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非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~  作者: じょー
第二章 まだまだ共通ルート
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32


お待たせしました!

なんかこう……雨と晴れを繰り返してたせいで、心が五月病の先取りしてましたね……


ちょい長めです!

よろしくお願いします!



 


 完成したお弁当を一度ちゃんと包み、最初に座っていたテーブルまで運んでいく。これから、無事に完成した事を三人で(しゅく)す会――という名のお昼ご飯だ。

 この時間帯だとまだ他のお客様からの注文あるだろうし、一緒に食事を取る訳にはいかない。だがまぁ、注文が無い時なら一緒に居たって誰も怒るまい。


「スズ、二人に飲み物お願い」

「お客様? しっかり料金は頂きますからね?」

「ケチ」

「あぁん? あんたが千夏ちゃんとかにサービスし過ぎなんでしょうがッ!」

「す、すみません……」


 二人が座っていたテーブルには、最初に時に頼んだ紅茶がある。ストレートや無糖なら食事にも合うだろうが、既にミルクティとなっている。

 それほど甘くない飲み物を用意した方が良いと思ったのだが、スズに先手を打たれ、釘まで刺されてしまった。


「うふふ、北上椋一は尻に敷かれてますのね?」

「そう……ですね、情けないことに。飲み物は別途注文ということで……ま、それはそうとして! どうぞ、食べてください」


 本当はもう少し時間を置いて、冷めてからの方が弁当らしさは出るのだろうが、細かい事は気にしなくていいだろう。

 楼王院麗華の手元には、持参してきた綺麗な装飾のある黒のお弁当箱。鳳千歳の手元には、俺が用意した中サイズのお弁当箱が二つ。

 二人とも中身は知っている筈なのに、それでも表情はワクワクとした楽しみの感情を浮かべている。


「では、開けますわ!」


 ――前回は、弁当箱に対して中身がスカスカで大変な事になっていた楼王院麗華のお弁当。だが、今回は多少の揺れでは形が変わることの無いぐらいしっかりと敷き詰められている。

 彩りも良いし、お弁当の見た目……第一段階はクリアだ。


「完璧ですわぁ! 北上椋一、鳳千歳、見てくださいまし!」

「はいはい、先程も見ましたけど……綺麗に作れてますね」

「お見事ですね、麗華さん」


 同じく弁当を広げる鳳千歳の、量こそ少ないが、中身はピクニック弁当として作ったお弁当もとても美味しそうに見えた。

 楼王院麗華は、わざわざ護衛の南さんを呼んでまで写真を撮るくらい喜んでいる。それに追随して俺も、鳳千歳も、お弁当の写真を撮っておいた。思い出の一頁(いちぺーじ)にでもなれば交流会の意味が大きくなるしな。


「ささっ、食べてこそお弁当ですから」

「北上椋一は何か食べませんの?」

「この時間帯は少しだけお客様が増えますからね、もう少し減ったら食べますよ」

「ご一緒出来ましたら良かったのですが……仕方ありませんわね」

「遠慮なく。あー……えっと、俺はスズの(まかな)い昼御飯を作るので席を離れますね」


 これ以上一緒に居ても二人が食べづらくなるだけと思い、席を離れる事にした。

 スズの昼飯を作らないといけないのは本当で、スムーズに立ち去る丁度良い理由が転がっていたのは運が良かった。そのままカウンターの裏に向かい、スマホゲーで対戦相手に悪態を吐いているスズに話し掛けた。


「スズ、昼はなに食べる?」

「あぁん? 今、クソみたいな舐めプされた上に負けて煽られてムカついているからカルシュウム摂取できそうなものにして。じゃないとあたしがあたしじゃなくなっていくッッ!!」

「……お、おう。カルボナーラとかで良いな?」

「ドリンクはハニーミルクで糖分も摂らないともうダメだー。リョウ、なる早で頼むわよ!」


 普通のお店ならサボりで即刻クビを言い渡されてもおかしくない態度ではあるが、ウチは家族経営だし接客さえちゃんとやってくれればとやかくは言わない。

 例え、ゲームに勝てなくてやや荒れた性格に変貌していたとしても、やる事さえやってくれれば。


(お会計の時とか態度悪くしないよな……?)


