第2話 5
「はー……、一体いつになったら戻ってくるの?」
トリスは大きなため息をつく。
煌太と藍実の姿が見えなくなってから、ずいぶんと時間がたってしまった。
もう待ちきれない、探しに行こう。そう考えてこの場から浮き上がると、こちらに歩いてくる二人の姿見えた。
トリスはほっとすると、二人の前に着地する。
「あ、トリスさん。ごめん、おそくなったよね」
煌太は、申し訳なさそうに微笑む。
「ほんとよ……で、どうだった?」
トリスは藍実の方を一瞥した。
彼女はどこか不安げな表情を浮かべているように見える。
煌太は藍実の方に顏を向け、
「藍実さん、願い事取り消してくれるって。ね?」
「……仕方ないからね!」
藍実は不服そうにそう言った。
「ホントなのっ? 藍実!」
予想外の展開に、トリスはそう声をあげる。
これほどまで上手くいくとは思っていなかった。きっと煌太が上手く説得してくれたに違いない。
藍実はトリスの言葉に、コクリと頷いた。
「ありがとね! 本当に!」
「べ、別に感謝されることじゃないからー……」
藍実は、何処か恥ずかしそうに顏を背けると、
「で、この場合どうすればいいの? トリスにカノをもとに戻すように「願い事」するとか? あ、でも願い事って一人一回までなんだっけ?」
「星の子一人に一回までとなっております」
「あっそう……じゃぁ、願い事していーい?」
藍実はトリスの前にしゃがみ込むと、微笑んだ。
「どーぞ」
トリスも微笑む。
「カノを元の姿に……星の子に戻して……!」
藍実がそう言うと、トリスの前に淡い光を帯びた星が現れる。それは二人の周囲を緩やかに一周すると、流れ星になって上空へ消えて行った。
「あー、行っちゃったけど、ほんとにこれで大丈夫なわけ?」
藍実は立ち上がると、流れ星が消えて行った空を見上げる。
「ええ、問題ないはずよ。カノのところに行ってみましょ」
「お兄……カノなら多分、あたしの家にいると思うけどぉ」
藍実はそう呟くと、歩きだした。
その時、煌太が何かに気付いたように空を見上げる。
「あ、二人ともみてよ~。あれってもしかしてカノさんじゃない?」
トリスはそれに空を見上げる。
淡い青空に光るのは、オレンジ色に光る流れ星。
「あーっ、ほんとね!」
トリスはカノに向かって、大きく手を振り「カノー!」と叫んだ。
すると、流れ星は進行方向を変え、こちらに向かう。勢いよくトリスたちの前までやってくると、その姿をフワリと星の子に変化させた。
カノは泣き出しそうな顏で、トリス、そして藍実に目を向けると
「藍実、ごめんな。もとの姿に戻っちゃったよ。やっぱりオレの力じゃ、上手く願い事叶えられないみたいだ……」
「あは、違うって! あたしがトリスに頼んでカノを元の姿に戻してもらったの」
「! どうしてそんなこと……」
藍実は苦笑すると、カノの手をとる。
「もういいの。少し考えれば分かるのにね、お兄ちゃんの代わりなんて誰にもできないって」
「……」
「ごめんね、カノ。巻き込んじゃって」
カノは目を見開き、戸惑っているようだったが、藍実の手を握り返すと
「そ、そんな顏するなよな!? オレは藍実のそんな顏みたくないからなっ?」
「あは……ありがと。めっちゃいい子じゃん、カノ」
藍実は目の淵に薄く涙をため、微笑む。そして、カノのことを力一杯抱き寄せた。