陸
ちょい長?です!
あ○森やってたらまったりし過ぎましたね
(´ω`)
では、よろしくお願いします!
数分経って、山神ナースが戻ってきた。
さっきの子を部屋に入れても大丈夫かと問われたが、俺自身何も分かっちゃいない。大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか……。
個人的にはとても会いたいのだが、会ったらまた発作が出てしまうと思う。所謂、ツラタンという状態だ。
「布団を被って顔を会わせなければ……大丈夫かもしれませんが」
「詳しい関係は知らないけどさ、見覚えるくらいには頻繁に来てた子だし……北上君の一目惚れとか考えると、もしかして恋人だったりするんじゃない?」
「こここここココココココッ!?」
「動揺し過ぎじゃない? どういう関係なのか聞いてきてあげようか?」
恋人というのは、つまりアレだ……うん。なんだろう。恋人ってなんだろう。
お互いが好きあってる両者の関係? 契約の無い好き? おかしい……北上椋一なのに恋人に関する情報がほぼほぼ無いゾ。北上椋一なのに。
仮に、俺とさっきの子が付き合ってるとしら……ふむふむ。とても最高なんじゃない? あんなに可愛い子と付き合ってるとか奇跡なんじゃない?
自分で言うのもなんだが、ガラス越しに見る自分の顔はとても平凡。とてもあんなに可愛い子と付き合える顔じゃないと思う。
(……嫌な想像だが、俺があの子の弱味を握ってるのか?)
もし、それで付き合わせているのなら最悪だ。
弱味を握ってまで付き合うくらいなら、正々堂々フラれろとすら思う。自分が悪人だったら……そう考えると寒気すらしてくる。
「あの……今は自分を知りたいんです。だから、部屋に入れてください」
「そ。じゃあ、連れてくるわよ?」
山神ナースが部屋のドアを開ける前に、俺は布団を被ってベッドの側面に腰掛けた。ドアに背を向けて、夕暮れ前の空と、部屋を反射させる窓を見詰める 。
もしかすると、ガラス越しならばドキドキも半減するのではないかという期待も込めてだ。
山神ナースはそのまま部屋を出て行き、入れ替わりに彼女が入ってきた。
「椋一……」
その声を聞いた瞬間、なんて思慮の欠けた浅はかな事を考えていたのかと……自分を殴りたくなった。
昨日今日目覚めた俺と、一ヶ月間眠っていた俺を見てただろう彼女……浮かれてた自分が恥ずかしい。
「良かった……本当に、良かった……」
駆けてきた彼女に、力の限り抱き付かれる。
布団を挟んで無かったらヤバかったかもしれない。意識とは関係なく、心臓がまたドキドキと痛いくらいに高鳴る。
「ぐすっ……椋一、椋一……」
「…………っ」
だが、彼女の咽び泣く悲痛さ――それを思うと痛みなんて気にしている場合じゃなかった。
彼女の涙、嗚咽が止まるまでは痛くとも動いちゃいけない、それだけは分かった。
ただ、それ以外にどうも出来ない自分が不甲斐ない。……なんて声を掛ければ良いのかすら分からないまま、ただただ俯いてしまう。
(もどかしいな。何も知らないのが、もどかしい……)
彼女の泣き声を聞いてるのが辛い。初対面であるはずなのに、心がざわついてしょうがない。
どういう関係だったのだろうか……。
「あの、ごめんなさい」
「……えっ?」
何も分からないけど、何も分からないから、謝らないといけない。
目を覚ました俺の為に涙を流してくれる彼女に対しては、ちゃんと謝らないといけない。
「俺は……君の知る俺じゃない。だから、その……ごめん」
自分でも何を言っているのか分からなくなる。どの立場で謝ってるのか、何に謝っているのか……そもそも謝るのが正解なのか。
それでも、やっぱり彼女の事は何も知らないのだ。今までの俺じゃない事はちゃんと伝えなければならなかった。
今の俺は彼女に一目惚れをしている。けれど、それは現在のことだ。前の俺が築いて来た関係は、全てリセットされてしまったのだ――。
「うん……聞いた。大丈夫。大丈夫よ、椋一。椋一が誰であっても。生きててくれさえすれば……それで、それでね……良いんだよ」
「…………っ」
涙が出そうだ。グッと堪えてみせるけど、ちょっとギリギリだ。
心さえ無ければ、申し訳なさを感じることも、悲しみも痛みも感じることも無く生活できただろう。
でも、心が在るからこそ、こうした嬉しさを知ることが出来た。
心が在るからこそ、たった今、この瞬間を生きたいと思えた。
心があって良かった。記憶は無くとも、心さえあれば俺は俺として生きていける。頑張っていける。
俺の生きる目的は――今、ここで、決めた。
「ありがとう……ございます。生きます。死ぬまで、どうにか、生ききってみせます――」
――貴女の為に。伝えなかったその先の言葉は、自分の中だけで誓った。
