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PVも少しずつ伸びてる!
ありがとうございます!
交流会の説明を受け、要するにパーティ的な事だと理解した。個人個人でグループを形成し、一緒にご飯を食べたりお喋りしたり。
教頭からふんわりと、男子のみで香華瑠の女生徒を誘うのは控えろとお達しがあったのだが……別に、誘わないなら誘わないでも良いらしい。
香華瑠の生徒は少ない。どうしても俺達側から溢れる生徒が出てくる。そういう生徒においては、立ち入り禁止にしていない場所なら自由に敷地内を歩いて良いらしく、割りと自由な交流会みたいだ。
俺がさっき訪れた洋風庭園も、行って良い場所らしい。
ノアちゃんが言っていた様に、俺達が訪れる事により、今日だけ香華瑠の他の学年の生徒が逆に立ち入り禁止になっているらしいけど。
「では、香華瑠女学園二学年の代表から軽く挨拶を行って貰います。鳳さん、前へ」
「――はい」
香華瑠では学年別に代表が存在しているのだろうか。もしくは、二年生だけ別に代表を用意しているのか。
なんとなく後者な気がしている。……それよりも、今は登壇した女子生徒の事だ。あの、黒髪で一番先頭を歩いていたお嬢様だが、どうやら代表らしい。
「皆様、初めまして。私、香華瑠女学園二学年代表を任されております、鳳千歳と申します」
声まで綺麗……というか凛々しい。堂々とした立ち振舞いは、女子だけどとても格好良く見える。
(クールビューティーって感じだな。あれは……完璧過ぎて近寄れないかもしれない)
鳳千歳の挨拶は恙無く終わり、ようやく交流の時間がやってくる。
ただ、ここからは生徒の自主性に任せられており、先生達から指示をされる事はない。マナーとモラルだけは忘れちゃいけないが。
「…………」
「…………」
物音がまったくしない訳では無いが、変わらず静かだ。最初の一歩というのは非常に難しく、みんながみんな、誰かが動くのを待ってしまっている。
その部分に関しては、俺達もお嬢様達も思春期真っ只中という共通点があるのかもしれない。
「椋一、アンタ行きなさいよ」
「残念だな、男子一人では何も出来んのだよ」
「あら? 向こうが言ってたのは男だけの集団で誘うなって事でしょ? 一人で誘う分には問題ないんじゃないかしら……誘えるのならだけど」
千夏の言った事にハッとした。たしかに、盲点だった。
後で冷やかされたり、何か言われるだろうけど、個人ならお嬢様を誘う分には問題は無い。
問題は誰を誘うか、それと……断られた時のダメージが想像を絶するものになるということだ。
それでも誘ってみる価値は、あるかもしれない。
「たしかに、千夏の言う通りだな」
情けない話――ここで一人で立ち上がり、お嬢様の元へ行く勇気なんて俺には無い。普段の俺には。
だが、ノアちゃんと出会った今日の俺はひと味違う。やれば出来るかもしれないという根拠なき自信が体の内側からフツフツと沸き上がっていた。
もし、俺が動く事によって誰かの行動に繋がるのなら……それも悪くないかもしれない。
「千夏、俺行ってくるわ」
「……えっ、ちょ、嘘でしょ!? アンタなんて相手にされないんだから、辞めときなさいよ!!」
――あぁ、そうだろうさ。
俺なんかが一人で行ったところでお嬢様に相手になんかされない。イケイケグループのイケメンが動けば、お嬢様達から黄色い歓声も聞こえてくるかもしれない。
だから俺がするのは、一番最初に立ち上がる事。そこまでだ。
何でもかんでも、イケメンがやってくれた後の道を歩いているだけじゃ、これまでと同じでしかない。ここで成功しようと失敗しようと、やらないよりはこの瞬間に動いた方が、きっとモテモテに近付くだろう。昨日までより、ちょっとくらいは。
「ちょ、本気!?」
俺は椅子から腰を上げ、立ち上がった。
さぞ、注目されるだろう……。そう思ったのは束の間、俺とほぼ同タイミングで立ち上がった生徒がいた。
音が聞こえて来た場所は遠い。彼女の表情は窺い知れないが、視線が一瞬だけ交わった気がした。
彼女と同じタイミングで立ち上がるという、運命のイタズラとでも呼ぶべき行動に出てしまった事で、俺の心は焦っていた。
(や、やや……やってくれたな鳳千歳!! いや、お前が立ったら! 逆に! 俺が恥ずかしい奴みたいになるじゃんか!?)
