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非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~  作者: じょー
第一章 いわゆる共通ルート
9/71



よろしくお願い致しますわ

おーっほっほっほ(*^O^*)




 


「おーっほっほっほ、どうですの? 私の手料理は?」


 優雅にビスケットを摘まんでいる楼王院麗華に、ギリギリ食べ切れた特製手作りお弁当の感想を聞かれる。

 正直に言って良いのなら、酷評になってしまう。見た目の問題は置いておくとしても、ほぼ全部が塩辛過ぎる。

 砂糖と塩を間違え、分量もテキトーな感じだ。ま、お嬢様というキャラクターを加味するのであれば、個人的には満点を上げたいくらいだけど。

 だけれ今は、どう返してあげた方が本人の為に良いのか迷う。我慢して褒めるのか、正直に伝えてあげるのか。


「……もしかして、気遣おうとしていらっしゃいますの? ならば不要ですわ。私、そういうのは求めてはいませんの」


 迷っている俺の姿から気付いたのか、先にそう忠告を受ける。思ったより、精神も強いお嬢様だったみたいだ。


「じゃあ……はい」

「どうぞ遠慮なく仰ってくださいな」

「――――クソ不味かったです!!」


 言い切ると、沈黙の時が流れた。

 楼王院麗華の表情は、笑顔が張り付いたまま止まっていた。

 遠慮は要らないという事で、遠慮も何もしなかった訳だが……もしかすると俺はミスったのかもしれない。遠慮なくとは建前であり、本当の所は『褒めちぎれ』という意味だったのかもしれない。

 本人も褒められる気持ちで構えていたからこそ、固まってしまっているのだろう。


「くそ……え、えっ? お、おーっほっほっほ……じょ、冗談ですわよね? この私の料理がまさか、ね?」


 分かりやすく動揺するお嬢様。作っている笑顔が強張り始めた。こんな時に失礼かもしれないが……慌てた顔が少し可愛く見える。

 一回言うのも二回言うのも変わらない。俺は選択をミスったかもしれないが、楼王院麗華の為に、心を鬼にして正直に伝えていくことにした。


「いや、これは不味い。庶民の舌からしても唸る不味さですね」

「おほほ……で、ですが、北上椋一? 貴方はお弁当を食べきったではありませんか?」

「まぁ、せっかくの手作り弁当ですから。それに、初めて作った時は俺も上手くは作れませんでしたし……気持ちは分かってあげられます」


 お嬢様の手作り弁当なんてレアな物だ。残すなんてもったいない。

 たしかに不味いのは不味いのだが、食べられない程ではない。可能な限り食材を無駄にしないのが、家の信条でもあるしな。


「しょ、庶民の方は不味い物でも残さずお食べになるのですね……?」


 まだショックを隠しきれてない様子だが、それでも楼王院麗華は気丈に振る舞おうとしている。

 培って来たお嬢様としての気質や品格、優雅さが他のお嬢様とは桁違いなのか、立ち直りは思ったより早い。


「いや、庶民でも残す時は残すからね?」

「では、なぜ……?」

「そりゃ、決まってるでしょう! 女子の手作り料理を残す男なんて居ないって話ですよ、お嬢様」


 キザったらしく決めてはみたものの、自分でも似合わない事をしていると思った。

 俺を知っている人……ケンゾーや千夏あたりが居たとしたらかなり笑われて……いや(わら)われていただろう。らしくない、と。


「なんとまぁ、北上椋一!! あらあらぁ~……貴方、我が屋敷で働く気はありませんこと? 私、えらく貴方に興味がありましてよ?」

「はははっ……せっかくのお誘いですが、ウチもしがない喫茶店をやってるんでね」

「まぁ! それはそれは、是非行ってみたいですわぁ」

「お嬢様の口には合いませんよ。特別な素材とか使ってないですし」


 高級店や有名シェフ、パティシエの作る料理を口にしているお嬢様からすると、俺や母さんの作る品じゃ物足りないと感じるだろう。

 来てくれる事は嬉しいのだが、満足させられないのが分かっているのに呼ぼうとは思えなかった。


「ですが、今日お会いしたのも何かの(えん)と私は思いますの。交流会とは庶民の方の生活に触れる為と聞き及んでおります。差し支えなければ、お店の場所を教えて頂けると嬉しいですわ」