彼女には彼女の人生がある。勝手に誓われても迷惑かもしれない。例え、彼女と俺の人生が交わらず平行線だとしても構わない。
だからこれは、俺の為の誓い。一目惚れした相手への一方的な感情。
できれば、ずっと近くに居れる関係になれれば嬉しいけれど……一番大事なのは生きて彼女の笑顔を見ることだ。
「今はちょっとまだ……布団からは出れないけど、早くリハビリ終わらせて面と向かって挨拶させて貰うね」
「そういえば、なんで布団被ってるの? ナースさんは何でもないって言ってたけど……」
「えっと……心の準備? が出来てなくて。ごめん、本当にキミの名前も他の誰も知らないんだ」
この瞬間がツラい。自分を知っている相手に対して「誰ですか?」と言わねばならないこの瞬間が。
相手の表情を読み取ってしまうのも、自分の表情を読み取らせてしまうのもツラい。
その中でも、この子に言うのが一番ツラい気がする。だから、一番のツラい人はこれで終わったと言えるのだが、だからといって全員が終わった訳じゃない。
北上椋一という名前を考えるに、友達が一〇〇人以上居ても不思議じゃない。まだまだ面会に人が来ると思うと……やはり厳しいものがある。
「そっか。私は柏千夏。アンタの……。いや、何でもない」
「何かありそうだけど、何でもないと言うなら聞かない。柏さん……ですね、覚えました」
「……っ。そ、もう忘れんじゃ無いわよ!」
背中を平手で叩かれる。布団があるから痛くは無かった。
彼女は泣いた顔を直してくると言い、部屋から出ていった。
ただ、窓ガラスにはハッキリと映っていた――名前を呼んだ時、一瞬だけとても悲しそうにした彼女の顔が。
「いや、まぁ……ははっ。そりゃ、そうだよな。忘れられて平気な訳は無いよな」
生きててくれて良かったと思う気持ちもあれば、忘れられて悲しい気持ちもある。それは両立できる感情だ。
俺の、彼女を忘れてしまって残念という気持ちと彼女と出会えて嬉しいという感情が両立している様に、心はとても複雑らしい。
どうして彼女を忘れられる事が出来たのか、自分を腹立たしく思えてきた。
(メモしとくか……)
今の自分の嬉しさ、怒り、哀しさ、楽しみを忘れない様にメモ帳に書き記していく。特に彼女と出会った衝撃については、事細かく書いておいた。
柏さんという、自分の生きる理由と定めた人物を書いたメモ帳。恥ずかしいから、よりメモ帳の存在は知られる訳にはいかなくなった。けれど、これさえ持っていればいつだって今日という日を振り返ることが可能だ。
それに……今日だけじゃなく、これからは頻繁にメモを取る予定である。
良いことも悪いことも、その時の自分がどう思って何を考えていたのか残しておけば、いつか将来の自分の為になるかもしれない。迷った時の道標にでもなれば上々だろう。
「う~ん、やっぱりどんな関係なのか聞けばよかったかな?」
誰も居ない部屋で独り言をポツリ。
頭を振って、過ぎたことを追い出しているとガラガラとドアの開く音がした。
「あ、本当に意識戻ったんだ?」
「おわっ!?」
慌ててメモを隠す。ノックも無くドアが開かれて、柏さんかと思いきや、知らない女の子が現れた。
パッと見た容姿は……かなり可愛い。茶髪ロングで先端はゆるふわで、雰囲気の柔らかそうな子だ。喋り方はぽわぽわの真逆って感じだが……。
ただ、とにもかくにも、普通は他人の病室に入る時はノックするのが基本だろう。それくらいは俺にだって分かる。
(んー……という事は逆説的に他人じゃない可能性ある?)
だとしても、遠慮も何もなく彼女はドアを開けて部屋に入るのはどうかと思う。まるで柏さんとは違う。
だからだろうか、見た目だけなら彼女の方が可愛いと言えるかもしれないけど、柏さんの様なドキドキ感はまるで無い。
「あんたねぇ……あたしがどれだけバイトでバタバタしたと思ってんの? そのお陰で全然ゲーム出来てないんですけど?」
「あ、えっ……す、すみません?」
「ま、今のあんたに謝られても仕方ないんだけどね。ママさんから聞いたわよ? まるでギャルゲーの主人公……いえ、この場合はどちらかと言えばヒロインっぽい? いや、一周して主人公?」
ギャルゲー……とても魅力的な言葉が聞こえてきた。たしか、女の子を攻略するゲーム。
一般的には男子がやるゲームという知識だが、この子はギャルゲーで女の子を攻略しているのかな?
「あははー」
とりあえず笑って誤魔化しておく。なんか……見た目とは違って変な子そうだ。
でも、この子から気になるワードは他にもあった――バイト、だ。という事はこの子はバイト仲間というカテゴリーの知り合いになるのだろう。
(あれ、でも……学校に行ってるとも言っていたから同級生でもあるのか?)