恥ずかしさで、とてもとても居たたまれない。他の座っている全生徒から見れば、どう映っているだろうか。
彼女は一歩を踏み出せない他の生徒達を鼓舞する為に、率先して自分が立ち上がったのだろう。
俺もそのつもりであった。自分史上とも言える思いきった行動だったのだ。
だが、俺と彼女の立場が……他の人には別の意味を感じさせたに違いない。
――代表である彼女は、不安でいっぱいな他の生徒の為。
――代表でもなんでも無い俺は、自分自身の為。
俺の被害妄想なのかもしれない。鳳千歳への気持ちは八つ当たりに近い。それでも、そう思わないとやってられない程、周囲からの反応が希薄だ。
美人と普通の男という差も含め、俺に向けられている男子からの視線はとても冷たい。
勇気を振り絞った行動が、まさかこんなに恥ずかしい事になるとは思ってもみなかった。
(よし……逃げよっ! 交流するつもりが無い奴と思われたって、もはや構わん!! 逃げるぞ俺は!!)
幸いにして、体育館の出入口に近い席に座っていた。鳳千歳がどんな行動に出るつもりで立ち上がったのかは知らないが、俺は元々外へ行くつもりだった。
ただ静かに、スタスタと皆に背を向けるようにして体育館を出て行った。内心では自分を慰めて強がっているものの……体育館を出るまでは、顔は下を向いたまま上げることは出来なかった。
そして、外に出てすぐに俺は走り出した。
「はぁ……。しばらく一人になりたい気分だわ……」
――立ち入りが許可されている洋風庭園。俺は逃げる様に、ここに戻ってきた。
小さい噴水と色鮮やかな花、ノアちゃんが寝れる程の長椅子。改めてよく観察してみると、とても落ち着ける綺麗な空間だと思った。
この場所で安らげるだけでも、香華瑠に来た甲斐があったと思える。
「あっ、パイセン! もう自由行動になったんすか?」
「あれ……ノアちゃん? 午後の授業は?」
スマホは持ち込めないという話を前もって聞いていた為、今日は家に置いてきていた。
腕時計を使わない主義の俺にとって、スマホは時間を知る大事なツールであり、それが無いとなると、今がまだ昼休みなのか、もう午後の授業の時間なのかが判断がつかない。
近くに時計でもあれば良いのだが……校舎に取り付けられていがちな時計すら見当たらなかった。
「ウチの学園は昼休みがちょっと長いんすよ。……でも、パイセンがすぐに戻って来てくれて助かったっす! これ、どーぞっす!!」
ノアちゃんが渡してきたのは、袋に詰め合わせたお菓子だ。種類の違うお菓子が乱雑に入っていた。
「えっとですね……パイセンのお弁当を食べちったっすから、友達にお菓子を分けて貰って来たんすよ」
「わざわざ戻ってまで? いや、そっか……ありがとうノアちゃん。一年生なのにしっかりしてて、良い子だねぇ」
「じ、自分がパイセンに助けて貰ったんすから、礼は不要っすよ! ……あ、お弁当はさっきのベンチに置いてあるっす」
何だかめちゃくちゃ癒される。つい先程まで荒んでいた心が、ノアちゃんの優しさで浄化していくみたいだ。
まだ時間があるらしいノアちゃんと一緒に、出会った場所であるベンチへと移動した。
そして、俺はノアちゃんを誘ってプチお菓子パーティーを開いた。
「自分は……普通も少しは知っているので他の子ほどでは無いっすが、やっぱり男子についての話は絶えないっすね!」
「お嬢様とはいえ、年頃なのは変わらないのね」
どうやら交流会を来年に控える香華瑠の一年生も、この行事にはもう既に興味津々らしい。ノアちゃんのクラスでも、いろいろと話題に上がっているとの事だ。
きっと、俺達が香華瑠のお嬢様に幻想を抱いている様に、お嬢様方も男子生徒に幻想を抱いているに違いない。
