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くっ……昨日投稿間に合わなかったッッ!
寝ちゃったッッ!くっ
ということで少し長めです。よろしくお願いします!
「北上椋一、あなた私との約束を当然覚えていますわね?」
「…………もちろん!」
「間(笑)」
スズがギリギリ聞こえる声量で、意味のある一文字だけ発した。
たしかに約束と言われて何もピンと来ていない状況だが、ウキウキと話し出した楼王院麗華に向けて「覚えてません」なんて非情な台詞を俺は吐けなかった。
もちろん、嘘は良くない。それは分かっている。だが、時として――楼王院麗華がウキウキと話している時は、基本的に全肯定するのが俺の中で暗黙のルールとなっている。
スズの余計な一言が無くとも、おそらく千夏なら俺が何も思い出していない事にすぐに気が付くだろう。
だが、お嬢様達はそんな邪推をするタイプじゃないし……きっと……。
(あれ、純粋だからなおさら……嘘が心苦しいゾ?)
疑いの無い綺麗な瞳が向けられている。
小さな嘘ですらお嬢様の心を深く傷付いてしまうのではないかと、俺が不安な気持ちになっていく。
いつの間に俺は純粋な心を失い『嘘には使っても大丈夫な嘘がある』なんて斜に構えた事を思うようになったのか。
嘘を吐いて良いことがあったか。悪いことに比べ、果たして良い状況になる事の方が多かったか――無いに決まっている。
相手を気遣う『良い嘘』ですら、相手が事実を知ってしまった途端に冷める。そして醒める。
「……っ。ごめん! 本当は、何の約束か分かってない。香華瑠で会った時に何かを約束したってのは、なんとなく覚えているけど」
「あらあら、そうでございましたか。口約束ですしそういう事もあるでございましょうね。お気になさらないでくださいな」
「いや、でも……いや、うん。その約束、教えて貰っても良いかな?」
「もちろんですわ! 大事なのは、その約束を無かったことにしない事だと思いますの。北上椋一、そこの段ボールを開けてくださるかしら?」
言われた通りに、段ボールの蓋を開ける。
中に入っていたのは、一目見て分かる程に瑞々しい野菜。それとパック詰めされた高そうなお肉。
段ボールの中身は、料理に使う食材だった。段ボールの別の面を見れば堂々と……いやデカデカと楼王院印が刻印されていた。
食料品を扱う最大手の企業、それが楼王院家というのを思い出した。高級品から一般家庭用まで様々に取り扱っていて、ウチの喫茶店で使う物も楼王院印の食材が結構ある。
もう、日常過ぎて逆に楼王院という名前に違和感を覚えない程だ。
(食材……交流会……お弁当……――あぁッ!! 思い出したぞっ! お弁当作りを失敗した楼王院麗華に作り方を教える約束をしたんだった!)
頭の中に散らばっていた欠片の点と点が繋がって、二週間前の記憶を呼び起こした。
大きいお弁当に少量の中身。運ぶ際に混ざってしまい、見た目が残念になってしまった楼王院麗華の自作お弁当。あまりにも悲しすぎるので、ついつい約束をしてしまったのだった。
「思い出した……お弁当、ですよね?」
「はいっ! ぜひご教授お願い致しますわ」
「庶民の味で良ければですけどね……ははは。鳳千歳さん、そういう訳で今日はお弁当作りをやろうと思うけど……一緒にどうですか?」
「一緒に……。は、はい! 私もお料理には自信が無いので、椋一様にイチから教えて貰えるなら嬉しい限りです」
反対意見が無く、本日の交流会のテーマが『お料理』に決まった。
料理といえば、友里乃さんからスズが作れる様に教えてあげて欲しいと頼まれている。ただまぁ、出勤日に少しずつ出来ることを増やしているし、今回のは不参加でも大丈夫だろう。
それに、お客様がいつ来るかも分からないし、フロアに人が居ないというのは極力避けたい状況だ。
「じゃあ、まずは――」
調理場に立つ為に必要な事かある。その最たるものは――『衛生』だ。
二人の服装は外を歩くには良いけれど、調理場に立つには相応しくない。だから、もっとラフな格好に着替えて貰う必要がある。
(というか! 汚したらかなり高く付くだろう……それが一番怖い)
――とはいえ、特に、鳳千歳は着替えの用意など持ってはいないだろう。
楼王院麗華はもしかしたら……あるかもしれないが。
「楼王院麗華さん。流石にお召し物を汚す訳にはいかないので……もっとラフな格好とか、用意出来ませんか?」
「なるほど」
パンッ! パンッ!