バイト、学校、怒ってる――となると、もしかして。
「貴女はもしかして……怒ってるし、新名鈴乃ちゃんという方ですか?」
「別に怒ってな……ちゃん!? ちょっと、それはキモいからやめなさいよ!」
「やっぱり怒ってる! 新名鈴乃ちゃんで合ってる……」
「合ってるけど! ちゃんなんて付けて無かったでしょうがっ!」
そんなの言われてもこちらは初耳だし、母親がそう言っていたからみんなからちゃん付けされているのだとてっきり……。
「えっと……では、新名さん?」
「……。まぁ、今はそれで良いケド」
「……新名ちゃん?」
「違う! あぁ、もう! そういうところは変わってないのね! 心配して損した気分っ!」
「あ、すみません……ご心配お掛けして申し訳ありませんでした。無事に、目が覚めたようです」
「調子狂うわね……。そういえば、千夏ちゃんは? 先に走って行ったけど」
化粧直しに向かった事を伝えると、新名さんの表情はちょっとだけ優しくなった。それの意味するところは分からないが、変な人っぽい新名さんだけど、実は優しい人なのかもしれない。
「じゃ、あたしは千夏ちゃんを探してくるから。もうすぐママさんも来るわ」
「あの!」
「……なによ?」
「柏さんと俺って、どんな関係でした?」
「ふふっ。言わない方が面白そうだから言わなーい」
ヒラヒラと手を振って、意地悪な笑みを浮かべて新名さんは部屋を出ていった。
直接本人だとちょっと聞きづらいから誰かに……と思ったのだが人選を失敗した。ついでに、優しいのか優しくないのかも分からなくなったな。
急いで隠したメモ帳を取り出して、新名鈴乃の情報を更新する。
「髪型はツインテールが似合いそう……っと。これでよし!」
少しすると母親が現れ、柏さんを連れた新名さんも戻ってきた。
屋武先生今後の予定を教えて貰ったらしい母親から、リハビリや検査等で少なくとも三週間程度は入院することを教えて貰った。
学校とか勉強とか、その辺はまず無事に退院してからで良いとの事だ。勉強はともかく、学校の事なんて逆に何を覚えているのかも分からないから考えようも無いけれど、気持ち的に考え事が一つでも減ると楽になる。
「欲しいとかあれば届けるから言ってちょうだいね。スマホは夜更かししがちになるから相談してくださいって言ってたけど」
「アタシが届けるから!」
「えっと……じゃあ、何でも良いので本を。ちっちゃいカレンダーと時計は……スマホがあれば楽ですけど、あると夜更かししちゃいそうですからお願いしたいです」
「…………いや、なんであんたは布団被ってる訳?」
そんなの柏さんが居るからに決まっている。母親と新名さんだけなら何とも無いが、柏さんが居るとやはりまだ厳しい。
ドキドキして全身が締め付けられる様な感覚になる。今の細身だと耐えられないのだ。たぶん、新名さんはそんか感覚に陥った事が無いのだろう……知らないケド。可哀想な人だな、知らないケド。
「じゃあ、お母さん達はそろそろ帰るから……また来るわね」
「ほら、千夏ちゃんも帰ろう……う、動かない!?」
「は、離して鈴乃ちゃん! 私、帰らない!」
「くっ、ママさん! また千夏がおかしくなったけど!」
「今まで一週間以上合わないなんて事無かったしねぇ。母親的には千夏ちゃんが覚醒してくれて嬉しい限りだけど」
「バカ言わないでくださいよ! ほらっ、千夏ちゃん!」
「イヤっ! 今日だけ! 今日だけは泊まる!」
布団を被りながらも騒がしい様子を聞いていた。取り乱した姿すら可愛いとか、柏さんは女神か何かの生まれ変わりかもしれないな。
「どうせまた明日来るんでしょ!? リョウも疲れてるだろうし休ませてあげないと!」
「鈴乃ちゃん……アタシより椋一を分かってる感じ出してない? まさか……」
「すぐ敵対視するのも止めなさいっ! 千夏ちゃんが一番なのはみんなが認めてるんだから」
「椋一ぃぃぃ、また明日来るからねぇぇ~」
「うふふ、覚醒ね」
「情緒不安定を格好よく言わないでくださいよ!」
ドアが開かれて、三人が出ていくのを布団の中から見送った。最後まで顔は出せなかったけど、出さなくて正解だったかもしれない。
たぶん、今顔が赤くなってると思う。また明日も会えるのかと思ったら嬉しくなる。
(そうか、これが……恋なんだな。たぶん)
そう考えると、明日への不安が消えていく気がした。待ち遠しいとすら思う。
消灯時間の少し前までは読書で時間を潰し、消える前はメモ帳に今日のまとめとして思った事を書き連ね、消灯時間に入ると共に眠りに就いた――。
◇◇◇
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