 手を胸の前で祈る様に組み、熱弁してくれている。

 たしかに今日、お嬢様と俺達庶民が出会うのは予定されていた事だ。だがその中で、こうして個人と個人が話すのは偶然であり、運命的だと言えるかもしれない。

 その運命の行き着く先が、恋、友情、宿敵……どこに繋がっているかは分からないが、縁を結ぶのは大切な事だ。

 喫茶店『きたかみ』も、地域の人や仕入れ先のお店との繋がりで成り立っている部分が大きい。母さんもよく、より沢山の人と話なさいと言っていたしな。


「分かりました。ロクなおもてなしは出来ませんが……そうですね、お弁当作りのコツなんかは教えてあげられるかもしれないです」

「まぁ!! それは素敵なお話ですわ! なら、私も何か……菓子折りなんかを持参しなければなりませんわね!」

「いや、喫茶店なんでお金だけで大丈夫ですよ!?」


 楼王院麗華に店の住所……つまりは家の場所を、持っていたメモ帳に書いて渡してあげた。本当に来るのかは分からないが、やると決めたらやるタイプの人に思えるし来そうだな。

 そのやり取りをし終えたタイミングで、五時間目が終わるチャイムが鳴り響いた。

 これ以上の会話を提供できる自信は無かったし、少しホッとした。


「もうそんなに時間が経っていましたのね」

「みたいですね。そうだ、俺はともかく他の生徒に『庶民』というワードを使うのは気を付けてください。格差があるのは分かっていても、惨めな気持ちになる人も居ると思うんで」

「そうだったのですね……申し訳ありません。北上椋一、貴方にも何度か言ってしまってましたわね」

「いや、俺は特に気にしないので大丈夫ですよ。そうだ! 体育館に柏千夏って生徒が居るんですが、そいつとも交流してみてはいかがでしょうか? 俺は、女子の流行についてはさっぱりですから」


 ただご飯を一緒に食べて、少し話していたら半分の時間が終わってしまった。

 女子同士じゃないと分からない話――例えば恋バナや化粧品、ファッションの流行りについてなんかは、男子では務まらない部類の話になる。

 それに、交流会は何度もあるが一回一回はとても貴重だ。もう俺に出来る事はやった気はするし、後は千夏を紹介する事くらいしかない。

 楽しい時間だったが、俺が楼王院麗華を独り占めしていると他の生徒に見付かった時に面倒な予感がしている。特に交流会へ意気込んで来ている男子に見付かったら、物凄い恨みを買ってしまいそうな気もするし。