 よくゲームをやっているスズだが、その実力の程は……どうも微妙らしい。勝って機嫌が良い時よりも、負けてプンスカしている時の方が俺の統計では多いしな。


「そだ。失敗したけど味は悪くないだろうし……卵焼きは俺とスズで処理しとこうかな」


 早速調理場へと戻って、賄い飯を作る。オーダーのあったハニーミルクとちょっと焦げた卵焼きも付けて、置いておく。


「空いてる席……あちゃー、どこも他のお客様と近くなるなぁ。これは二階で食べて貰うのが無難かな」


 スズを呼んで、料理を持ったまま二階に行って貰う。

 いつもは空いてる席で食べているのだが、それでも、なるべく隣の席にお客様が居る状況は避けるようにしていた。

 それが二人の間で、暗黙の了解となっている。お客様も隣に店員が居たら嫌だろうからな。

 とりあえずスズがご飯を食べている時間は、入れ替わりで俺がカウンター裏に座り店番をする。


(この席ももう……スズの特等席みたくなってきたよな。自分が座ってると変な感じだ)


 カウンターから見る店内より、調理場からみる方が増えてきた。休日の三〇分程度しかここに座らなくなってきて、うっすらと感慨深さすら覚える。

 最近、心做しか来客数増えて来ている気がするし、スズを雇った影響が出始めているのかもしれない。主に男性客が増えているしな。


(……その分、母さんが夜しかお店に顔を出さなくなったんだけどな。まぁ、買い出しは行ってくれるし良いんだけど)


 さて、と。俺はカウンター裏に常備してあるゲーム機を起動させて周囲に意識を散りばめながら、スズが戻ってくるまでゲームに興じることにした。

 多少お客様が増えたところで、暇がちょびっと忙しくなった程度だからな。



 ◇◇



「スマホだと回線次第で速度変わるし、実力とは言えないわよね」

「そうだな?」


 スズが負けに負け越して、ついに悟りの域に達したみたいだ。適当に相槌を打って、自分の昼飯を作りに調理場へと向かった。

 とは言え、俺の昼飯はカップ麺と失敗した卵焼き。卵焼きが付いているだけ、いつもよりは豪華なメニューだ。


「そだ、楓ちゃんに聞きたい事があったんだ」


 お湯を入れたカップ麺と卵焼きを二階に持っていき、三分を待つ間に楓ちゃんに電話をする事にした。


 プルルルルルル――。


『もしもし、りょーいち君?』

『あ、もしもし楓ちゃんですか? 今、大丈夫ですかね?』

『大丈夫だよ? どうしたの? あと、ちゃん付けしちゃダメでしょ! 先輩だよっ!?』


 俺は楓ちゃんに、聞きたい事があったのだ――それは、女の子と仲良くするにはどうすれば良いのか。という事を。

 交流会に参加しているメンバーと追加でケンゾーが、同年代で交流関係のある人達だ。そのほとんどが女子である。いろいろと目を瞑り、その事実だけを見ていれば最高の状況にある。

 だが、そこで問題になってくるのが、俺のギャルゲー知識だけでは仲良くなる為の知恵をカバーしきれないという事だ。

 ある程度の傾向と対策は練れるものの、今のままでは細かい心情の変化に気付けず、気遣いすらロクに出来ていない。


 それは女子が多い状況下では良くないと思っている。『察せる男北上椋一』の二つ名が偽りになってしまう。

 だから楓ちゃんに相談なのだ。理由は唯一の先輩だから……という事ではもちろんなく、少女漫画を読んでいると前に聞いたことがあったからだ。

 少女漫画は、女子の思考を読み取るには手っ取り早い手段だ。全て正しい訳では無いだろうけど概ね正しくあり……つまり、それを読んでいる楓ちゃんは女子の中の女子であり、無敵という理屈だ。


『えっとですね……交流会のメンバーって女子が多いじゃないですか』

『りょーいち君以外はそうだもんね!』

『……えぇ、まぁ。それで、ですね? 女子とどうしたら仲良くなれるのか、と思いまして。先輩の中の先輩である楓ちゃんにしか聞けない相談なんですよね』

『先輩の中の先輩ッッ!? ま、任せて! 何でも教えてあげちゃうんだからっ!』


『助かります。では早速……あのですね、今日来てるのが鳳千歳さんと楼王院麗華さんなんですよ。苦手とかじゃないんですけど……どうも取っ掛かりというか、踏み込めなくてですね……』


