にしても遅すぎるくらいだわ。たしか反抗期って遅いほど激しくなるって聞いたことあるし、そういうことなのかしら、うん。そういえば私も反抗期だったはずなんだけれど、すっかり恐怖でどっかいったわ。


 そういえば最近カトリックと全然話していなかったことに思い当って私は愕然とした。カトリックはここのところ私を避けるかのように学校に行き、避けるかのように自室にこもっていた。朝食も夕食もわざと時間をずらしているのかと思うくらいには顔をみなかったし、私も親と顔を合わせたくないお年頃だったからカトリックのひきこもりをなんとも思っていなかった。まさかこんなことになっていたとは。どうしたらいいのかしら。ああ、カトリックにこの出刃包丁を下ろしてもらうにはどうしたらいいの。


「わ、私ちょっとトイレ……」


「じゃあ、僕もついていく」


 え? なんで? なんでそうなるの? 私は人質か何かなのだろうか。そもそも今の状態でカトリックを振り切るのはかなり至難のわざだった。なにせ私の部屋の扉をノックされ開けたところにカトリックがいたのだ。つまり出入り口をふさぐ形で立っている。ドアを閉めようにもカトリックの右足はドアの角を止めるように突き出されていた。押し売りの激しい訪問販売の商人の構えだ。今の時間は夜の零時。私ももう寝ようかと思っていたところだったし、両親も階下ですでに就寝していることだろう。悲鳴をあげたら気づいてもらえるかもしれないが、その前にぐさりとやられそうだった。


 そろそろと足を運び警戒しつつカトリックの横をゆっくりすり抜ける。階下のトイレを使うついでに両親にきづいてもらえるといいのだが。カトリックは無言だった。無言で私の背中に出刃包丁を突きつけたままぴったりと背後につけていた。どうしちゃったの?これどちらかが転びでもしたらぐっさりいきそうだった。一階は電気が消えていて薄暗い。カトリックがいつ転ぶんじゃないかとひやひやした。そもそもカトリックの気が変わってしまえばすぐにでもぐっさりいかれるんだろうけれども。震える手でトイレのノブを回し、トイレに入ると、すりガラスの窓からはカトリックの影が見えた。怖すぎる。道中もらさなくてよかった。


「ねえさん」

「ひ……うん、なに?」


 ごまかしきれないほど声が上ずってしまったが、カトリックは気にしていないようだった。どうしたんだろう。今カギかかってるからもしかしたらここにこもっているのが一番安全なのかもしれない。一晩ここで眠ろうかしら。次の日体ががちがちになりそうだけれど、命にはかえられない。


「僕が、ここの家の子じゃないって本当?」


 重い。重すぎるよカトリック! 今まで言えなくて本当にごめんね。大きくなってから伝えようっていう決まりができてたから私の口からは言えなかったんだよ。お父様に口止めされてたからね。お父様ようやく伝えることにしたのね。それで最近様子がおかしかったの? 繊細な年ごろの時にカミングアウトしてごめんなさいね。お父様の代わりにあやまるからゆるして。


「……黙っていてごめんなさいね」


「姉さん、しってたんだ?」


 一段低くなったトーンに震えあがる。だめだった? なんかまずい対応だったの? 相変わらずトイレのすりガラスごしで表情も何もかもわからないけれどこころなしか影が近づいている気がする。だいぶぴったりくっつかないとそんなに影になりませんよね。ゆるしてください。


「姉さん、トイレながくない? 便秘なの?」


 ええ、もう座ってるだけです。水流すのも怖くてひたすら座ってます。何ならもうトイレのふたもしてるしトイレのふたの上に座っています。パジャマのズボンもはいてるし、椅子としてつかってます。カトリックが早く眠くなってくれないかなーて期待して待ってるんだけど、だめかな。

私の沈黙にカトリックは動揺したのか、すりガラスの影が揺れた。


「姉さん?」


 ふっと影が消えて私は安堵した。今なら出れるかも、いやしゃがんでいるだけだったらどうしよう。とりあえず水だけでも流しておこうとレバーをひねった。音がなるべく響かないように手で押さえながら小をゆっくりと回す。


ガチャ、ガチャガチャ


 なんだろう、この音。私はレバーのほうに気をとられていてみのがしたが、その音でカトリックが再び戻ってきていたことに気がついた。私の目の前で、内カギのレバーがゆっくりと回っていく。


(うそでしょう!)