 楼王院麗華には家の住所だけだが連絡先も渡せたし、惜しむ事は何もない。


「柏千夏様……ですわね。北上椋一、貴方とはどの様な関係なのでしょうか?」

「家が近い幼馴染ってやつですよ。茶髪ロングで少し背が高めで……まぁ、分からなかったら誰かに聞いて。すぐ判るとは思うけど」

「えぇ、分かりましたわ! 少しお話させて貰う事にします。北上椋一、また機会があれば」

「そうですね。また」


 ベンチから離れた楼王院麗華は、綺麗なお辞儀をしてから体育館に向けて歩き出した。お辞儀も、振り返る瞬間も、後ろ姿も、その全てが優雅であった。


 楼王院麗華。十六歳――ギャップ『???』


 今のところ、警戒していたギャップも特には無い。お嬢様でなければと思うが、お嬢様だからこそとも思う。面白い人だった。


「パイセーン! パイセンパイセン!!」


 そして約束通り、休み時間になるとノアちゃんが来てくれた。また少しお菓子を集めてくれたのか、手にはさっきと同様のサイズの袋を持っていた。

 手を振りながら近付いて来るノアちゃんを見て、こんな後輩が学校に居てくれたらとても楽しいだろうと想像する。

 残念ながら、俺には見た目は後輩の先輩しか居ない。

 今度、楓ちゃんに後輩を演じて貰えないか交渉してみるか……。「私は先輩だよッ!?」って、怒られるかもしれないけど。


「ノアちゃん、さっきここに来てくれた人の事を聞いて欲しい」

「おぉ~……あ、パイセンこれお菓子っす。で、どうしたんすか? どなたかとお話になられたっすか?」


 ノアちゃんに隣に座って貰い、楼王院麗華について話してみた。

 するとノアちゃんは……やや青ざめた顔をしていた。


「ろ、楼王院財閥のお嬢様じゃないっすか! パイセン、やべーっすよ!」

「やべー……のか? いや、普通の感じだったけど」

「楼王院財閥が本気出したら私みたいな成り上がりの家なんかピチュンっすよ?」


 あわあわとしだすノアちゃんにつられる様に、俺の心も慌て始めた。気軽に話していたが、やはり無礼過ぎたかもしれない。


「そ、そうなんだ……手作り弁当をクソ不味いとか言っちゃったけど大丈夫かなぁ?」


 楼王院財閥と名前を聞いて、『楼王印』というワードが思い浮かんだ。

 たしか食品関係の超有名企業だったと思う。よくニュースなんかでもその名前は取り上げられていた。

 楼王印の牛乳から楼王印の加工食品、楼王印のお菓子など……かなり手広く食品に関してやっている企業だ。

 どうして楼王院の名前を聞いてピンと来なかったのか、数分前までの自分に問い詰めたい。


「かなりやべーっす! でも流石はパイセンっすね……あの楼王院麗華様と対等に話すとは! 尊敬するっすよ!」

「ノアちゃん。褒めてくれるのは嬉しいけど見て? ほら、急に体が震えてきたんだが?」


 食品関係の大企業のお嬢様が、まさか料理初心者とは思わなかった。

 楼王院麗華は話した感じ真面目な人だ。料理だって練習すればすぐ上達すると思う。けど……うん。かなり失礼な事をいってしまったな。


「武者震いっすか?」

「ノアちゃんこれはね、弱者故の震えだよ。ピチュンされない?」

「パイセン……大丈夫っす! パイセンには私がついてますから! 食べ物の恩は忘れないっす!!」


 俺に元気を取り戻させようとしてくれるノアちゃんに、少しずつ足の震えは止まっていった。

 味方が一人でも居るのならまだ負けてない。相手が大企業だとしてもどうにかなるはずである。


「ノアちゃん!! 何かあったら一緒に楼王院財閥に立ち向かおうね!」

「……。やっぱ無理っすパイセン。我が家では足元にも及ばないっす」

「とても現実!! お金持ちは強いな……」


 どうにかなるはず……そんな訳はなく。失礼な事を言った三倍は褒めないと、俺に明日は無いかもしれない。

 悔しそうな顔を浮かべてくれるノアちゃん。だが、俺の問題をノアちゃんに背負わせる訳にはいかない。昼飯の恩ならこうしてお菓子を持ってきてくれる事で返して貰っているし。

 今後、楼王院グループの食材を積極的に使う約束で許して貰うのも良いかもしれない……あと、シンプル土下座とかな。


「任せておいてノアちゃん。先輩として年下の子に格好悪い姿は見せられないからね」

「で、ではでは! 私の電話番号を教えておくっす! 何かあればすぐ駆け付け……るのは無理かもしれませんが、力になるっすから!」

「おぉ……ノアちゃんケータイ持ってたんだね?」

「はいっす! 家の方針とかで持ってない方が多いっすけど、私は成り上がり組なので持ってるっすよ!」


 ノアちゃんはお嬢様だし現代っ子。スマホを取り出して見せてくれる。

 お嬢様がケータイを所持しているのは、ノアちゃん曰くレアケースみたいだな。普段の連絡はどうしているのか……友達付き合いにケータイが必須な庶民の俺達とはやはり違うのだろう。