カランコロン。
またも召喚されるSP。月収がかなり気になるところだ。
仮に、高給取りだとしても命の危険があるのなら、俺にその道は無理だと思う。流石に怖いし。
「申し訳ありません麗華お嬢様。着替えはお嬢様の分しかご用意しておりません」
「そう。では、至急鳳千歳の分も用意……」
「あの! あ、いや、その、すみません……無いならこちらで服を用意します……よ?」
おずおずと割り込ませて貰い、提案してみる。
料理の流れになった時、既にエプロンや着替えをどうしようかと考えていた。だから、元より用意出来ない事を想定はしていた。
ただ、楼王院麗華の拍手で何でも用意出来るんじゃないか――と気になったから聞いてみたに過ぎない。
「まぁ! それはもしや、Tシャツという物ですか?」
「え? ……まぁ、そうですね。鳳千歳さんにはTシャツとエプロンを着て貰います」
「ズルいですわ! ズルいですわ! 南、私もTシャツを着てみたいですわぁ!」
「お、お嬢様……っ。ですが、奥さまが服装には厳しく……」
(まさか……着たことが無いのか? Tシャツを? いや、流石に……)
会話を聞く限りはそう、だ。でも、流石にお嬢様とはいえTシャツを着たことが無い人が居るなんて庶民の俺からすると全く考えられなかった。
楼王院麗華の興奮具合を見ると、本当に着たことは無いのだろえが……。
鳳千歳に目を向けてみる――。
「Tシャツ……どんな着心地なのでしょう……ノアが良く部屋で着ているアレですよね……」
(すぅぅぅぅぅぅぅごく、目をキラキラさせてますネっ!)
逆に普段着として何を着ているのか気になってくる。寝るまで綺麗な洋服を着て、寝るときはパジャマに着替える生活だろうか。
俺達庶民で言うところの、学校から帰って来て制服から外行きの服に着替える……みたいな。
ラフな格好が既にラフじゃないとすると、ラフの概念が庶民とお嬢様ではもはや別物。これが価値観のズレ……というか育ちの違いなのだろう。
俺は安心を求め、少し席を外してスズの元へと向かった。
「なぁスズ。スズって、家だとTシャツとかだろ?」
「はぁ? 何よその質問」
「いや……お嬢様はTシャツを着ないらしい。ノアちゃんは着るみたいだけど」
「そ。まぁ、家だと普通にTシャツの時が多いかな? 誰に見せる訳でも無いし」
「ははっ。スズは恋より仕事とゲームだもんな」
「うふふ。リョウ? そういうのは自分で言うのは良いけど、他人に言われると無性に腹が立ってくるの。知ってた? ん?」
お互いに笑顔を見せて――俺の方は張り付いた笑顔を解けなくて――それなりに和やかなムードでやり取りをする。
とりあえず女子が普段着としてTシャツを着るのはおかしくないという事を確認できた。早々に撤退しよう。
(それより……。お嬢様にTシャツを気軽に貸して良いものか迷うな)
俺の持っているTシャツは、特に何の変哲も無い白に漢字が書かれている……所謂『文字Tシャツ』という物だ。
どうせ家でしか着ないと思っていたから、つい文字Tばかりを集めて逆に普通のTシャツが少ないという有り様である。それが格好良いと思って買った訳では無い。むしろ、ちょいダサいとすら思っている。
それでも、書かれている文字に不思議とパワーを貰える気がして買ってしまう。ちなみに、一番新しいのは『夢限』と書かれたTシャツだ。『無限』ではなくて『夢限』なのが、狙いすぎてちょいダサポイントだ。
こうなるともはや、ジャージを貸した方が良いのかもしれないけど、それはそれで庶民ジャージとして変に意識されるかもしれないから難しい。お嬢様……外向けのマナーが厳しそうで大変だ。
「南、お母様には黙っててくださいな。この場限りの事にしますので」
「しかし……」
「南。これも社会勉強ですわ。Tシャツも知らない私とTシャツを知る私……どちらが優れた人物か言うまでもないでしょう?」
「はぁ……。お嬢様、少々お待ち下さい」
言葉の論争が止まったかと思えば、SPが俺の方に向かってくる。ただ歩いているだけなのに、これから怒られるのでは? という威圧感を感じてしまう。
「な、なにか粗相でもしましたでしょうか……」
「まずは挨拶をしておこう。私の名前は南半次郎という。麗華お嬢様の警護が仕事だ」
「あ、はい。えっと……俺、いや私の名前は――」
「必要ない。キミの事は既に調べてあるからな。特に害がある訳じゃないことも。だからこそ、お嬢様の我が儘を聞いている」
この人の堅苦しい感じは、真面目が故に出てしまう雰囲気かもしれない。
話してみれば、怖いという印象から真面目で丁寧な大人の男性という印象に変わっていく。それでも怖い雰囲気が完全に消えた訳では無いが、幾らかマシに思えてくる。
丁寧に接すれば丁寧に返ってくる。つまり、礼儀を欠く子供と認識されれば……終わりになるという事だ。何が終わるのかと言えば……この非公式交流会そのものが終わってしまう。