 トイレの外カギなんてなかったはずだった。ゆっくりと開いたドアの向こうではカトリックがほっとした顔をして突っ立っていた。その手には相変わらず出刃包丁と、……定規があった。


「ああ、もう心配したよ。返事がないからどうしたんだろうって思った」


 カトリックは本当に心配していたようだった。心配のあまり定規で外カギをピッキングしたようだった。トイレのカギって外側から開くんですね。それってもはやカギをつけている意味あるのだろうか。立てこもっていた安息場所を暴かれて私は絶望した。目の前のカトリックは恥じらうように顔を伏せている。もしこれがサッカーならばフェイントをかけて抜き去りたいところだが、彼は相変わらず出刃包丁をぴったり向けているし、両足をひろげ隙のない位置取りをしていた。


「僕、今日姉さんに言おうと思ってたことがあって」


 なんでしょうか、日ごろ溜まっていた恨みつらみをこれを機会とばかりに私をめった刺しにすることで晴らそうとかそんなんじゃないですよね。私的には日々溺愛してきたつもりだったけれどうっとおしかったとかそういうことですかね。たしかにぎゅって抱きしめた時は嫌そうに顔を背けていたし、頭を撫でた時には顔を真っ赤にして強めに振り払われてきたけれど、全部君の可愛いツンデレだと思っていましたよ。バレンタインデーにチョコあげた時なんて賞味期限切れてもずっと食べずに放置していましたね。クラスの子からもらったのはすぐに食べていたのに。おねえちゃん傷つきましたよ。


「姉さん、…………すきだよ」


 ……え? この流れで?嘘でしょう? 私は混乱した。もしかして夢か。私は悪夢をみながら夢遊病患者のように歩き回っているのか!



「…………返事は?」


 返事、いるんだ……。まって、やめて、俯きながら出刃包丁ぷるぷるさせないで。緊張して手が震えてるだけだよね。そうだよね。お願いだから振ったら刺すとかやめてね。お願いだから。


「……ありがとう、ウレシイなー……」


 私の顔面は恐らく過去最低に蒼白だった。カトリックは伏せがちな睫毛を震わせて、斜め下に俯いていたし、彼のバラ色のほっぺはぷっくりしていた。カトリックは耳まで赤かった。ああ、あんなにかわいいツンデレだったカトリックよカムバック!



 その後、なんとか事なきことを得て、私は自室に戻ることができた。部屋のカギはきっちりかけた。なかなか寝付けなかった。


…………









 僕の今日の星占いは十二星座中最下位だった。特に恋愛運は最悪だった。全体運は身近な人とのすれ違いに注意ってあった。本当に今日はついてないみたいで、学校では何もないところで転ぶし、家に帰ったら、親父の部屋で養子縁組の書類をみつけてしまって僕が血がつながっていないことが分かったんだ。でも僕は姉さんが好きだったから、ちょっとはうれしかったんだ。もう、今日告白しようって思ったけど、そういえば今日恋愛運が特に最悪だったことを思い出したんだ。でも明日まで待ってられなかったから、せめてラッキーアイテムを持ってわらにでもすがろうって思ったんだ。ラッキーアイテムは「ひかりもの」だったけれど、光るものなんて特に持っていなかったから、家じゅう探して、一番光っているものを持って行ったんだ。本当に緊張していつ手が滑って刺してしまうんじゃないかと冷や冷やした。振られてたら絶望のあまり刺していたかもしれない。告白が成功して、本当に、良かった。


お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真相がわかってみれば、かわいい弟………いや、怖いヤンデレですねw 短いのに面白かったです!
[一言] なにこの子 こわっ
[一言] 貧困な想像力なので見た目はファンタジー系の二人なのに、舞台は昭和のすりガラスのついたトイレで会話してるイメージになってしまいました(笑) 血がつながってなくてよかったです♡
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