 お嬢様ともなると長期休暇時には、手紙でのやり取りをしているのかもしれない。そこにロマンを感じる。


「そっか、でもごめんね。俺達はスマホを持ち込めなくて、持ってきてないんだよね。だからさ、悪いけど紙に書いてくれるかい?」

「はいっす! うふふ、これで私のスマホにもようやく男子が登録される訳っすね! 感無量っす!!」

「いや、俺もまさか初めて会った子と連絡先を交換するとは……何が起こるか分からないもんだな」


 楼王院麗華にも連絡先を教えたが、あれは正しくは住所だ。だからこれが、お嬢様相手に初めての連絡先交換になるだろう。

 それがノアちゃんというのは、何だか嬉しい感じだ。


「書いたっす!」

「ありがとうノアちゃん」

「いえ、こちらこそっすよ! 今日助けてくれたのがパイセンで良かったっす」

「俺も、初めて遭遇したのがノアちゃんで良かったよ」

「そ、そっすか? えへへ……」


 ノアちゃんが書いてくれた電話番号のメモを、ポケットへと大事にしまった。


「そうだ、パイセン。楼王院麗華様を知っているなら、鳳千歳様は知ってるっすか?」

「あぁ、あの二年生代表をやってる……」

「そうっす! 私、寮で同室……あっ、寮の部屋割りは二人一組で基本的には二年生と一年生が同室になるんすよね。寮暮らしはそこまで多く無いっすから、三年生は一人部屋で二年生同士とかはたまにあるっすけど、一年生は基本的に二年生と一緒なんすよ」

「へぇ……部活強豪校みたいだね?」


 俺の例えが正しいかは分からないが、先輩と後輩で同室にするのには何か意味があっての事だろう。

 先輩からいろいろ教えて貰ったり、先輩から雑用を任されたり。後者はあまりお嬢様学校では無さそうな気もするが、先輩から指導してもらう、先輩を見て学ぶ……みたいな事はありえそうだ。


「そんなに厳しくは無いっすよ。先輩としての自覚を持つとか、先輩からいろいろ教えてもらうとか……そんな意味しかないっす。でも、一緒の部屋っすから、自然と仲良くはなるっすけど」

「そかそか。それで……ノアちゃんは鳳千歳と同じ部屋なんだ?」

「そうっす! みんなの憧れである千歳様と一緒なのは幸運だったっす。まぁ、緊張してまだ一緒の部屋に慣れないっすけど」


 入学が四月にあり、約一ヶ月。学校になれるのも大変だろうに、有名な先輩と同室なのは落ち着く暇も無さそうだ。

 完全なイメージではあるけれど、鳳千歳に熱心な眼差しを向ける子も生徒の中には居るだろう。そんな子達からすれば、同室なんて妬みの対象になってもおかしくはない。


「ノアちゃん、嫌がらせとか受けてない? 鳳千歳ファンクラブの子とかに」

「いや、パイセン……流石にそんなクラブは無いっすよ。それに、私が告げ口して千歳様に嫌われたら大変っすからね。別にそんな事はしませんっすけど」


 ノアちゃんの叩き上げられた成り上がり精神は思ったより(したた)からしい。

 陰でコソコソくらいはあるのかもしれないが、イジメを受けていないのであればまだ安心できる。何かあれば、俺の方こそ駆け付けるつもりだ。

 もうノアちゃんは知らない他人では無いし、それに、勝手にだが後輩兼可愛い妹の様に思っている。……一人っ子あるあるだな。


「鳳千歳ってそんなに怖い人なの?」

「んにゃ、ですよ。千歳様は何もしないっす。何もしないからこそ……怖いイメージが付いてしまうっすけど」

「なるほど。たしかに見た感じ完璧過ぎて近寄り難い雰囲気があるよな」

「本当はお茶目な人っすよ? 美味しい紅茶の入れ方も知ってるっすし……あっ! ですです、そーなんです! パイセン助けて欲しいっすよ!! 千歳様、実は――――」


 五時間目と六時間目の間にある休み時間が終わり、俺はノアちゃんの情報を確かめる為にも戻りたくは無いが、体育館へと移動した。


 ◇◇





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