 今日感じた事を素直に相談してみる。

 ノアちゃんや楓ちゃんみたいに向こうから来てくれるカワイイ系の子なら、どうにかこうにか対応は出来るつもりだ。

 ただ、今日の二人は大人っぽい二人である。だから俺も――出来てるかどうかは置いておいて――大人っぽく振る舞わないといけない気がしていた。

 結果として、それによって距離が縮まってるのかは微妙だ。だからと言って逆の事をして上手くいくという保証も無い。

 鳳千歳の事情や楼王院麗華の事情を理解しつつ、どう親睦を深めていけば良いのか、俺にはアイデアが出てこないままなのだ。


『なぁーんだ、簡単なことだよワトソン君!』


 だが楓ちゃんは、名探偵ばりのスピードでそれを簡単だと言って退()けた。


『簡単……なんですか? だとしたら世の男子が困ってないと思うんですけど……』

『んふふ~、りょーいち君はさ! 幼馴染の千夏ちゃんとか居たのに、全然女の子の心が解ってないんだねぇ』

『す、すみません……? で、でもですね? 千夏はずっと男っぽい性格でしたよ?』

『きぃ~ッ! 先輩はガッカリだよりょーいち君! ここまで恋愛の偏差値が低いとは思わなかったんだよ!』


 何だか楓ちゃんに恋愛について語られると変な気分になってくる。もちろんイヤらしい意味ではなくて、不思議な感覚という意味だ。

 なんとなく、本当になんとなくだが、楓ちゃんには恋とか愛とかを語るよりも、恋やファッションに『憧れを持っている状態』で居て欲しい。と勝手にそう思っている。

 手を出して触れてみたいけど、怖がって見ている事しか出来ないみたいな。

 勝手な妄言だが、それくらい楓ちゃんが恋愛マスター感を出しているのが不思議なのだ。ただ、アドバイスは欲しいから黙っておくけど――。


『そんなりょーいち君に分かりやすく、結論から言ってあげるとね? 女の子は……自分だけの王子様を待ってるんだよ!』


 俺の心が物凄くポワポワとしていた。楓ちゃんが楓ちゃんであった事に、とても安心している。

 年齢的に歳上の楓ちゃんだし、話の流れから本当にタメになるアドバイスを貰えるかもと期待もしたが……楓ちゃんの回答に、俺は一種の満足感を得ていた。


『あははっ。楓ちゃん、ありがとうございました』

『なんのお礼!? まだ話はこれからだよっ!』


『――コホン。あのね、りょーいち君。ドラマチックな展開とか、大どんでん返しとかさ、普通に生活してると無いでしょ? だから人は無いモノに憧れを抱いてしまう生き物なんだって』

『たしかにまぁ、無い物ねだりはしがちかも……しれませんね』


 ある日不思議な能力に目覚めるとか、格好良い台詞をいつか使いたいから隠していたり。

 あり得ないからこそ、そこに抱いてしまう感情はたしかに、ある。理解も出来る。


『そそ。つまりそれはね、女の子も同じなんだよ。りょーいち君は、女の子にとっての王子様ってどんな人だと思う?』

『王子様……ですか? えっと……』


 王子様……であれば、優雅で聡明でカリスマ性もあって金持ち。どうしようも無いタイプの王子も居るだろうが、基本的には完璧で隙が無く、イケメンでキザなイメージだ。

 これもあくまで、誰かが創造した王子様のイメージの集合体。一応は考えてみたが、どうも楓ちゃんの質問の答えとしてはしっくり来ない。当たっていない気がする。


 実際――当たっていなかった。


『正解は――よき理解者(・・・・・)、だよ』

『……王子様のイコールが、理解者?』


『イコールとは言い切れないけれどね! 普通に生活していて本物の王子様と出会うなんてほぼ無いでしょ? 女の子だってそれくらいは分かってるよ。だからこそ、自分の中に理想の王子様を作り上げるの。つまりは異性に対する自分の好みの結晶だね! りょーいち君のやってるゲーム? と似た感じじゃないかなぁ? ゲームのことはよく分かんないけどね!』