南さんから楼王院麗華の親御さんへ、俺の印象が伝われば今後彼女が参加出来る可能性が極端に低くなり……来なくなれば、交流会の雰囲気は間違いなく暗くなる。
一人欠けてしまうというのは、一人欠けたという事実以上に周りに影響が出てしまう。
(き、気が抜けないぞ……これは。非公式交流会には三人ものお嬢様が参加しているってのに……ひーひーふぅー)
「北上椋一君。キミは……お嬢様をどうするつもりだ」
「どう、する……」
それは問いなのか、既に否定しているのか。淡々とした声だけでは判断が難しい。
答えても正解があるのか、そもそもないのかすら怪しい。
曖昧な質問を前に、考えが纏まらない。何を言っても間違っていそうで、伝え様としても喉元で言葉が消えていく。
楼王院麗華をいったいどうするつもりなのか――それは、社会的にも影響力のある大企業のご令嬢に、俺がどんな影響を与えてしまうのかという事。そう解釈も出来るだろう。
善か悪か。悪は当然として、善ですら庶民の価値観の範疇の話でしかない。
どちらにせよ、何をするにせよ……アウトな気がする。
試されてる……のだろうか? 南半次郎さんに、今ここで。
「どうすると言いますか……」
あ、ヤバイ。表情が曇った気がする。
サングラスで目は見えていないけど、全体の雰囲気が駄目な方向へ傾いた気がする。
(どうするつもりとか聞かれてもッ! そんなの知らん! 知らんし! 知らないけど! そもそも――)
まだ出会ってから間もない俺にどうこう出来る人物じゃない。楼王院麗華の印象は、良くも悪くも『我』が強い。そんな人だ。
だからどうするつもりも無ければ、どうにか出来るはずもない。
「きっと、楼王院麗華は誰かに流されたりはしない。……と、思ったり思わなかったりですかね? ははは……」
「……そう、か。分かった」
南さんは俺に背を向けて、楼王院麗華に何かを伝え……そのまま店を出て行った。
何だか今頃になって変な汗が額に浮かんでくる。緊張が解けた証だろうか?
「北上椋一! 南がTシャツを着て良いと許可をくださいましたわ! 北上椋一が話を付けてくださったのかしら?」
「どうなんでしょう……ね。ギリギリ及第点? とかなら良かったですけど」
「……良くは分かりませんが、南は少し楽しそうでしたわ! さ、早く着替えに参りましょう! ほら、鳳千歳も」
「麗華さん、とても楽しそうですね」
「貴女だって、学校じゃそんな笑顔になること少ないでしょう? 私以上に楽しんでるのではないですか?」
自分の顔を触って確認する鳳千歳。楼王院麗華に言われたのが意外だったのか、少し驚いている。
確かに口数はノアちゃんが居る時よりは少ない。それは俺も気付いていた。
だから……少し退屈なんじゃないかと思っていたけれど、楼王院麗華は気付いていたらしい。学校とは違う、鳳千歳の表情に。
(さて、着替えだけど……上は決まったとして、下はスウェットとかジャージとかで良いのかな? それともジーンズか?)
鳳千歳は上下で着脱可能な制服だから最悪は着替えないで大丈夫としても、楼王院麗華は服装的に上だけ着替えるという訳にはいかない。
上はTシャツ、下は無し……なんてロマン溢れる装いになれば、流石に南さんから銃で撃ち抜かれそうだ。何にせよ……ウロウロしても大丈夫な格好かを自覚して登場して貰わなければ、いろいろ危険そうだ。
文字Tは白ばかり、透けたりする可能性は否定できないし……。
「――ということで、悪いスズ。二人をラフな格好にコーディネートしてやって欲しい」
「どういうことよ……。なんの仕事なの、それ? リョウが服を用意して、あとは自分で着替えさせれば良いでしょ?」
「ごもっともだ。でも、命が懸かってるからっ! 着替えひとつにしても俺の命が懸かってるからっ!」
「き、キモい熱量ね……一周してキモいわ。はぁ……じゃあ、一枚で良いわよ」
「交渉成立だな」
一枚。ソレを自分のスマホを操作してスズに送る。
チャットアプリの連絡先を交換したが、バイトに出るか否かの質問やこんなやり取りしかしていない。
女子の連絡先を手に入れたら、もっと、どうでも良い話とかに花を咲かせられるかと思っていたのに。……蓋を開ければ事務的な会話しかしていない。
千夏は用があれば直接来るし、楓ちゃんは電話の方が好きみたいで……今はノアちゃんが、俺のどうでも良い会話の相手をたまにしてくれているぐらいだ。とても優しい子だ。
鳳千歳は……何故か全く電話とか掛かってこない。理由は不明だ。
「うひょー! はぁ……楓様ァ……尊い……死ねる……」
「……キモい熱量だな。じゃあ、二人はスズに付いていって着替えて来てくれ。その間に調理場の準備をしておく」
三人が部屋へと上がって行ったのを見送り、俺は調理場に楼王院印の段ボールを運び入れた。
そして、今から作る『お弁当』。その情報を、二人の前で恥をかかない程度にネットでかき集め始めた――。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