(男はみんな騎士みたいな格好良さを持っている存在――とか、本気で思ってるのかも知れないよな……)
仮にもしそうだとしたら、確かに交流会は必要な事かもしれない。
お嬢様の憧れを壊す結果になろうとも、一般人にそんな人は中々居ないという事を知って貰う必要があるからだ。
俺のゲームによる経験からすると、お嬢様という存在は笑っちゃうくらい騙されやすい。それはおそらく、知識は深いが狭いから。
そう考えてみると、交流会とはよく出来たシステムだと改めて思う。
お互いに知らない世界に触れるというメリットと、現実を知ってしまうというデメリットが一度に味わえるのだから。
「お嬢様ってパーティーとかあるだろうし……婚約者とか居るんだろ? 同年代の男子と知り合わない事なんて無いんじゃないか?」
「パイセン、金持ちボンボンの息子を思い浮かべて欲しいっす。今の時代、家柄だけ見てちゃ駄目なんすよ」
「あー……なるほど。親も慎重にはなるか。金持ちの世界も大変なんだな」
「ですです! ……あっ、そうだパイセン。交流会について自分も話を聞かせて欲しいっすよ」
俺は交流会について、さっきの悲しい出来事も踏まえて主観的な感想を話した。
ノアちゃんが後輩気質なのも理由の一つなのだろうが、いつも以上に先輩風を吹かせてしまっている自分が居る。
太陽の下で雑にお菓子を広げ、ピクニック気分で和気藹々としているのが『俺達側』の普通に近い状態で、ついそんな風に心が開放的になってしまったのだろう。
確かに俺のゲームで培った理想とするお嬢様では無いけれど、お嬢様のはずなのにどこか庶民派なノアちゃんが居てくれた事に、とても感謝している。
「……うぅ、そろそろ時間っす。自分は戻らないといけないっすね」
校舎の方から予鈴が聞こえ、ノアちゃんは残念そうな顔をしながら立ち上がった。
「そうか……まだ聞きたい事は沢山あるんだが、仕方ないな。良かったら次の休み時間も来ない?」
「い、良いんすか!? あっ……でも、せっかく二年生の交流会なのに自分とばかりでは退屈じゃ無いっすか?」
「仮に他の誰かが居たとしても、ノアちゃんは社会的に命の恩人だから遠慮せずに来てくれると嬉しいぞ」
そう伝えると、ノアちゃんは嬉しそうに笑ってくれ、そのまま校舎の方へと走っていった。
楓ちゃんと同じ『人を元気にする笑顔』をノアちゃんも習得しているみたいで、元気で朗らかな部分に思わず笑みが浮かぶ。
交流会の形はどうあれ、これで俺も知識を広げるという交流会の目的を果たした。ノアちゃんが居るのであれば、今後も自分から積極的にお嬢様を誘う必要は無くなった。
この洋風庭園みたいなオシャレな場所がこの学園の敷地内には他にもあるだろうし、学園の景観を楽しむ組として参加していればそれで良さそうだ。
「おーっほっほっほっほ!」
……と思っていながらボーッとしていた矢先。背筋が伸びる。そして冷える。
ノアちゃんが去ってからまだ数分。つい先程、おそらく五時間目の始まりを報せるのチャイムが鳴ったばかりのこのタイミング。
体育館でも既にいろいろと動いているだろう頃に、そんな笑い声が近くから聞こえてきた。
流石はお嬢様学校、笑い方からしてお上品な生徒が数多く居るみたいだ……、なんて思う反面、何故か俺は顔を上げることが出来ないでいた。
その笑い声の主が誰なのか、薄々勘づいていたからかもしれない。きっと、アノ人だろう……と。
だが顔を上げなければならない。その人物は、もう目の前に来ているのだから。
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