『なるほど……。自分だけの、とはそういう意味でしたか。理解者……理解者か』


 何度かリフレインさせて、楓ちゃんの言わんとする部分を頭の中で噛み砕いて理解していく。

 つまりは、理解者だから王子様と表現しているだけなのだろう。本物の王子様のイメージがどうこうの話は、特に関係無く、必要なのは女子から見る王子様という概念的な部分なのだろう。


『何はともあれ、格好良さは必要そうですね……』

『ううん、それが絶対とは言えないかなぁ。好みは千差万別。だから王子様という言葉を使ったんだけど、当然、その姿はその人によりけり。つまりはね? 理解者になれるかどうかが、女の子と仲良くなるポイントなんだよ~』


 王子様になる為に必要なもの――楓ちゃんは優しいから見た目の事をあまり言わないが、清潔感は大事だとよく見る。

 言動や性格、体型……直せる事と直せない部分。出来ることからやっていく必要はありそうだ。


『理解者……。言葉だけだと簡単にも思えますけど、王子様にならないといけないのかと考えると、かなり難しそうですよね』

『そうだねぇ。理解されたいのに、簡単に理解されるとそれはそれで……って感じに女の子はなるからねぇ。難しいねぇ、難しいんだよー……』

『楓ちゃんには居たりするんですか? よき理解者が』

『うん、居るよ!』


 なん、だと……。思わずスマホを持っていた手から力が抜けて、床に落としてしまう。驚き過ぎて握力が瞬間的に無くなったらしい。

 期待していた回答と真逆が出て来て、スマホを耳に当て直しても言葉に詰まる。

 かなり為になる話を聞いたから、冗談半分で聞いてみた質問だったのに……心臓がキュッと痛くなった。


『だ、大丈夫? 落とした?』

『す、すみません! 大丈夫です。大丈夫じゃないですが、大丈夫です』


『……ん? それでね、えっとねぇ! 私の理解者でしょ? ――まずはねぇ、やっぱり妹かなぁ~』


 また、手から力が抜けてスマホを床に落とす。今度はただの脱力感によるものだ。


(あれ、まさか質問の意図が通じてなかった?)


『お父さんとお母さんでしょ? あとは……りょーいち君もだね!』

『お、俺もですか?』

『うんっ! なんたって私は常連だし、いつものって言えば注文出来るもんね!』

『あ、あぁ……そういう事ですね。そういう事ですか』


 さっき語っていた事に当て嵌めて質問をしたつもりだったが、楓ちゃんはどうしてか、理解者をただの理解してくれている人として例を出して来ている。


(もしかしてさっきまで語ってくれてたのは……別人? いや、そんなタイミングは無かったし楓ちゃん本人なんだろうが……)


『えっとえっと……次のページ。それでね、りょーいち君! 女の子はとにかく難しいから!』

『あ、はい?』

『あと、繊細!』

『は、はぁ……』

『んーと、あとは何があったかなぁー……』


 ペラ、ペラ、と何かを捲る音が微かに聞こえてくる。もしかして……そう思ったが、何も言わない事にした。何にも気付かない事にした。

 見た目は決して人に頼られる姿をしている訳ではないのに、楓ちゃんはいつだって頼りになる。

 理想としては一方的に俺が世話を焼いてあげたいけれど……意外なギャップで、楓ちゃんはしっかり者だ。俺の中では、先輩の中の先輩という位置にある。もちろん、保護対象の位置付けもしているが。


『要すると、理解者になるには一緒に時間を過ごした方が良いという事ですね?』

『……そう! つまりはそういう事なんだなぁ~! 流石はりょーいち君だね、理解力が凄いね!』

『いえいえ、楓ちゃんが教えてくれたからですよ。助かりました、なんとなく女子に対しての意識が変わった気もします』

『楓さん(・・)だけどね? ま、それなら良かったよ。頑張ってね、りょーいち君!』


 楓ちゃんからの激励と、電話を切る直前にある提案を受け取って楓ちゃんとの通話を終わりにした。

 昼飯に用意したカップ麺は少し伸びてしまったが、個人的にはこのくらいが丁度良い。

 胃に麺を掻き込んで、急いで食べ終える。それから、ドラマにハマっている母さんに店の売上状況を軽く報告してから、俺は一階の仕事場へと戻って行った。

 楓ちゃんのアドバイスを身に纏い、無敵状態になった俺は早速楼王院麗華と鳳千歳の二人が座る席へと向かった――。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


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